記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2019/3/18 記事改定日: 2020/6/8
記事改定回数:1回
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MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
血液には細菌やウイルスから体を守る免疫機能、体のさまざまな部位に酸素や栄養を届ける機能などがあり、体が正常に機能するために欠かせません。そんな血液にも、がんが発見されることを知っていますか?この記事では血液のがんの種類とその特徴や症状について紹介します。
私達の血液は、以下のようないくつかの成分から成り立っています。
赤血球や白血球、血小板などの固形成分は、骨髄にある「造血幹細胞」が細胞分裂しながらだんだんと分化(それぞれの特徴的な機能を獲得し、細胞として成熟すること)していくことで作られます。
造血幹細胞はさらに「骨髄系幹細胞」「リンパ系幹細胞」の2つに分化し、それぞれから以下のような細胞が産生されます。
顆粒球・単球・リンパ球(B細胞やT細胞、NK細胞など)を合わせて白血球と呼んでいます。これらはいずれも免疫機能に関係している細胞です。一般的には単球や顆粒球(好中球)が持つ、細菌や異物を体内に取り込むことで殺菌などの処理を行う貪食作用が知られています。
このように、血液の中にはさまざまな細胞や成分が含まれているため、一口に「血液のがん」といってもそのタイプはいくつかに分けられます。
上記の3タイプが血液がんの割合のほとんどを占めています。特に、悪性リンパ腫は「胃がん・肺がん・大腸がん・乳がん・肝がん」の五大がんに続く頻度で発症しています。
白血病とは、白血球に起こる疾患です。前章で触れた通り、白血球には「骨髄系肝細胞」から分化したものと、「リンパ系肝細胞」から分化したものがありますので、白血病は「骨髄性白血病」と「リンパ性白血病」の2つに分けられます。また、症状の進行度合いによっても「急性白血病(症状が急激に進行する)」と「慢性白血病(症状は徐々に進行する)」の2つに分けられます。
急性白血病は、白血病の中でも症状が急激に進行するタイプのがんで、下記の種類に分かれます。
いずれの場合も、急激に骨髄またはリンパに属する白血球ががん化して異常増殖するため、正常な細胞に分化するための肝細胞がどんどん消費されてしまいます。「骨髄系肝細胞」「リンパ系肝細胞」のどちらも「造血幹細胞」という大本の肝細胞から作られているため、白血球(好中球・好酸球・好塩基球・単球)・赤血球・血小板などの血液細胞が減少します。
がん化した細胞が臓器や組織に浸潤することがあります。主に発熱や全身倦怠感、歯茎の腫れや痛み、腰痛・関節痛などがみられます。肝臓や脾臓に及ぶ場合は腹部の膨満感や腫瘤、痛みが出てくることがあります。
これらの症状は骨髄性白血病のほか、リンパ性白血病のB細胞系でよく起こります。また、リンパ性白血病では特に頸部などのリンパ節の腫れがよくみられます。
慢性白血病は、白血病の中でも症状の進行が比較的ゆっくりしたものを指します。慢性白血病にも骨髄性とリンパ性に分かれます。
慢性骨髄性白血病の患者さんのうち、95%以上で「フィラデルフィア染色体」という特徴的な染色体異常が見つかっています。これはヒトの染色体のうち、9番目と22番目の2本が途中で切れてつながってしまった染色体のことです。つながった部分にできた新しい遺伝子から作られるタンパク質が、がん化した造血幹細胞を増やす指令を出し続けてしまいます。
慢性骨髄性白血病の初期の場合、造血幹細胞ががん化しても、その造血幹細胞からできた白血球はほぼ正常の白血球と同じ働きをします。さらに、病状が非常にゆっくり進行するため、初期の段階ではほとんど症状としてあらわれません。
初期状態で病気が発見される場合は、健康診断などで白血球数が異常に増加していることを指摘されて偶然見つかることが過半数です。
慢性リンパ性白血病の原因は、まだはっきりと解明されていないため、よくわかっていません。しかし、欧米人に多く、日本人も含むアジア人ではまれな疾患であることはわかっています。
また、アジア人が欧米に移住しても頻度が増えるわけではないことから、環境ではなく遺伝的な要因が関係しているのではないかといわれています。そのため、全ての血液がんの中で最も遺伝的要素の影響が大きい疾患だと考えられています。
