記事監修医師
前田 裕斗 先生
2019/5/13
記事監修医師
前田 裕斗 先生
陰部がかゆい、おりものの色がおかしい、などの場合、悪い病気でないかと心配になることも多いですよね。かと言って、陰部やおりものの話はなかなか人に聞きづらいものです。
そこで、陰部のかゆみやおりものの色に異常が起こった場合、どのような原因が考えられるかについてご紹介します。病院に行こうかな?と思ったとき、ぜひ参考にしてみてください。
陰部がかゆく、白いおりものがある場合は、主に「カンジダ腟炎」「トリコモナス腟炎」「細菌性腟症」の可能性が考えられます。それぞれの症状の違いは、以下のようになっています。
白いおりものが出た場合、匂いと形状によって炎症の種類をある程度見分けることが可能です。クリーム状またはカッテージチーズ状で、水気や臭気があまりなく、かゆみが強い場合はカンジダ腟炎と考えられます。しかし、強い悪臭があって薄い膿のようなドロリとした、または泡立つようなおりものである場合はトリコモナス腟炎の可能性があります。また、おりものが魚の腐敗臭のようであり、水っぽい場合は細菌性腟症が疑われます。
カンジダ腟炎は、腟内に常在している「カンジダ」というカビの一種によって引き起こされる炎症です。腟内は通常、カンジダ以外にもたくさんの常在菌が存在しています。細菌がたくさんいても炎症が起こらないのは、常在菌である「デーデルライン桿菌」という乳酸菌の一種によって腟上皮細胞内部にあるグリコーゲンから乳酸が作り出され、酸性(pH4.6~5.0程度)の環境に保たれているためです。
腟内が酸性に保たれていると、腟内の常在菌が必要以上に繁殖して炎症を起こすのを防ぐとともに、外部から雑菌が入り込むのも防ぎます。これを腟の自浄作用といいます。この自浄作用はデーデルライン桿菌の働きによるものですから、デーデルライン桿菌が弱まったり、腟上皮細胞のグリコーゲンが減少したりすると自浄作用も弱まってしまいます。
デーデルライン桿菌による自浄作用が弱まると、腟内の酸性も弱くなってカンジダが繁殖しやすくなります。すると、カンジダが異常繁殖して炎症を引き起こすことがあるのです。これがカンジダ腟炎です。具体的には、以下のような場合にカンジダ腟炎が引き起こされやすいといわれています。
トリコモナス腟炎は、雑菌ではなく「トリコモナス原虫」という、肉眼では見ることができない寄生虫が腟内に入り込んで炎症を引き起こしたものです。腟内だけでなく膀胱や尿道に寄生することもありますが、膀胱や尿道に寄生した場合は尿によって洗い流されることが多いです。若年層だけでなく、中高年でも幅広く感染者が見られる疾患です。
感染経路が多いのが特徴で、他の性感染症のように性行為によって感染するだけでなく、下着やタオル、便器や浴槽などから感染することもあります。性行為の経験がない幼児などでも感染する可能性がありますので、もしトリコモナス腟炎に感染した可能性がある場合は家族とタオルを共有したりしないようにしましょう。
発症すると強い悪臭と外陰部のかゆみや痛みが主な症状になりますが、治療せずに放置してしまうと炎症が体内に進行してしまい、卵管にまで及ぶと不妊症や早産、流産などの原因となることがあります。トリコモナス腟炎の症状が現れた場合、早めに医療機関を受診し、適切な治療を受けましょう。
細菌性腟症は、カンジダ腟炎と同様、常在菌であるデーデルライン桿菌の働きが低下して腟の自浄作用が弱まることで腟内の雑菌が繁殖し、さまざまな症状を引き起こす疾患です。特定の微生物によるものではなく、細菌による炎症のうち、カンジダなど他の病原体によらないと考えられるもの、または複数の細菌によるものなどを総称して細菌性腟症と呼んでいます。
細菌性腟症も、治療せずに放置していると炎症が体内にまで及ぶことがあります。万が一子宮内にまで炎症が及ぶと、骨盤腹膜炎などの重篤な合併症を引き起こすこともあります。また、妊婦が発症すると流産・早産や子宮内感染などを引き起こす可能性もありますので、症状がみられた場合は早めに医療機関を受診し、適切な治療を受けましょう。
陰部のかゆみに加え、おりものの色が黄色や黄緑色の場合、膿状のおりものと考えられ、トリコモナス腟炎を発症している可能性が高いです。先に解説したように、トリコモナス腟炎は強い悪臭と白~黄色味を帯びた膿状、泡状のおりものが大量に分泌されるのが特徴です。黄色や黄緑の膿は腟の粘膜が炎症を起こし、雑菌が増えたことによって分泌されたもので、腟だけでなく、尿道や膀胱に感染が広まると尿道炎や膀胱炎を併発することがあります。
トリコモナス原虫は0.1mm程度と非常に小さい寄生虫で、グリコーゲンを餌にして増殖していきます。グリコーゲンは腟の自浄作用を司るデーデルライン桿菌の餌にもなるもので、腟上皮細胞内部に多く含まれているため、トリコモナス原虫が腟粘膜に寄生すると非常に速い速度で増殖し、腟内の常在菌のバランスを崩してしまいます。すると、雑菌が増えて炎症を引き起こすのです。
治療には抗生物質の投与を行いますが、腟内に原虫が少しでも残っていれば、薬の効果が切れたとたんに再発してしまいます。そこで、腟剤と内服薬で内外から治療を行い、トリコモナス原虫を全て死滅・駆除する必要があります。症状は抗生物質の投与後少しすると軽くなってきますが、完治にはおよそ1週間ほどかかるといわれています。また、症状がなくなってもトリコモナス原虫の全てを根絶する必要がありますので、医師の指示通りに薬を服用し、自己判断でやめないようにしましょう。
