記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2019/1/26
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
ピロリ菌は、胃がんや胃炎、十二指腸潰瘍などの原因になる細菌と言われています。この菌は胃の中に住み着くのですが、菌がいるかどうかを調べることができる検査方法がいくつかあります。
基本的には検査は医療機関で行うものですが、近年、自宅でも簡単にピロリ菌がいるかどうかを調べられるキットも開発されています。これらのキットの種類と使い方、使う際の注意点などについて解説します。
ピロリ菌が胃の中にいるかどうか調べる検査の方法には、内視鏡を使うものと使わないものに分けられ、それぞれ3種類ずつ、合計6種類の検査方法があります。
迅速ウレアーゼ試験とは、ピロリ菌がウレアーゼという酵素によって尿素を分解し、アンモニアを産生することを利用した検査方法です。試薬の尿素が分解されるとアンモニアが生じ、pHが変わるので指示薬の色が変化します。この検査では、ピロリ菌に感染しているかどうかを短時間で判定することができます。
鏡検法は、内視鏡検査時に採取した組織を染色し、顕微鏡下でピロリ菌が存在するかどうかを目視で確認する検査方法です。また、このとき細胞組織を組織学的に観察し、評価します。培養法では、検体をすりつぶして5~7日程度培養します。ピロリ菌が存在すれば、培養によって増殖するので、ピロリ菌がいるかどうかを確認できます。鏡検法や培養法は菌を目視で確認できるため確実ですが、採取した部分にたまたまピロリ菌がいないと判定が陰性になってしまうことがあるので、注意が必要です。
抗体測定では、血液や尿を採取し、血中または尿中にピロリ菌に対する抗体が出ているかどうかを調べます。抗体があればピロリ菌に感染していると判断できます。便中抗原測定は、抗原(ピロリ菌)が便中に存在しているかどうかを判定します。ピロリ菌は生死を問わず抗原となるため、抗体が特異的に反応することで検査が可能です。
尿素呼気試験では、検査用の薬を飲み、一定時間が経過した後に吐き出された息(呼気)を調べ、ピロリ菌に感染しているかどうかを検査します。検査用の薬にはピロリ菌が分解する尿素が含まれていますので、迅速ウレアーゼ試験と同様、ピロリ菌の酵素によって分解されるかどうかを見ることができる検査です。
迅速ウレアーゼ試験と違うのは、呼気で判定するため、二酸化炭素を測定している点です。まず、飲んでもらう尿素の中の炭素に特殊な印をつけておきます。検査薬の尿素がピロリ菌の持つウレアーゼによって分解されると、この特殊な印を持った二酸化炭素が吐く息に多く出てきます。それを検出すれば、ピロリ菌がいるかどうかわかるという仕組みです。
自宅でできる検査キットで検査ができるのは、上でご紹介した検査方法のうち、内視鏡を使わない検査方法です。ただ、尿素呼気試験は検査用の尿素を飲む必要があり、輸送や自宅での保管などの面から正確性・安全性の双方が十分に確保されているとは言えないため、自宅では行えません。
そのため、検査キットで行えるのは「抗体検査」「便中抗原検査」の2つです。ただし、抗体検査は血液で調べるものと尿で調べるものの2種類があるため、キットは合計で3種類あります。
血液・尿による検査はいずれも、ピロリ菌に対する抗体ができているかどうか調べることでピロリ菌に感染しているかどうかを判断します。便による検査では、抗原であるピロリ菌そのものが生死を問わず存在しているかどうかを検出します。いずれの検査も医療機関で検査する場合と同等の信頼度がありますので、検査結果には十分信頼がおけると考えられます。
検査キットを使う場合、特に注意する必要があるのは以下のような点です。
血液または尿による抗体検査は、ピロリ菌除菌後の確認検査としては使用できません。これは、抗体による検査ではピロリ菌が除菌された後もしばらく抗体は免疫として残っているため、実際にはピロリ菌がいないのに陽性反応が出てしまうことがあるということが主な理由です。
また、尿や便によって検査を行う場合、女性では月経中に使用するのは避けましょう。抗体や抗原に対する反応が正確に出ない場合があり、判定の信頼度が下がってしまいます。
検査キットが陰性だった場合、ほとんどの場合は陰性かつ問題がないと考えてよいのですが、まれに検査で陰性反応が出ていても、胃がんや胃・十二指腸潰瘍の可能性がゼロとは言い切れない場合があります。これらの場合、主に2つの原因が考えられます。除菌治療を行ったあとで「今は」ピロリ菌がいないという場合と、感染はしているのに何らかの原因で陽性反応が出なかった「偽陰性」という場合です。
検査で陰性反応が出た後に問題が起こるケースとして最も多いのは、除菌はしてピロリ菌はいなくなったけれど、その後に何らかの問題が発生するケースです。これは、除菌によってピロリ菌が新たに胃の中を荒らす心配はなくなったものの、ピロリ菌が生息していた間に胃の粘膜を荒らされていた影響は残っているという場合です。
この場合、ピロリ菌がいるかどうかの検査結果では陰性と出ますし、その検査結果自体は間違いではありません。しかし、感染していた間の影響は残っているため、それが何らかの原因で胃がんや胃炎などに進行するケースもあります。つまり、除菌すれば絶対に安全というわけではなく、一度でも感染歴のある人はピロリ菌そのものを除菌した後でも、定期的に内視鏡検査を受けることが推奨されます。
何らかの原因で陽性反応が出ない偽陰性の場合は、検査結果が陽性との境界値に近い人で多く発生すると考えられています。原因はさまざまですが、例えば抗生物質やPPI(プロトンポンプ阻害薬)と呼ばれる強めの胃薬を服用していること、ステロイド剤を服用していること、免疫力が低くなっていることなどが考えられます。
偽陰性の場合、検査結果から自分で偽陰性かどうかを判断することはできません。そこで、偽陰性と出ても胃や消化器官に違和感を感じるような場合は、医療機関で診察を受け、内視鏡を使ってさらに詳細な検査を行うことがおすすめです。その場合、検査キットを使って陰性が出たこともきちんと医師に伝えましょう。
ピロリ菌検査キットによって、誰でも自宅で簡単にピロリ菌がいるかどうかの検査を行えるようになりました。しかも、医療機関で行う検査と比べ、その精度にはほとんど差がないとされています。
しかし、注意しなくてはならないのは、検査キットで調べられるのは検査したそのとき、ピロリ菌がいるかどうかだけ、という点です。過去のピロリ菌によるダメージ蓄積などはわからないため、胃や腸の違和感が消えないなどの場合は、医療機関を受診しましょう。
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