糖尿病の治療薬、DPP-4阻害薬ってどんな特徴がある薬なの?

2019/5/7

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

DPP-4阻害薬は、糖尿病の治療に使われる薬剤です。糖尿病は血液中の糖分濃度(血糖値)が高くなる疾患で、そのまま放っておくと動脈硬化をはじめとして、神経障害や腎機能障害などの合併症を引き起こす場合があります。

そこで、DPP-4阻害薬などを使って、血糖値を下げる必要があります。この記事では、DPP-4阻害薬の特徴をはじめ、種類や副作用などもご紹介します。

DPP-4阻害薬ってどんな薬?

DPP-4阻害薬は、体内でインスリンの分泌を促す物質を強くし、血糖値を下げる薬剤です。インスリンとは、血糖値を下げる唯一のホルモンのことで、このインスリンの分泌を促す「GLP-1」という物質(消化管ホルモン)の働きを助けるのがDPP-4阻害薬です。

インスリンの分泌を促す薬剤ですが、単体で服用したときは、他のインスリン分泌促進薬と比較して低血糖が起こりにくいとされています。また、体重を増やしにくいのも特徴です。日本では2009年から使われるようになった比較的新しい薬剤で、2型糖尿病の患者さんに最初に使われる薬剤です。

糖尿病には大きく分けて1型と2型の2種類があり、1型は何らかの原因でインスリンを産生・分解する部位が破壊された状態です。インスリンそのものを作り出せないため、DPP-4阻害薬での治療は行えません。

2型糖尿病にも大きく分けて「インスリンが効きにくい(インスリン抵抗性)」ものと、「インスリンの分泌が少なくなった(インスリン分泌低下)」ものの2種類の病態があります。DPP-4阻害薬は、後者のインスリン分泌低下によって起こる糖尿病を改善する効果が期待されます。

DPP-4阻害薬はどうやって血糖値を下げるの?

「GLP-1」をはじめ、インスリンの分泌を促す消化管ホルモンの総称を「インクレチン」と言い、これらを分解してしまう酵素が「DPP-4」と呼ばれています。そこで、DPP-4阻害薬はこの酵素の働きを阻害し、GLP-1が減るのを防ぎ、インスリンの分泌を促進します。インスリンの分泌が増えれば、血中に溢れている糖分を細胞内に取り込んだり、筋肉で分解したりする働きが進みます。

インクレチンとは?

インクレチンは、食事などで栄養分(糖分)を摂取すると分泌される消化管ホルモンのことです。血糖値が上がると、このインクレチンが膵臓のランゲルハンス島にある「β細胞」という部位を刺激し、インスリンの分泌を促して血糖値を下げます。血糖値が上がることがいわば「スイッチ」の役割を果たしているので、血糖値が下がるとスイッチが切れ、必要以上にインスリンが分泌されないようになっています。

この仕組みを利用し、低血糖を引き起こしにくい2型糖尿病の治療薬として開発が進められ、閑静したのが「DPP-4阻害薬」です。血糖値が高い状態でのみインスリンの分泌を促進するため、他の糖尿病治療薬、特に強制的にインスリンの分泌を促すタイプの薬剤と比べて、必要以上の低血糖を引き起こす副作用が起こりにくいと考えられています。

また、インクレチンには膵臓のランゲルハンス島の「α細胞」にも働きかけ、血糖値を上げるホルモンである「グルカゴン」の分泌を減らして血糖値の上昇を妨げる作用もあります。インクレチンにはGLP-1の他にGIPというものもありますが、いずれも小腸で分泌される消化管ホルモンで、DPP-4によって短時間で分解されます。

DPP-4阻害薬にはどんな種類があるの?

