記事監修医師
東京大学医学部卒 医学博士
がん細胞が肺に発生している状態を肺がん、そして肺からがん細胞が増殖し、体の他の部位にまでがんが移ってしまうことを転移といいます。今回は、肺がんから転移が起こった場合の治療法について、肺がんからの転移が起こりやすい部位や確率とあわせて解説します。
まずは「肺がんが転移する」とはどういうことか、ご説明していきます。
肺にできたがん細胞の塊は、どんどん分裂・増殖を繰り返して周辺の組織や細胞に侵略し、肺がんの範囲を広げていきます。
そして肺のなかで拡大を続けたがん細胞の一部が、分離して血液やリンパ液などの流れに乗って移動し、肺以外の臓器・器官で増殖を始めた状態を「転移」といいます。
なお、肺がんが他の臓器に移動したからと言って、移動先の臓器に合ったかたち・細胞に変質することはありません。肺がんの細胞は肺がんのまま、胃や大腸などの器官で再び分裂・増殖を繰り返します。
がんのなかでも、肺がんは特に体の他の部位への転移が起こりやすいのが特徴と言われ、特に脳または骨への転移が起こるケースが多いと知られています。
肺がんから脳や骨への転移が起こると、それぞれ以下の症状が現れるようになります。
このように脳や骨に転移し、さまざまな症状を引き起こす肺がんに対しては、放射線療法と薬物療法を使って治療を試みます。
以下に、肺がんから脳や骨に転移した場合に行われる、放射線療法と薬物療法について解説していきます。
特に骨に転移が起こった場合に、その痛みの緩和に有効的とされる治療法で、体の外側から高エネルギーの放射線を当てて行います。
このように、骨や脳に転移した肺がんの症状を緩和する目的で行う放射線療法を「緩和的放射線療法」、脳へのさらなる転移予防のために行うものを「予防的全脳照射」といいます。
治療の副作用として、放射線を照射した部位の皮膚にかゆみや赤み、皮膚炎、食道炎、肺の炎症などが起こるリスクがあります。
肺がんが脳や骨に転移したことによる痛みを、薬で緩和する目的で行う治療方法です。最初は効能の緩やかなもの(内服するタイプの消炎鎮痛剤)からはじめて、効き目を見てより強い内服薬や点滴、注射タイプの鎮痛剤へと変えていきます。
がんの痛み止めは、一般的な痛み止めとは異なり、痛みが出るたびに飲むのではなく、「痛みが出る前に定期的に服用する」という飲み方が特徴です。痛み止めとして十分な効果が感じられないのに、副作用ばかり出るという状態を避けるために、薬は患者本人が効き目を実感できるものを選ぶのが重要とされます。
なお、一般的な薬の範囲で痛み止めの効果を感じられなくなってきた場合は、治療のため医師の判断で医療用のモルヒネなどを使用することもあります。
肺のなかで増殖した肺がんは、やがて血液やリンパにのってほかの組織・臓器に移動し、そこで再び増殖を始めます。これを転移といい、ほかのがんに比べて肺がんは特に脳や骨への転移を起こしやすいがんであるとして知られているのです。
肺がんによる転移が起きたら、転移した部位に対して体外から放射線を当てる放射線療法と、薬物で症状を抑える薬物療法のいずれかで治療していきます。理解しておいてください。