記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2019/7/5
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
メチル水銀は、自然界の循環の中で作り出される物質です。あまり身近なものではないように思うかもしれませんが、実は食卓にのぼる身近な食材に含まれている物質でもあります。この記事では、メチル水銀がどのようなものかを紹介するとともに、メチル水銀を含む食べ物や、摂取に気をつけたほうがいい人について解説します。
メチル水銀、という金属のことを耳にしたことがある方は多いのではないでしょうか。多くの場合、魚介類に含まれる有害物質として知られているかもしれません。
水銀自体は、地球上に多く存在しています。そして火山の噴火といった自然界の活動や、ゴミの焼却や石炭の燃焼といった人間の活動でも水銀量は増加していきます。自然界の水銀の多くは、無機水銀として形を変えながら自然界を循環しています。そして、この循環の中でメチル水銀が生まれていきます。
降雨等により河川や海に水銀が流出すると、水中の微生物がこれらを取り込み、そのはたらきでメチル水銀に変化します。やがて微生物は、小魚に食べられ、その小魚を大型魚類が食べていくという食物連鎖が続きます。
このような食物連鎖を繰り返すうちにメチル水銀がどんどん濃縮され、マグロやカジギなどの大型魚類、キンメダイなどの深海魚の体内に残る頃には、比較的高濃度になっていきます。そして、これらの大型魚類を私たち人間が食べることによって、有害な高濃度のメチル水銀を摂取してしまうことにつながるのです。
かつて、メチル水銀で高濃度に汚染された魚介類の摂取が原因で、水俣病が発生しました。四肢末梢神経の感覚障害や運動失調など、重大な被害を与えたこの病気が明らかになってから、日本では魚介類の水銀濃度の調査が精力的に行われるようになりました。
その結果、比較的メチル水銀濃度が高い魚介類も次々と判明し、食物繊維の上位にいるような大きな魚ほど水銀濃度が高く、魚介類中の総水銀の75~100%がメチル水銀であることが分かっています。
普段食品として接する機会が多い魚を具体的に挙げると、キンメダイ(0.54ppm)、クロマグロ(0.53ppm)、メバチマグロ(0.54ppm)、メカジキ(0.71ppm)、などが挙げられます(数字は2010年5月に厚生労働省が発表したもの)。
特に魚の漁獲量も消費量も多い北海道では、北海道近海で取れた魚介類の水銀濃度を1976年から継続して調査しています。また、2007年からは水産加工品についても調査を行っていますが、総じて安全性に問題はない数値となっています。
水銀は自然界にも存在する一般的な物質で、無機水銀の状態であれば消化管からほとんど吸収されることはありません。しかし、メチル水銀になってしまうと、容易に体内に吸収されるようになってしまいます。
体内に取り込まれたメチル水銀は、妊婦の胎盤を通過して胎児にも届きます。そして、胎児の血液や脳関門も通過して、脳に到達してしまうのです。高濃度のメチル水銀は神経系に作用し、神経障害などを引き起こすといわれています。
未発達の胎児の脳は、比較的低濃度のメチル水銀であっても影響を受けてしまう危険性があるため、特に注意が必要です。妊娠中の女性は、メチル水銀を高濃度で含む可能性のある魚の摂取には注意してください。
水銀濃度が比較的高い魚は、食物連鎖の上位にいるような大きな魚、深海魚や深海と浅海を行き来する魚、クジラ類などです。具体的な魚の種類をいくつか挙げておきます。妊娠中は、食べ過ぎないよう注意してください。
メチル水銀の摂りすぎは、体に影響を及ぼします。しかし一般の人であれば、食べ過ぎない、偏食にならない程度の量であれば問題ありません。具体的には、メチル水銀濃度が高い魚であれば、週2日以内(週におおむね100~200g程度以下)にすることをおすすめします。また、サンマ、イワシ、サバなどのメチル水銀濃度が低い魚であれば、摂取を控える必要はないといわれています。
一方、妊婦、幼児、妊娠希望の人は、メチル水銀濃度が高い魚の料理は週1回程度にとどめたほうがよいかもしれません。なお、メチル水銀濃度が低い魚であれば控える必要はないとされていますが、気になる人は主治医に相談してください。
メチル水銀は、摂取しすぎると神経などに障害を及ぼす可能性がある有害な物質です。食物連鎖の上位にいるような大きな魚や深海魚、クジラなどには、高濃度で含まれています。そのため、妊婦、幼児、妊娠希望の人は、これらの魚の摂取には十分注意してください。魚全般が危険というわけではなく、サンマやイワシ、サバなどのメチル水銀濃度が低い魚であれば問題ないといわれています。