おりものが増え、下腹部に痛みを感じる場合は「クラミジア感染症」または「子宮内膜炎・卵管炎」の可能性が考えられます。
クラミジアと言えば、代表的な性感染症として知る人も多い疾患です。クラミジア・トラコマチスという細菌に感染することで引き起こされますが、無症状の患者が多いとともに潜伏期間が1~3週間と長いため、この間に性行為をして感染を広げてしまうこともあります。感染者と性行為をしたとき、腟の分泌液や精液に触れると50%以上という高確率で感染するとも言われており、非常に感染力が強いことが特徴です。
クラミジア感染症を発症すると、おりものの量が増え、排尿時にツンとした痛みを感じることがあります。進行すればクラミジア頸管炎となり、さらに下腹部の痛みや発熱を起こすことがあります。炎症が腹部まで及び骨盤腹膜炎となれば不妊の原因ともなるため、早めに医療機関を受診して治療を受ける必要があります。
また、クラミジアに感染している粘膜に触れた手でうっかり目を触ってしまうと、目の粘膜に感染し「トラコーマ結膜炎」を引き起こすことがあります。さらに、感染したまま治療をしていない女性が出産すると、産道に存在するクラミジアが新生児に感染し、目や咽頭などに炎症を引き起こす危険性もあります。
クラミジアに感染した場合でも自然治癒する場合はありますが、症状があまり出ないうちに腹部に炎症が及び、不妊の原因となることがあるため早期の治療が望まれます。そのため感染した場合は抗生物質を投与してクラミジアの感染巣を根絶する必要があります。医師の処方を守って正しく薬剤を服用すれば、抗生物質で十分に完治できることがわかっています。
細菌やクラミジアなどの病原体が子宮内膜に感染すると、子宮内膜炎を引き起こします。さらにさかのぼって卵管にまで感染が広がると、卵管炎を引き起こすだけでなく、卵管の癒着を招きいて不妊症の原因になることがあります。クラミジアを始め、淋菌や大腸菌などが感染を広げる可能性がありますが、通常は月経周期によって子宮内膜が剥がれ落ちて一掃されるため、感染の症状が出ていない場合、さほど心配する必要はありません。
子宮内膜炎を引き起こしやすいのは、タンポンなどの生理用品を長時間使用していて雑菌が繁殖した場合や、腟内が細菌に感染していることがわかっても治療せずに放置していた場合です。細菌が侵入して子宮内膜にまで広がる懸念がある場合は、自覚症状としておりものの変化や不正出血、排尿痛や下腹部の痛み、微熱などが現れます。
これらの症状が出た場合は、早めに専門医の診察と治療を受けましょう。卵管炎にまで進むと、性交痛や腹部に響くような鈍痛や発熱に至ることもありますが、無症状の人も少なくありません。しかし、無症状だからといって放置していると、卵管性不妊や子宮外妊娠などの不妊症の原因となります。おりものがおかしい、排尿痛がある、などの場合は早めに検査を受けましょう。
おりものが茶褐色や赤っぽくなった場合、血液が混じっている可能性があります。色の変化とともに悪臭がする、量が増えたなどの変化もみられる場合は「子宮頚部がん」「子宮体部がん」などの可能性があります。
ただし、悪臭や量などに変化がなく、色だけが茶褐色や赤っぽい色に変化している、さらに時期が月経の直前であるという場合は、月経開始直後のまだ少ない経血がおりもののように出てきていることもあります。妊娠が成立しなかった子宮内膜が剥がれ落ち、経血とともに体外に排出されるのが月経ですが、この子宮内膜が厚く育つのも、剥がれ落ちるのも、女性ホルモンの働きによるものです。
女性ホルモンは卵子から分泌されるため、卵子の成長が悪いと子宮内膜自体もさほど厚く育たない場合があります。子宮内膜の厚みがないと、剥がれ落ちる内膜も薄く少ないため、最初の経血の量も少なくなります。さらに、経血や子宮内膜の量が少ないと排出されるまでに時間がかかるため、茶色っぽく少ない血液が排出されることになるのです。
卵子の成長が悪いのは、排卵障害の一種と考えられています。排卵障害というと重篤な疾患のように聞こえますが、ストレスや睡眠不足、過労などで体に負担がかかるとホルモンバランスが崩れてしまい、一時的な排卵障害に陥ることはよくあります。ですから、月経の開始時に少量の茶色い経血やおりものが出ても慌てたり心配したりする必要はありません。
しかし、茶色いおりものや経血が長く続き、いつまでも通常の赤い経血にならないようであれば注意が必要です。子宮内に子宮筋腫や良性のポリープ、さらには子宮頸がんや子宮体がんからの出血が茶色いおりものとして出てきている場合があります。月経の時期ではないのに長く茶色いおりものが出続けているのは、こうした腫瘍からの出血である可能性も考えられるのです。
1~2カ月以内に婦人科検診やがん検査などで子宮筋腫やポリープ、がんの心配はないと言われているようであれば少し様子見しても構いませんが、最後の検査から半年以上経っている場合はその後、新たにポリープなどを発症している場合もありますので、茶色いおりものが続く場合はぜひ早めに検査を受けましょう。
おりものの異常は、細菌性の炎症から寄生虫、子宮内膜炎や腫瘍からの出血など、さまざまな可能性が考えられます。ただし、おりものの色や匂い、形状の変化などによってある程度の検討をつけることは可能です。
炎症によってかゆみや痛みが起こっている場合は、細菌による炎症の場合が多いです。異常を放置していると子宮内膜や卵管などに炎症を起こし、不妊の原因になることもありますので、早めの検査を受けるのがおすすめです。