セフェム系の抗生物質の特徴は?考えられる副作用には何がある?

2019/5/10

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

抗生物質といえば、青カビから発見された「ペニシリン」が非常に有名ですが、ペニシリン以外にも抗生物質はたくさんあります。抗生物質はある種類の細菌に対して特殊に働く作用を持つ物質ですから、細菌の種類に応じて効きやすい抗生物質、効きにくい抗生物質という違いがあるのです。

では、セフェム系抗生物質とはどんな抗生物質なのでしょうか?また、考えられる副作用にはどんなものがあるのでしょうか?

セフェム系抗生物質とは

セフェム系抗生物質とは、「セファロスポリン」または「セファマイシン」という成分を主成分とした抗生物質のことで、ペニシリンなどと同じ「β-ラクタム系抗生物質」に分類されます。β-ラクタム系抗生物質は、総じて細菌の細胞壁を合成する酵素を特異的に阻害することから、毒性が低いとされています。

細胞壁とは、細胞の最も外側にある防御壁のようなもので、細菌類はこの部分がないと生きられません。β-ラクタム系抗生物質はこの細胞壁合成に関わる「ペニシリン結合タンパク質(PBP)」という物質に働きかけ、細胞壁が作られるのを阻害することで殺菌作用をもたらします。妊婦にも比較的安全に投与できるとされています。

セフェム系抗生物質は、開発された世代によって第一~第四世代に分けられます。第一~第四世代の特徴は以下の通りです。

種類 第一世代 第二世代 第三世代 第四世代
セファロスポリン系注射剤 セファゾリン・セファピリンなど セフォチアム・セフロキシムなど セフォジジム・セフォセリスなど セフェピム・セフォタキシムなど
セファロスポリン系経口剤 セファクロル、セファトリジンなど セフォチアムヘキセチル、セフロキシムアキセチルなど セフィキシム、セフジトレンピボキシルなど なし
セファマイシン系注射剤 なし セフォキシチン、セフメタゾールなど セフォテタン、セフブペラゾンなど なし

世代の分類はあくまでも開発された時期によって分類されたもので、必ずしも世代が上がるにつれてよく効くというわけではありません。しかし、世代が上がるにつれてセフェム系抗生物質の強みである「グラム陽性菌」に対する効果がやや減少し、そのぶん「グラム陰性菌」に対する効果がやや増加するといった傾向があります。

セフェム系抗生物質の各世代の特徴を以下で詳しく見ていきましょう。

セフェム系抗生物質、各世代の特徴は?

セフェム系抗生物質の各世代の特徴をまとめると、以下のようになります。

第一世代セフェム
黄色ブドウ球菌に対する抗生物質のメインとして使われてきた
レンサ球菌やペニシリン耐性菌、一部のブドウ球菌など、腸球菌以外のグラム陽性菌に作用する
第二世代セフェム
第一世代よりもグラム陰性菌に対して抗菌作用が高くなった
経口剤はインフルエンザ菌にも抗菌作用を持つため、呼吸器感染症に対して有効
第三世代セフェム
グラム陰性菌に対する作用が強く、逆にグラム陽性菌に対する作用は弱い
第一・第二世代で抗菌できなかった緑膿菌にも抗菌作用をもたらすものがある
第四世代セフェム
第一世代と第三世代の長所を併せ持ち、グラム陽性菌にも陰性菌にも抗菌作用を持つ
2019年3月現在経口剤はなく、注射剤のみ

第一世代セフェムは黄色ブドウ球菌に対する抗生物質として、第二世代セフェムは市中肺炎を引き起こす細菌への抗菌作用もあるとして長年使われてきましたが、近年、第一・第二世代セフェムの経口薬はだんだんと使われなくなってきました。

第三世代のセフェムは第一・第二世代よりもグラム陰性菌への抗菌作用を追求した結果、グラム陽性菌への作用が非常に弱くなりましたが、ペニシリン耐性肺炎球菌に対する抗菌作用があるなど、第三世代セフェムならではの作用もあります。

また、第四世代セフェムは第一・第三世代の良いところを併せ持っているため、グラム陽性菌・陰性菌ともに広い抗菌作用を示しますが、経口薬がなく、2019年3月現在、注射薬のみの投与となります。

セフェム系抗生物質は、世代による違いだけでなく個々の薬剤によってそれぞれ効果が違いますので、世代が同じでも必ず同じ細菌に対して同じような抗菌効果があるとは限りません。ですから、世代分けはあくまでもざっくりとした分類と思っておくと良いでしょう。

セフェム系抗生物質の効果は?

