記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2019/5/27
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
子供がかかることが多い水ぼうそうですが、実は大人も水ぼうそうにかかることがあります。大人になってから発症すると重症化しやすいため、対症療法ではなく薬で治療を行う場合が多いです。
水ぼうそうの治療に使う薬とはどんなものなのでしょうか?また、発症したら薬以外にはどうやって過ごせば良いのでしょうか?
水ぼうそうは、「水痘・帯状疱疹ウイルス(Varicella Zoster Virus=VZV)」というウイルスによって引き起こされる感染性の疾患です。発熱と全身の皮膚にかゆみのある発疹・水ぶくれができるのが特徴で、主に小児(1~4歳)がかかりやすく、ほとんどの子供では9歳ごろまでに感染・発症すると言われています。
しかし、免疫機能が正常な小児では重症化することは少なく、ほとんどが発症から20日前後で快癒します。また、一度感染・発症すると体内に抗体ができるため、再発することはほとんどありません。小児期に感染することなく、大人になってから初めて感染して発症した場合、重症化しやすくなり、肺炎や脳炎などの合併症を引き起こすリスクも高くなります。
子供が水ぼうそうを発症すると、38度程度の発熱と同時に赤い発疹が全身に出現します。主に胸や腹部などの「体幹部」と呼ばれる部分を中心に、頭皮やまぶたなど、あらゆる場所の皮膚はもちろんのこと、人によっては口の中の粘膜にまで発症することもあります。口の粘膜に発症した場合、食べ物を食べにくくなることがあります。
かゆみを伴った赤い発疹は、やがて水ぶくれへ、中心に膿をもった膿疱へ、最終的にはかさぶたへと徐々に変化します。赤い発疹からかさぶたになるまでだいたい1週間程度、かさぶたが全て消えるまでだいたい20日程度かかります。感染力は水ぶくれのときが最も強く、かさぶたになる頃には感染力はほとんどなくなります。
また、そのほかに現れる症状として、食欲低下や全身倦怠感があります。なんとなくだるそう、いつもよりも食が細い、というときは注意しておきましょう。
同じように発疹のできる疾患として、じんましんがあります。水ぼうそうとじんましんの違いを比較すると、以下のようになります。
項目 | 水ぼうそう | じんましん |
---|---|---|
色 | 赤い | なし(皮膚と同色) |
発疹の変化 | 水ぶくれからかさぶたへ | なし |
消失にかかる時間 | 20日程度で消える | 数時間で消える |
水ぼうそうとじんましんの違いの1つとして色の変化がありますが、激しいかゆみは同じように発症しますので、かゆみに耐えられず引っ掻いてしまうとその部分が赤くなってわからなくなることもあります。その場合は、発疹が水ぶくれに変化するかどうか、数時間程度で消失または明らかに症状が減退するかどうかを確認すると良いでしょう。
じんましんは膨疹という膨れた湿疹となり、一般には数時間で消えて、水ぶくれにもなりません。発疹が水ぶくれに変化し、1日以上経ってもおさまらないようなら水ぼうそう、発疹の状態そのものには変化がなく、1日経つとおさまるようならじんましんと考えられます。
大人の水ぼうそうも子供の症状と基本的には同じですが、大人の方が一般的に重症化しやすく、特に高熱を発症すること、水ぶくれはかゆみよりも痛みが強いことが大きな特徴です。また、前述の通り肺炎や脳炎などの重篤な合併症を引き起こすこともあるため注意が必要です。
また、妊娠している女性が感染した場合、母体が重症化したり水痘肺炎などの重篤な合併症を引き起こしたりするだけではなく、血液を通じて胎児にウイルスが移行し、皮膚に痕が残ったり失明などの先天性異常が現れたりする「先天性水痘感染症」という状態になることもあります。妊娠中に母体が初感染した場合、胎児への感染率は約1~2%、母体の死亡率は約14%にものぼります。
水ぼうそうは、小児がかかった場合、免疫機能の獲得のためにも発熱などへの対症療法で済ませる場合が多いです。しかし、症状が重い場合や、成人が発症した場合は重症化したり合併症を引き起こしやすいため、薬物療法が使われることもあります。治療には水痘・帯状疱疹ウイルスの増殖を抑える「抗ウイルス薬」を使用します。
