自己免疫疾患を発症するのはなぜ?どんな病気を引き起こすの?

2019/7/30

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

自己免疫疾患とは、自分の体に入ってきたウイルスや細菌などを素早く発見し、排除する「免疫」という機能に何らかの異常が起こり、自分の体そのものを攻撃してしまうという病気の総称です。

では、自己免疫疾患には具体的にどんな病気が含まれるのでしょうか?また、そうした病気の原因にはどのようなことが考えられるのでしょうか?

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自己免疫疾患ってどんな病気?

人間の体には、免疫機構という体内に入ってきた異物を認識・排除する機能が備わっています。この免疫機能に何らかの異常があり、自分自身の細胞やタンパク質を異物として攻撃してしまい、その結果さまざまな症状を引き起こす病気をまとめて「自己免疫疾患」と読んでいます。自己免疫疾患は、特定の臓器だけが攻撃される「臓器特異的自己免疫疾患」と、全身の臓器が攻撃される「全身性自己免疫疾患」とに大きく分けられます。

さらに、どの臓器や部位が攻撃を受けるかによって、具体的な病名がついています。以下にそれぞれの例を挙げます。

臓器特異的自己免疫疾患
血液系:自己免疫性溶血性貧血、特発性血小板減少性紫斑病、悪性貧血など
その他:慢性甲状腺炎、バセドウ病、重症筋無力症、自己免疫性肝炎、インスリン依存型糖尿病など
全身性自己免疫疾患
膠原病、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、多発性筋炎、皮膚筋炎など

自己免疫疾患の多くは女性に多いと言われていますが、この理由は明らかになっていません。一説にはホルモンが関与している、妊娠中に他者由来の細胞が母体に入ることが関係している、などがありますが、いずれも決定的なことはわかっていません。

自己免疫疾患を発症する原因は?

自己免疫疾患の明確な原因は明らかになっていません。しかし、考えられている説には以下のようなものがあります。

  • 免疫細胞である「T細胞(異物を認識する)」が、誤って自分の細胞に結合したのに細胞死せず、生き残ったものが「B細胞(抗体を作る)」に自身と結合した細胞を攻撃させてしまう
  • B細胞が正常に機能せず、自分自身を攻撃する異常な抗体を作る
  • ウイルスなどの侵入により、自分のタンパク質とよく似た配列のタンパク質が体内に入り、自分のタンパク質をウイルスのタンパク質と間違えて攻撃してしまう
  • B細胞が異常に増殖し、自己抗体を作ってしまう
  • 体内の正常な物質がウイルス・薬・紫外線・放射線などの影響で変質し、それを免疫系が異物と認識して攻撃する

いずれも決定的なデータや報告がないため、可能性として考えられるという段階であり、これら以外が原因となっている可能性もあります。

自己免疫疾患によって発症する病気は?

最初にご紹介したとおり、自己免疫疾患によって発症する病気は「全身性」「臓器特異的」の2つに分けられます。たとえば、中枢神経の髄鞘のタンパク質が「異物」と認識された場合、髄鞘をはじめとした神経系統が破壊され、「多発性硬化症」という臓器特異的自己免疫疾患が発症します。

臓器特異的自己免疫疾患には、他にも「潰瘍性大腸炎」「強皮症」「ベーチェット病」「特発性血小板減少性紫斑病」「重症筋無力症」などがあります。一方、全身性自己免疫疾患にはよく「膠原病」として知られている「関節リウマチ」や「全身性エリテマトーデス」などが含まれます。難病情報センターのデータによれば、1974年から2007年まで、これらの自己免疫疾患は年々増え続けています

自己免疫疾患の多くは、発症してもしばらくは自覚症状がなく、慢性的に経過したのち、自覚症状が現れてから初めて病院を受診して発見され、治療を始めるという経過を辿ります。つまり、発症から治療開始までにかなりのタイムラグが発生してしまうのです。このため、非常に治りにくいだけでなく、原因もわかりにくくなってしまいます。

このような事情から、日本では公費負担として補助を受けられる特定疾患に指定されています。

自己免疫疾患はどうやって治療する?

自己免疫疾患の原因はほとんど解明されていないため、治療法が限られています。多くは免疫系の働きを抑える薬剤や炎症を和らげる薬剤を使い、症状を軽減することになります。自己免疫疾患はその性質上、どうしても発症してから診断までに時間がかかってしまうため、決定的に症状を治療する方法がないのが現状です。できるだけ早く発見し、治療を開始することが治療の効果を上げる唯一の方法です。

ところが、自己免疫疾患の中でも患者数がもっとも多い「関節リウマチ」では、1999年に炎症性サイトカインという物質を標的とした抗体医薬が開発されました。さらに、この抗体医薬は、それまでの「非ステロイド系抗炎症薬」と「DMRDs(疾患修飾性抗リウマチ薬)」、「メトトレキサート(骨破壊抑制効果をもたらす)」を組み合わせた治療法よりも、はるかに強力な抗炎症作用と骨破壊抑制効果を得られることがわかりました。

その後、次々と抗炎症性サイトカイン薬が開発され、日本全体で約70万人いるとされる患者さんに朗報をもたらし続けています。また、多発性硬化症に対しても、インターフェロンβ製剤が有効とされる報告があり、抗体医薬も登場し始めています。

自己免疫疾患にはある種の共通した発症メカニズムがあると考えられているため、1つの自己免疫疾患に有効な治療薬は他の自己免疫疾患にも適応が拡大できる可能性が高く、今後、多くの難病にも効果的な治療薬が発見・開発されていくことが期待できます。

おわりに:自己免疫疾患の原因は不明だが、徐々に治療薬が開発されています

自己免疫疾患とは、本来は自分の体を異物から守るための「免疫」という機能が何らかの理由によって間違えて自分自身を攻撃してしまう病気の総称で、全身性と臓器特異的の2種類に大きく分けられます。

全身性自己免疫疾患の1つ「関節リウマチ」には、既に強力な抗炎症・骨破壊抑制効果を持つ治療薬が開発されています。今後も、自己免疫疾患に関する有効な治療薬の開発は進んでいくことでしょう。

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