セフェム系抗生物質は、細菌の持つ「細胞壁」という部分に作用し、この合成を阻害します。すると、細胞壁を作ることができなくなった細菌は死滅します。セフェム系抗生物質は、細胞壁を合成する酵素にだけ働きかける物質であることから、細胞壁を持たない人間には毒性が低いとされているのです。

セフェム系に限らず、抗生物質は個々の細菌に対して特異的に作用する性質があります。ですから、同じセフェム系の同じ世代の薬剤であっても、効果のある細菌と効果のない細菌が違うこともあります。そのため、最初の受診でセフェム系抗生物質を処方されても効かなかった場合、他のセフェム系抗生物質に変更することがあります。

薬を変えるというと「強くするのだろうか、そんなに効かないなんて病状が良くないのでは」などと考えてしまうかもしれませんが、そうではありません。薬の強弱を変えるのではなく、種類を変えて、疾患を引き起こしている細菌を確実に攻撃できるものを探すのです。

一般的なセフェム系抗生物質の治療薬は?

それでは、一般的によく使われるセフェム系抗生物質を見ていきましょう。

ケフラール®︎
第一世代のセフェム系抗生物質(経口剤)
大人用のカプセルの他、小児用の細粒もある
パンスポリン®︎
第二世代のセフェム系抗生物質(注射剤)
経口薬(錠剤)は2017年3月に販売中止となったため、現在は注射剤のみ
セフゾン®︎
第三世代のセフェム系抗生物質(注射、経口)
大人用のカプセルの他、小児用の細粒もある
フロモックス®︎
第三世代のセフェム系抗生物質(経口剤)
大人用の錠剤の他、小児用の細粒もある
メイアクト®︎
第三世代のセフェム系抗生物質(経口剤)
大人用の錠剤の他、小児用の細粒もある

これらの薬剤を用途や病状に応じて使用します。パンスポリンは以前は経口薬の錠剤も処方されていましたが、2017年3月に販売が中止されたため、現在は注射剤だけが用いられています。

セフェム系抗生物質の副作用は?

セフェム系抗生物質を使った際に起こる可能性がある副作用として、以下のようなものがあります。

  • 吐き気
  • 下痢
  • 食欲不振

これらの消化器症状は、セフェム系抗生物質に限らず抗生物質ではしばしば見られる副作用です。抗生物質は体内に吸収されて効果を発揮したのち、腎臓から尿中へと排出されるため、その経路のどこかで臓器に影響を及ぼすこともあるからです。

また、非常に稀な副作用として「アナフィラキシーショック」「偽膜性大腸炎」の2つがあります。これらの副作用が起こることは非常に稀ですが、起こってしまった場合は非常に重篤な症状に進行する可能性があります。以下に見られるような症状が現れた場合は、医師や薬剤師に相談しましょう。

アナフィラキシーショックが疑われる場合
皮膚のかゆみ、じんましん、声がかすれる、息苦しい
偽膜性大腸炎が疑われる場合
頻繁な下痢、粘性のある便、腹痛、吐き気

おわりに:セフェム系抗生物質はペニシリンが効かない菌にも使われる

セフェム系抗生物質は、ペニシリン系抗生物質が効かなかった場合に使われることが多い薬剤です。ペニシリン系と近い性質を持っていますが、ペニシリンが効かない細菌にも抗菌作用があるからです。

セフェム系抗生物質の副作用としては消化器系の症状がありますが、多くは重症には至りません。しかし、ごく稀にアナフィラキシーショックなどを引き起こすことがありますので、該当の症状が現れた場合は医師や薬剤師に相談しましょう。

※抗菌薬のうち、細菌や真菌などの生物から作られるものを「抗生物質」といいます。 抗菌薬には純粋に化学的に作られるものも含まれていますが、一般的には抗菌薬と抗生物質はほぼ同義として使用されることが多いため、この記事では抗生物質と表記を統一しています。

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