抗ウイルス薬には「アシクロビル」「パラシクロビル」の2種類あります。パラシクロビルは腸管から吸収されると、体内でアシクロビルに変化してから作用する性質があります。このため、基本的にはアシクロビルを使いますが、重症化のリスクがある人や免疫が低下している人の場合は、アシクロビルよりもパラシクロビルを優先的に使うことがあります。
それぞれの薬について、詳しく見ていきましょう。
水痘・帯状疱疹ウイルスは、ヘルペスウイルスというウイルスの仲間です。ヘルペスウイルスは皮膚や粘膜に水ぶくれを作るのが特徴で、水痘・帯状疱疹ウイルスのほか、単純ヘルペスウイルスというウイルスがよく知られています。アシクロビルは、このヘルペスウイルスに感染した細胞内で活性化し、ウイルスのDNA複製を阻害して増殖を防ぐ薬剤です。
そのため、水痘や帯状疱疹だけでなく、ヘルペスウイルスの仲間が原因の口唇・顔面ヘルペス、性器ヘルペス、カボジ水痘様発疹症などの治療にも使われます。ヘルペスウイルスを直接死滅させる薬ではなく、増殖を抑える薬なので、発症初期に投与するのがより効果的です。特に、水ぼうそうの場合は発症してから24時間以内に投与しないと効果を実感しづらいとされています。
製品名は以下の通りです。
このほか、ジェネリック医薬品が多数販売されています。ジェネリック医薬品の中には、内服用のゼリーやシロップ剤もあり、子供や飲み込む力が低下している人でも飲みやすいよう工夫がされています。副作用は比較的少なく、安全な薬ですが、ごくまれにアレルギー反応やむくみなどを生じることもありますので、これらの症状が疑われる場合はすぐに医師に相談しましょう。
パラシクロビルは、体内でアシクロビルに変化してから作用するため、基本的な効能はアシクロビルと同じです。よって、アシクロビルにアレルギー反応が出たという人には使えません。また、アシクロビルへの変化は肝臓で行われるので、肝不全状態の人にも使えません。しかし、逆にアシクロビルは効きにくい、免疫が弱まっている、という場合は吸収率の良いパラシクロビルの方が有効です。
製品名は以下の通りです。
静脈注射の場合、吸収効率は変わらないため、パラシクロビルの注射薬はありません。アシクロビルの注射で十分です。また、アシクロビルと同じく、ジェネリック医薬品も多数販売されています。副作用も基本的にはアシクロビルと同じですが、アシクロビルよりもやや腎機能に関する副作用の報告が多いため、腎機能が弱っている場合は注意しましょう。
水ぼうそうの発疹や水ぶくれは非常に強いかゆみを引き起こします。このかゆみの程度にも個人差がありますが、子供の場合は耐えきれず掻きむしってしまい、皮膚に痕が残ったり、掻きむしった後の傷口から別の細菌やウイルスが侵入して細菌感染症を合併してしまうことがあります。そのため、かゆみを抑える薬として軟膏を出してもらえることがあります。
一般的によく使われるのは「カチリ(石灰酸亜鉛化リニメント)」というもので、小児科や皮膚科で処方してもらえます。また、水ぶくれは温まるとかゆみを増すので、入浴時に湯船を避けてシャワーなどで済ませたり、水ぶくれの部分を冷やしたりするのも効果的です。
水ぼうそうにかかった時は、以下のようなことに注意して過ごしましょう。
水ぼうそうの症状のうち、特につらいのは発熱とかゆみです。そこで、まずは熱への対処として十分な水分補給、汗をかいたらこまめに体を拭いて着替える、などを心がけます。また、不快でなければ熱を冷ますために保冷剤や冷感シートなどを使っても構いません。
水ぼうそうが口の粘膜にもできている場合、口の中を刺激しないように柔らかいものや喉ごしの良いものを食べましょう。また、同じように皮膚にできている水ぶくれも引っ掻いて潰してしまわないようにしましょう。皮膚に傷痕が残ったり、傷口から新たな細菌感染症にかかってしまうこともあります。
「学校保健安全法」及び「保育所における感染症対策ガイドライン」によって、すべての発疹がかさぶたになり、感染力を失うまでは出席停止と定められています。また、発症後の初登園・登校の場合、治癒証明書などの提出が必要となる場合も多いですから、幼稚園や学校に確認して必要があれば医師に証明書を書いてもらいましょう。
水ぼうそうの治療には、基本的には「アシクロビル」という抗ウイルス薬を使います。アシクロビルはヘルペスウイルス全体に対して効果を発揮する薬剤で、ウイルスの増殖を抑える働きがあります。そのため、24時間以内の投与で効果を発揮します。
また、治療中は発熱のため汗と水分補給に注意し、口の中にも水ぶくれができた場合は柔らかく喉ごしのよい食事をとるようにしましょう。