記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2019/3/14
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
指定難病の肺疾患に「肺胞蛋白症」という病気があります。この病気は稀少肺疾患と言われており、「1年間の罹患率は1000万人に約7人」と、非常に珍しい病気となっています。今回は肺胞蛋白症の概要、症状、治療法などを解説します。
肺胞蛋白症とは、何らかの理由で肺胞内にサーファクタント(表面活性物質)が貯留してしまう病気です。顕微鏡で確認すると肺胞内がピンク色に染まって見えるのですが、それがたんぱく質に見えたことから「肺胞蛋白症」という病名が付けられました。現在の推定患者数は800~1200人程度とされており、肺胞蛋白症は稀少肺疾患として扱われています。
肺胞蛋白症の発生には、サーファクタント(表面活性物質)が関係しています。このサーファクタントとは、簡単に言えば「肺胞の形を保っている物質」です。
そもそも肺胞は息を吸い込む時(吸気時)に膨らみ、息を吐き出す時(呼気時)にしぼみます。しかし、呼気時に完全に肺胞がしぼんでしまうと、次に肺胞を膨らませる際には吸気時に強い力が必要になってしまいます。そこでサーファクタントが肺胞の形を保つことで、吸気時に膨らみやすくする役割を果たしているのです。
健康な方の場合、肺胞内のサーファクタント量は正常範囲に調節されています。その調節の役割を担っている物質が「細胞マクロファージ」です。つまり、肺胞蛋白症は細胞マクロファージの働きが悪くなることで発症しますが、その原因には大きく以下の3つがあります。
このうち最も多いタイプは「自己免疫性肺胞蛋白症」で、成人の肺胞蛋白症の90%程度となっています。次に多いのが「続発性肺胞蛋白症」の約6%、さらに低い確率で「先天性肺胞蛋白症」が見られます。なお、先天性肺胞蛋白症は成人にも発症します。
肺胞蛋白症を発症すると、肺胞が膨らまないため、正常な呼吸ができなくなってしまいます。その結果、血中の酸素濃度が下がってしまい、さまざまな症状が現れます。その代表的な症状は息切れであり、初期段階だと軽い運動時や動作時に息切れが見られます。
また、肺胞蛋白症では咳や痰といった呼吸器症状もみられます。さらに、息切れなどが酷くなると食欲が減ってしまい、体重減少なども現れる場合があります。ただし、自覚症状を伴わない場合もあり、比較的症状が軽微であることが肺胞蛋白症の特徴となっています。
肺胞蛋白症が疑われる場合、胸部レントゲン検査、胸部CT検査、血液検査などを行います。さらに気管支内視鏡検査(気管支カメラ)などを実施して、「肺胞蛋白症かどうか」の診断を付けていきます。肺胞蛋白症と診断が付いた場合は、原因に応じた治療を行います。
自己免疫性肺胞蛋白症の症状が軽い場合は、基本的に経過観察で対応できます。また、痰を出しやすくために内服薬を使用することもあります。ただし、酸素濃度の低下が現れ、症状が悪化してきた場合は、サーファクタントを除去するための以下の治療を行います。
上記のうち、通常であれば「全肺洗浄」が行われます。しかし、全肺洗浄が難しい場合には「反復区域洗浄」が実施されることもあります。この他にはGM-CSFの吸入治療と皮下注射療法がありますが、いずれも現時点では未認可の治療法となっています。
続発性肺胞蛋白症の場合は、まず原因となる病気の治療を行います。中には、原因となる病気を治療することで、続発性肺胞蛋白症が改善する場合もあります。ただし、すぐに肺胞蛋白症の治療が必要な場合は、サーファクタントを除去するために肺洗浄を行います。
先天性肺胞蛋白症の場合は、異常な遺伝子の種類を特定した上で、それに応じた治療を行います。具体的には、骨髄移植を行ったり、正常なサーファクタントを吸入したりするほか、肺洗浄を行う場合もあります。なお、肺の働きが弱っている場合は肺移植を実施します。
肺胞蛋白症によって酸素濃度が低下した場合は、酸素療法が必要になります。治療開始の目安は「安静時の動脈血酸素飽和度が90%以下である場合」または「安静時は90%以上であっても、動作時や睡眠時の動脈血酸素飽和度が90%以下である場合」となっています。なお、酸素療法を行うにあたり、ご自宅に在宅酸素療法用の機器を備える必要があります。
肺胞蛋白症の多くは「自己免疫性肺胞蛋白症」であり、この病気の5年生存率は96%、10年生存率は88%と比較的良好な結果となっています。 ただし、発症後は禁煙や感染症予防などに努める必要があります。かかりつけの医師の指示に従って日常生活を送りましょう。