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日本の大腸内視鏡治療では大腸がんは防げない!?「クリーンコロン」の導入を ~ 堀内朗先生イグ・ノーベル賞受賞記念講演会②
2019/3/8
大腸がんによる死を防ぐには、まず大腸内視鏡検査を受けることが大切です。しかしさらに堀内先生は、「検査だけじゃなく、“クリーンコロン”の状態にすることが非常に重要」といいます。
この“クリーンコロン”とは何なのか、現在の日本の大腸内視鏡治療の課題とともにお伝えしていきます。
いまの日本の大腸内視鏡治療では、大腸がんは防げない!?
がんで亡くなる女性のうち、いま最も多いのが大腸がんによる死。この大腸がん死を防ぐために重要なのが、定期的な大腸内視鏡検査、そして大腸ポリープの摘出です。
しかし、現行の日本の大腸内視鏡治療のガイドライン「5mm以下のポリープは経過観察」では、大腸がんを完全に防ぐことはできないと堀内先生はいいます。
アメリカでは大腸がん患者・死者が減少。一方、なぜ日本では増えている?
そもそも日本人の大腸がん患者の増加は、食生活の欧米化によるものといわれています。実際アメリカでも、かつて大腸がん患者が急増した時代がありました。しかし現在、アメリカでの大腸がん患者や死者はどんどん減ってきています。
しかし日本は、大腸内視鏡検査や便潜血検査を実施しているにも関わらず、大腸がんの患者数や死亡数は増え続けており、2018年の大腸がん罹患数は男女合わせて152,100人、死亡数は53,500人と予測されています。いったいなぜ、このような差が生まれたのでしょうか。
アメリカでは「クリーンコロン」を実施
アメリカでは大腸がん患者が増加した2000年代、「50歳になったら大腸内視鏡検査を受けてポリープを取ろう」というクリーンコロンキャンペーンを実施しました。
コロンとは大腸のことで、つまりクリーンコロンとは「大腸をきれいにする」、突き詰めると「大腸ポリープはすべて切除する」ことを意味します。5mm以下のポリープは経過観察する日本とは大きく異なる取り組みで、このキャンペーンによってアメリカの大腸がん死亡率は2010年代から減少しました。
そもそも大腸がんの多くは元々小さかったポリープががん化したもので、良性と診断されても後に悪性化する場合もあります。しかしクリーンコロンは、「大腸ポリープ※ががん化する前にすべて取ってしまおう」という考え方。堀内先生はアメリカの研究結果より「クリーンコロンをすれば、大腸がん死亡率を53%抑制できる」といいます。
※但しS状結腸直腸の過形成ポリープを除く
便潜血検査だけでは、大腸がんの早期発見は難しい
大腸がんの検診といえば日本では便潜血検査を行うのが一般的ですが、実は「便潜血が陰性=大腸がんがない」とは限りません。進行がんであれば陽性判定が出ることが多いものの、早期のがんでは40%程度と言われています。
「いまの日本のやり方では、大腸内視鏡検査の推奨度が低いですよね。それに便潜血の検査が陽性でも、なかなか大腸内視鏡検査を受けない。私としてはやはり、アメリカの方式を導入すべきじゃないかと思うんです」と現状の課題を指摘します。
なぜ日本では5mm以下のポリープは取らないのか?
ではなぜ日本では5mm以下のポリープを切除しないのかというと、「がん化する可能性が低いとされているから」、また「切除によって穿孔や出血のリスクがあるから」です。
しかし前者については徐々に巨大化しがん化する可能性があり、そして後者のリスクについては「コールドポリペクトミー(cold polypectomy)によって解決できる」と堀内先生は語ります。
術後の出血リスクがほぼない「コールドポリペクトミー」とは?
コールドポリペクトミーとは、電気を使わずにポリープを切除する方法のこと。従来はスネアという特殊なワイヤーを使い、電気を流してポリープを焼き切る切除術(ホットポリペクトミー)が主流でしたが、電気を使わない点から「コールド」の名がつけられました。
ポリープの多くは10mm以下の大きさですが、アメリカではこの10mm以下のポリープはコールドポリペクトミーで切除するのが一般的です。
なお、コールドポリペクトミーでポリープを切除した直後の患部では多少出血が見られますが、しっかり水をかけることで出血は止まるといいます。さらに、「電気を使わないので当然血管を火傷させる心配がなく、術後の遅発性出血などのトラブルも少ない」と堀内先生。
実際、ワーファリンという抗凝固剤を服用している人を対象に、通常のポリテクトミー群(35例)とコールド群(35例)に分けて遅発性出血の数を比較したところ、前者では5名に出血が見られたのに対し、後者では誰にも出血が見られなかったそうです。 |
このコールドポリペクトミーであれば、従来は内視鏡検査・治療の際に休薬が必要だった抗血栓薬を服用中の人も休薬せずに検査が可能になります。
「少なくとも、大腸がんでは死なないで」
「日本から大腸がん死をなくしたい」と熱く語る堀内先生。ただ、従来の内視鏡検査・治療のままでは、それは実現できません。実現のためには、以下の3つの取り組みが欠かせないといいます。
- ポリープがあったら大きさに関係なくすべて取る「クリーンコロン」の導入
- クリーンコロンに伴う出血リスクをなくす「コールドポリペクトミー」の導入
- 鎮静剤「プロポフォール」の使用
「クリーンコロン、つまりポリープを全部取るにはどうしても鎮静剤、プロポフォールが必要です。鎮静剤なしでスコープを入れるのは、患者さんに辛い思いをさせてしまうことがある。ただ本来なら、医師自身がたやすくスコープを扱える技術を身につけていないといけないんですけどね」
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このプロポフォールの導入によって、検査に伴う痛みや恥ずかしさの問題を解決した堀内先生。「大腸がん死をゼロにするために、少しでも多くの人に検査を受けてもらいたい」と語ります。
「早期発見が難しく、気づいたときにはすでに進行していることの多い膵臓がんとは違い、大腸内視鏡検査を定期的にやれば、大腸がんで死ぬことはないと私は思っています。思い立った方は駒ヶ根まで検査に来てください。少なくとも、大腸がんでは死なないでほしい」と強い気持ちを込めて、言葉を投げかけていました。