DPP-4阻害薬には、毎日内服するタイプと、週に1回内服するタイプの2種類があります。

毎日内服するタイプ
シタグリプチンリン酸塩水和物(商品名:ジャヌビア、グラクティブ)
ビルダグリプチン(商品名:エクア)
アログリプチン安息香酸塩(商品名:ネシーナ)
リナグリプチン(商品名:トラゼンタ)
テネリグリプチン臭化水素酸塩水和物(商品名:テネリア)
アナグリプチン(商品名:スイニー)
サキサグリプチン水和物(商品名:オングリザ)
週1回内服するタイプ
トレラグリプチンコハク酸塩(商品名:ザファテック)
オマリグリプチン(商品名:マリゼブ)

それぞれの薬剤について、詳しく見ていきましょう。

毎日内服するタイプ

毎日内服するタイプのDPP-4阻害薬は7種類と、非常に多くあります。薬剤によって肝臓で代謝されるのか、腎臓で代謝されるのかが異なるものや、2種類のルートを持っているものもあります。それぞれ、医師の指示に従って正しく服用しましょう。

シタグリプチンリン酸塩水和物
薬の代謝・排泄は腎機能の影響を受けるため、腎機能が低下している場合は慎重に投与する
SGLT2阻害薬との配合薬(スージャヌ配合錠)がある
ビルダグリプチン
薬の代謝・排泄は肝機能の影響を受けるため、重度の肝機能障害がある場合は使用しない
ビグアナイド薬との配合薬(商品名:エクメット配合錠)がある
アログリプチン安息香酸塩
チアゾリジン薬との配合剤(商品名:リオベル配合錠)がある
ビグアナイド薬との配合剤(商品名:イニシンク配合錠)がある
リナグリプチン
胆汁中に排出されるため、腎機能や肝機能に障害があっても容量の調節をせずに使用できる
テネリグリプチン臭化水素酸塩水和物
排出ルートが肝臓経由・腎臓経由の2種類ある
SGLT2阻害薬との配合剤(商品名:カナリア配合錠)がある
アナグリプチン
肝臓での代謝をほとんど受けないため、肝機能障害があっても使用できる
サキサグリプチン水和物
腎臓から排出されるタイプの薬剤だが、腎障害がある場合も慎重投与で使用できる

週1回内服するタイプ

週1回内服するタイプには、2種類のものがあります。いずれも腎臓から排出されるタイプの薬剤です。

トレラグリプチンコハク酸塩
腎臓から排出されるタイプの薬剤だが、腎障害がある場合も慎重投与で使用できる
週に1回服用する薬剤で、飲み忘れた場合は気づいた時点で決められた用量を服用し、その後は決められた曜日に服用する
オマリグリプチン
腎臓から排出されるタイプの薬剤だが、腎障害がある場合も慎重投与で使用できる
週に1回服用する薬剤で、飲み忘れた場合は気づいた時点で決められた用量を服用し、その後は決められた曜日に服用する(※同じ日に2回服用しないよう気をつける)

DPP-4阻害薬でみられる副作用は?

DPP-4阻害薬で見られる副作用として、以下のようなものがあります。

低血糖
冷や汗、悪心、手足の震え、ふらつき、脱力感など
吸収の速い砂糖やブドウ糖などの糖分を摂取しても症状がおさまらない場合は、すぐに医師や薬剤師に相談する
高所での作業、自動車の運転など、集中力が必要な作業で危険性を伴うものを行う場合には十分注意する
消化器症状
便秘、胃部の不快感、吐き気、下痢など

DPP-4阻害薬は、血糖値が上がっている状態でインスリンの分泌を促す薬剤です。そのため、単独で使用している場合は基本的に、必要以上に血糖値が下がらないような仕組みになっています。

しかし、血糖値の高低に関わらず、強制的にインスリンを放出させる薬剤であるスルホニル尿素(SU)薬と併用した場合、血糖値が下がりすぎてしまう低血糖状態に陥る恐れがあります。特に肝機能や腎機能に障害があり、薬剤の排出がうまくいかない方は注意が必要です。

おわりに:DPP-4阻害薬は血糖値が高い時にのみインスリン分泌を促す薬剤です

DPP-4阻害薬は、血糖値が高いときにのみインスリンの分泌を促す薬剤で、単独使用では低血糖のリスクが低い安全な糖尿病治療薬です。2型糖尿病のうち「インスリン分泌低下」の人に対して使われる薬剤で、毎日服用するタイプと週に1回服用するタイプがあります。

日本では2009年から使われるようになった比較的新しい薬剤です。従来のインスリン分泌促進型の薬剤と併用すると低血糖になりやすいので、注意して使いましょう。

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