記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2019/1/28
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
ピロリ菌という細菌は、胃や腸などの消化器官の疾患と関わりがあると考えられています。これらの疾患が疑われる場合、ピロリ菌の検査を行うことが有用です。では、ピロリ菌がいるかどうかを調べる検査にはどんなものがあるのでしょうか?また、検査を行う場合、費用はどのくらいかかるのでしょうか?
ピロリ菌の正式名称はヘリコバクター・ピロリといい、胃の表層を覆う粘液の中に住み着く細菌です。胃には胃酸というpH1~2程度の強い酸があり、ほとんどの細菌は住み着くことができない環境ですが、ピロリ菌は「ウレアーゼ」という酵素を出し、胃の中の尿素を分解してアンモニアを作り出します。アンモニアはアルカリ性ですから、胃酸を中和してピロリ菌が生息・活動するのに最適なpH6~7の環境を作り出すことができるのです。
ピロリ菌に感染する時期は、ほとんどが免疫機構の十分に発達していない4歳以下の乳幼児期であると考えられています。一度感染すると、除菌しない限り胃の中に生息し続けます。ただし、小児期に感染しても炎症などの症状はすぐには現れない人がほとんどです。また、除菌は適切な治療によれば1~2週間程度で行うことが可能です。
感染経路は2019年現在、はっきりとはわかっていませんが、経口感染ではないかと考えられています。特に、糞便に汚染された水や食物の摂取、大人から乳幼児に口移しで食物を摂取する、などが考えられます。衛生環境の改善とともに感染率が下がることがわかっていて、日本では60歳以上の80%が感染しているとされますが、10代以下の感染率は10%以下と言われています。同様に、発展途上国ではピロリ菌感染者の割合が高いことがわかっています。
ピロリ菌は、胃・十二指腸潰瘍やMALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病、胃がんなどと関係していることがわかっています。胃・十二指腸潰瘍やMALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病においては、ピロリ菌除去で症状が改善することも知られています。日本において、胃がんは患者数が多いことがわかっていて、胃がんを予防する意味でもピロリ菌除去が有用であることも示唆されています。
ピロリ菌は、1982年にオーストラリアの研究者であるBarry MarshallとRobin Warrenによって初めて単離・培養されました。2005年にはこの功績により、ノーベル医学生理学賞を受賞しています。彼らは1979年に胃炎患者の胃粘膜に小さな曲がった未知の細菌を発見し、100人の患者の組織を調べたところ、胃炎や胃・十二指腸潰瘍の患者ほとんど全てでピロリ菌を確認したのです。
Marshall自身がピロリ菌を飲み、急性胃炎が起こることを確認したという有名なエピソードもあります。彼らのピロリ菌に関する実験・研究により、それまでストレスや生活習慣が原因と考えられていた胃炎や胃・十二指腸潰瘍もピロリ菌の感染によって起こることが明らかになりました。この発見により、胃炎や胃・十二指腸潰瘍の除菌治療が行われるようになったのです。
ピロリ菌の検査や除菌を行う前に、まずはピロリ菌の除菌療法の対象となる疾患の有無を確認します。疾患の有無は内視鏡検査または造影検査で行い、以下のような疾患があると判断された場合、ピロリ菌が存在すれば除菌療法の対象となります。
これらの疾患または病態が確認された場合、ピロリ菌がいるかどうかの検査を行います。ピロリ菌がいるかどうかの検査は、内視鏡を使用する検査と使用しない検査の2種類に大きく分けられ、それぞれさらに3種類の検査があります。
迅速ウレアーゼ試験とは、ピロリ菌が持つウレアーゼという酵素が尿素を分解してアンモニアを産生することを利用した検査方法です。試薬の尿素が分解されればアンモニアが生じ、pHが変化するため、指示薬に色の変化が起こります。そこで、ピロリ菌に感染しているかどうかを短時間で判定することができるのです。
鏡検法では、採取した組織を染色し、顕微鏡下でピロリ菌が存在するかどうかを目視で確認します。また、このとき細胞組織を組織学的に観察し、評価します。
培養法では、検体をすりつぶして5〜7日程度培養します。ピロリ菌が存在すれば増殖しますので、ピロリ菌の有無を確認できます。
鏡検法や培養法は菌を目視で確認できるので正確性はありますが、採取した部分にたまたまピロリ菌がいない場合は判定が陰性となってしまうことがありますので、注意が必要です。
抗体測定では、血液や尿を採取し、血中ないし尿中にピロリ菌に対する抗体があるかどうかを調べます。抗体があればピロリ菌に感染していると判断できます。
尿素呼気試験では、検査用の薬を飲み、一定時間が経過した後に吐き出された息(呼気)を調べ、ピロリ菌に感染しているかどうかを検査します。
便中抗原測定は、抗原(ピロリ菌)が便中に存在しているかどうかを判定します。ピロリ菌は生死を問わず抗原となるため、抗体が特異的に反応することで検査が可能です。
検査はこれらのうち、基本的には1種類を用いて行われますが、1つだけでなく複数の検査を行うことでより正確に判定できるとされています。検査の結果、ピロリ菌に感染していることがわかった場合は、薬剤による除菌療法を行います。
ピロリ菌の検査は、保険適応になる場合とならない場合があります。前述のピロリ菌検査でもご紹介した以下の疾患が疑われている場合、あるいは治療中の場合は保険適応になりますが、胃がん予防や、疾患や病態がないにも関わらず単に感染の有無を検査したいという場合は保険適応となりませんので注意が必要です。
ピロリ菌検査の費用は、検査によって異なります。費用の一例を以下にご紹介します。また、この費用は自費ですので、保険適応になる場合は3割ないし2割、1割を負担することになります。
ピロリ菌の検査には、内視鏡を使うものと使わないものがあります。尿器呼気試験は最も患者さんに負担がなく、かつ精度が高いためよく利用されますが、その他の検査も患者さんの症状や状況によって使用されます。また、内視鏡検査の際にピロリ菌検査を同時に行う場合もあります。
検査費用は保険適応かどうか、また検査方法によっても変わりますので、検査される病院によく確認しましょう。
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