ペニシリン・ショックってどんな事件だったの?

2020/1/24

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

ペニシリン・ショックとは、名前の通りペニシリンによって引き起こされた事件です。ペニシリンは世界で最初に発見された抗生物質として、広く知られている抗生物質です。
ペニシリンによって引き起こされた事件とは、いったいどんなものだったのでしょうか?また、事件後にはどのような対策が取られたのでしょうか?

冷凍宅配食の「ナッシュ」
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ペニシリンってどんな薬?

ペニシリンは抗生物質の一種で、肺炎や梅毒・敗血症などの幅広い感染症に対応できる成分として世界で最初に発見されたものです。ペニシリンは該当の細菌の「細胞壁」という部分が作られるのを阻害するため、細胞が増殖できなくなり、やがて死滅します。同じペニシリンでも、「天然型ペニシリン」「アミノペニシリン」「緑膿菌に対して抗菌作用を示すペニシリン」など、種類によって抗菌できる範囲が大きく違います。

ペニシリンは1928年、アレクサンダー・フレミングというイギリスの医師によって発見されました。黄色ブドウ球菌を研究用に培養していたペトリ皿に青カビが混入していることに気づいたフレミングは、さらにそのペトリ皿を観察すると、青カビの塊の周囲では黄色ブドウ球菌が増殖していないことにも気づいたのです。

このことから、フレミングは青カビが黄色ブドウ球菌を殺菌する作用がある物質を産生していることを突き止め、青カビの学名(Penicillium=ペニシリウム)にちなんでその物質に「ペニシリン」という名前をつけたのです。

ペニシリン・ショックってどんな事件?

ペニシリンは多くの感染症を治癒することができたため、非常に重宝されていました。どんな病気にも頻繁に使われていたために起こってしまったのが、ペニシリン・ショックです。これは昭和31年に、東京大学法学部の教授が虫歯の治療中にペニシリン注射を受けたことにより、アナフィラキシー・ショックを起こして亡くなった事件です。アナフィラキシー・ショックとは、重大なショック症状を引き起こすアレルギー反応で、現在では数万人に1人程度の確率で起こることがわかっています。

被害者の社会的地位が高かったこと、当時のマスコミが大々的に報道したことなどにより、ペニシリン・ショックは広く国民に知られることとなりました。さらに、その後の厚生省の調査によれば、1953~1957年の間に1,276名がショックを発現し、そのうち124名が死亡していることが明らかになったのです。

ペニシリンは、フレミングによる発見後は第二次世界大戦で多くの戦傷兵を助けるなど、まさに魔法の薬のように考えられていました。その結果、ペニシリンは感染症対策の有効な切り札として活用されてきました。その一方で、ペニシリンにはアレルギー反応を引き起こす可能性があることが知られず、その結果、ペニシリン・ショック事件を引き起こしてしまったのです。

ペニシリンにアレルギー反応を引き起こす可能性があることは、当時アメリカでは既に知られていて、日本の医師への警告や、ショック症状に備えて強心剤や副腎皮質ホルモン剤、酸素吸入などの応急処置の用意をしておくよう求めていました。

また、日本でも1951年ごろからペニシリンアレルギーの研究が行われていて、研究者からは度々その危険性が指摘されていたところでした。しかし、医療現場や行政、製薬企業に安全対策として活かされてはいなかったのです。そんな中で起こった事件でした。

事件後、どんな対策が取られたの?

ペニシリン・ショックによる死亡事件を受け、厚生省は注意喚起の通知を出しました。具体的には、以下のようなものです。

  • 患者の過去の副作用やアレルギー疾患の既往歴を問診すること
  • 問診の結果、ペニシリンの副作用があると考えられた場合は他の治療法を選択すること

 

ところで、今はペニシリンを服用しても大丈夫?

当時のペニシリン製剤は、純度の高いものでも75%程度で、多くの不純物が含まれていたと考えられています。そのため、当時のアナフィラキシー・ショックはペニシリン以外の物質が原因であった可能性も指摘されています。

現在製造されているペニシリンの純度は99%以上と非常に純度が高くなっているため、アナフィラキシー・ショックの発生頻度は下がっています。とはいえ、アレルギー反応は個人の体質によるものですから、絶対にアレルギーが起こらないとは言い切れません。特に、過去に薬剤でアレルギーを発症したことがある場合は、自分でできるだけ書き残しておきましょう。

おわりに:ペニシリン・ショックを繰り返さないために

当時製造されていたペニシリンよりも、現在製造されているペニシリンの方が圧倒的に純度が高く、アナフィラキシー・ショックの危険性は大きく減りました。しかし、アナフィラキシー・ショックはアレルギー反応なため、絶対に起こらないとは言い切れません。

薬によってアレルギー反応が出た場合、必ずどこかに記載しておきましょう。ペニシリンに限らず、薬剤による治療をする時にとても大切な資料になります。

※抗菌薬のうち、細菌や真菌などの生物から作られるものを「抗生物質」といいます。 抗菌薬には純粋に化学的に作られるものも含まれていますが、一般的には抗菌薬と抗生物質はほぼ同義として使用されることが多いため、この記事では抗生物質と表記を統一しています。

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