慢性リンパ性白血病も、慢性骨髄性白血病と同様、初期段階ではほとんど症状がありません。そのため、やはり同じように健康診断などで白血球数の異常増加を指摘されて偶然見つかることが多い疾患です。
リンパ節の腫れは、通常は痛みのないしこりとしてあらわれ、数週間~数カ月かけてだんだんと大きくなり、縮むことはありません。
がん化した細胞が増えてくると正常な造血ができなくなるため、白血球・赤血球・血小板が減少してくるのは骨髄性白血病と同じですが、特に慢性リンパ性白血病では「自己免疫性溶血性貧血」という、自分の赤血球に対して自己抗体ができ、自ら赤血球を破壊していってしまう現象が起こることがあります。こうなると当然、極めて重度の貧血となってしまいます。
悪性リンパ腫とは、白血球の一種である「リンパ球」ががん化して増殖する疾患です。白血病との違いは、がん化した細胞が塊を作ることです。この塊はリンパ節の腫れとなってあらわれます。
腫瘍細胞の形や性質によって、「ホジキンリンパ腫」と「非ホジキンリンパ腫」の2種類に分けられます。それぞれの特徴や割合は以下のようになっています。
非ホジキンリンパ腫割合:約90%特徴:ホジキンリンパ腫よりも全身に広がりやすい。がん化したリンパ球の種類や、悪性度によっても分類される
日本では「ホジキンリンパ腫」よりも「非ホジキンリンパ腫」の方が圧倒的に多いです。「非ホジキンリンパ腫」はその中でもさらにたくさんの種類に分類されます。これは、分類によって週単位で急速に進行するものから年単位でゆっくりと進行するものまでさまざまだからです。悪性リンパ腫の進行度合いによって、即入院して治療が必要な場合と、治療よりもひとまず経過観察をした方が良い場合があるのです。
首やわきの下、足の付け根などのリンパ節が腫れることが自覚症状となって気づくことが多いです。ただし、リンパ組織は全身に分布しているため、リンパ節からだけ発症するとは限りません。
多発性骨髄腫とは、リンパ球のうち「B細胞(Bリンパ球)」がさらに成熟した「形質細胞」ががん化して起こる疾患です。形質細胞は、通常、体内に細菌やウイルスなどの異物が入ってきたときに「抗体」というタンパク質を作って異物を攻撃し、体を守る免疫機能の働きを持っている細胞です。
多発性骨髄腫で形質細胞ががん化すると、異物を攻撃するための抗体を作れなくなります。しかし、抗体自体を作る働きは残っているため、役に立たない抗体(Mタンパク)を作り続けます。Mタンパクは異物を攻撃する能力がないだけでなく、増えていくと体にさまざまな悪い症状を引き起こすようになります。
最も多い症状が骨の痛みです。がん化した形質細胞を「骨髄腫細胞」と呼んでいますが、この骨髄腫細胞が「破骨細胞」という骨を溶かす細胞を異常に活性化させてしまいます。本来は古い骨を溶かす破骨細胞が、どんどん骨の組織を溶かすために症状が発生します。
さらに血中に骨が溶けてできたカルシウムが流れ出すため、高カルシウム血症になることもあります。
また、骨髄腫細胞が骨髄の中で異常に増殖することにより、正常な血液細胞を作り出す過程が妨げられ、他の白血球や赤血球、血小板が減少します。すると、他の血液がん同様、感染症や貧血、出血の症状がみられます。さらに、Mタンパクが増えすぎることによって腎機能障害や血液循環の障害が起こることもあります。
このように、多発性骨髄腫は多岐にわたる症状を引き起こす疾患です。しかし無症状の場合も少なくなく、血液検査や尿検査などでMタンパクをはじめとした異常を指摘されて発見されることも多いです。多くは慢性に進行しますが、まれに急性に進行する場合もありますので、個々の患者さんに合わせた治療が必要です。
血液のがんは発生メカニズムが明確に判明していないものがほとんとであるため、効果のある予防法は確立していないのが現状です。そのため、万が一発症した場合はできるだけ早めに治療を開始することが大切です。
血液のがんでは次のような症状が現れやすいため、思い当たる症状が続く場合はできるだけ早めに病院を受診しましょう。
また、血液のがんの一部には遺伝が関係しているものがあることも分かっています。血がつながった親族の中に血液のがんを発症したことがある方は、定期的に血液検査を受けるようにしましょう。
血液がんの中でも、「白血病」「悪性リンパ腫」「多発性骨髄腫」は三大血液がんと呼ばれています。いずれのがんも、がん化した細胞が異常増殖することにより、正常な血液細胞が減少することによる症状が見られます。初期は無症状の場合は血液検査などで発見されることがありますので、定期検査や健康診断をきちんと受けましょう。