前立腺肥大症の治療薬の種類と薬以外の治療法とは?

2019/4/2 記事改定日: 2020/5/22
記事改定回数:1回

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

前立腺とは、男性の生殖器の一部で、体内の深い部分にある臓器です。この前立腺が大きくなってしまうのが前立腺肥大症ですが、この疾患の治療薬にはどのようなものがあるのでしょうか?また、薬を飲んでも効果が得られない場合、他にはどのような治療法があるのでしょうか?今回は、前立腺肥大症の詳細や症状、その治療法について解説します。

前立腺肥大症とは

前立腺肥大症とは、男性の膀胱に隣接している「前立腺」という臓器が大きくなることで前立腺が取り巻いている尿道が細くなってしまい、排尿にかかわるさまざまな症状を引き起こす病気です。「前立腺肥大」と呼ばれることもあります。

原因

前立腺は生殖器の一部であり、男性ホルモンの影響を受けています。そのため、男性ホルモンの分泌が衰えてくる40代前半ごろから前立腺が大きくなり始め、加齢とともに症状が進行していくことがわかっています。しかし、前立腺が肥大する大きさやその形には個人差があり、全ての患者さんで同じように変化していくとは限りません。

このように、前立腺には男性ホルモンが影響していると考えられていますが、原因が完全に解明されているわけではありません。男性ホルモンの他には、肥満や高血圧、脂質異常症、メタボリックシンドロームなどが関係していることが研究によって明らかになりつつあります。

前立腺肥大症になるとみられる症状は?

前立腺肥大症の症状は、おもに以下の7つです。

  • 残尿感がある(排尿後もスッキリしない)
  • 排尿の回数が多い(頻尿)
  • 尿が何度も途切れる
  • 突然強い尿意が訪れ、尿意を我慢できなくなる
  • 尿の勢いが弱い
  • 排尿時にいきむ必要がある
  • 夜中に何度も排尿のために目が覚める

残尿感や尿が弱いなどの症状は比較的日常生活に支障が出にくいですが、頻尿や突然の強い尿意などは、重篤化すると日常生活に支障をきたす恐れがあります。1時間に2回以上トイレに行く、短時間であっても尿意が我慢できないことが増えてきたなどの症状があれば、早めに医療機関を受診しましょう。

前立腺肥大症の治療薬にはどんな種類があるの?

前立腺肥大症の症状を改善する治療薬には、以下の5つの薬剤があります。

α1受容体遮断薬(α1ブロッカー):ハルナール®︎、フリバス®︎、ユリーフ®︎など
  • 緊張している前立腺や尿道の筋肉を緩め、排尿をスムーズにする
  • 前立腺肥大症の症状の多くはこの内服薬で改善することが多い
  • 副作用:血圧低下、ふらつき、逆行性射精など
5α還元酵素阻害薬:アボルブ®︎など
  • 前立腺がんの疑いがなく、単なる前立腺肥大症の場合のみ使える
  • AGA治療薬で知られるフィナステリドと同様の作用を持つため、発毛効果が見られることもある
  • 副作用:勃起不全、性欲減退、肝機能障害など
ホスホジエステラーゼ5阻害薬:ザルティア®︎
  • 尿道や前立腺の平滑筋細胞を弛緩させるため、血流の改善と酸素の供給増加が期待できる
  • 比較的新しい前立腺肥大症の治療薬
  • 副作用:消化不良、頭痛、ほてり、動悸など
抗アンドロゲン薬(抗男性ホルモン剤):プロスタール®︎、パーセリン®︎など
  • テストステロンやジヒドロテストステロンなどの男性ホルモンを抑制する
  • 最近では処方されることが少なくなった
  • 副作用:性欲減退、勃起不全、消化管障害など
漢方薬、植物製剤:エビプロスタット®︎、セルニルトン®︎など
  • 一般的に症状を和らげるために使う
  • 植物製剤の抗酸化作用や抗炎症作用が注目されている
  • 副作用が少なく、効き目もゆるやかに現れる

これらの治療薬による副作用の起こる確率は一般的にさほど高くなく、ほとんどが数%未満や1%未満です。しかし、副作用の可能性はゼロではありませんので、これらの症状が現れて体調に異変が起こった場合は早めに主治医に相談しましょう。

治療薬の効果が実感できないときは?

治療薬を服用しても症状が改善しない場合、手術による治療が行われます。近年では、前立腺肥大症の治療には尿道から内視鏡を挿入して行う「経尿道的手術」が主流となっています。

経尿道的手術
尿道・膀胱専用の内視鏡をペニスの先から挿入し、前立腺のある部分を尿道の中から観察しつつ、尿道側から肥大した部分を徐々に切除して小さくしていく手術

経尿道的手術は、かつて行われていた開腹手術(下腹部を切開する)と比べ、格段に患者さんの体への負担が少ないことが大きなメリットです。しかし、前立腺の大きさがあまりに大きく、経尿道的手術では改善が難しいとされる場合は開腹手術の適応となることもあります。

手術直後には出血や炎症による痛みなどが起こる場合がありますが、たいていは週間程度でおさまります。万が一、こうした症状が長く続く場合は手術を行った部位に感染症などを引き起こしている可能性もありますので、早めに医師に相談しましょう。また、手術後も定期的に診察を受け、生活習慣などの指導を受ける必要があります。

手術後の生活指導の内容は?

前立腺肥大症の手術を受けた後には日常生活上、注意しなければならないことが多々あります。

まず、前立腺肥大症の手術の中でも経尿道的手術を行った場合は尿道がダメージを受けた状態となり、尿路感染症を起こしやすくなります。尿路感染症を防ぐためにも十分な水分を摂り、飲酒は控えるようにしましょう。

また、術後一か月ほどの期間は頻回に射精しないよう注意が必要です。そのほか、前立腺を刺激しないよう激しい運動や長時間のドライブなどは避ける必要もあります。

一方、開腹手術をした後も経尿道的手術を行った場合と同様の点に注意しなければなりません。さらに、お腹の傷は術後しばらくの間は感染のリスクなどがありますので、発熱や傷口の発赤、長引く痛みがあるときはできるだけ早めに病院に相談するようにしましょう。また、お腹の傷口が安定するまでは重たいものを持つなどお腹に負担になるような動作は避けることも大切です。

おわりに:前立腺肥大症の治療には筋肉を緩めるタイプの治療薬が使われる

前立腺肥大症の治療には、筋肉を緩めて圧迫されている尿道を広げ、排尿をスムーズにするための治療薬が使われることが多いです。また、前立腺は男性ホルモンの影響を強く受ける器官であると考えられるため、男性ホルモンを抑える薬が使われることもありましたが、近年ではあまり使われなくなりました。

また、治療薬で十分な効果が得られなかった場合は手術で治療することもあり、体への負担が少ない経尿道的手術を行います。

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