記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2019/9/9
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
微生物はときに「人類最小の敵」とも呼ばれることもあるように、恐ろしい病原体となって重篤な疾患を引き起こすことがあります。「日本紅斑熱」もそうした疾患の1つで、早期発見・治療を行えばすぐに回復できますが、放置して重症化すると生命を脅かすこともあります。
そんな日本紅斑熱とは、どのように感染し、どのような症状が見られるのでしょうか?比較的新しいこの疾患について、感染から治療までの流れをご紹介します。
日本紅斑熱とは、「日本紅斑熱リケッチア」という病原体(微生物)を持ったマダニ類に刺されることで感染する疾患です。主な症状は「急な高熱」「全身の紅色の発疹(斑点)」で、1984年に徳島県で初めて発見された比較的新しい疾患です。マダニが活発に活動する4~10月にかけてもっとも多く患者が発生し、行楽や農繁期の季節とも重なることから、ダニに接しやすい場所に行くときは注意が必要です。
マダニは野山・畑・草むらなど、およそ自然のある場所ならどこにでも生息しています。すべてのマダニが「日本紅斑熱リケッチア」を保有しているとは限りませんが、成虫でも3~4mmのダニがリケッチアに感染しているかどうかを目視で判断できるわけではありませんので、そもそもダニに刺されないよう注意が必要です。
「日本紅斑熱リケッチア」はダニに刺されることでヒトへ感染しますが、感染した人から他の人へ感染が広がることはありません。しかし、ダニからダニへと継卵感染で受け継がれるほか、感染した野生のげっ歯類・鹿などの動物が感染巣となり、動物からダニへ、ダニからヒトへと感染することもよくあります。
「日本紅斑熱リケッチア」を持つダニに刺されて感染すると、2~8日後に倦怠感・頭痛・悪寒とともに、38℃~40℃の高熱が急激に現れます。これとほぼ同時に、米粒大~小豆大程度の大きさの赤い発疹が手足や手のひらに現れ、やがて全身に広がります。しかし、この発疹は水疱瘡などとは異なり、かゆみや痛みがないのが特徴です。
また、関節痛や筋肉痛を伴うこともあり、重症化すると痙攣や意識障害、DIC(播種性血管内凝固症候群)などを引き起こすことがあります。DICは全身の血管内に小さな血栓ができ、さまざまな臓器障害や出血が同時に起こる状態です。
早急に適切な診断と治療を受けられれば、重症化したり後遺症や二次疾患に至ることはありませんが、診断や治療が遅れると重症化することもあります。高熱や発疹が現れたら、すぐに医療機関で診察を受けましょう。
日本紅斑熱は、治療が遅れれば遅れたぶんだけ重症化の危険が高まり、回復までの期間も長くなることから、早期発見・早期治療が重要です。そのため、以下のような所見があり、日本紅斑熱リケッチアに感染している疑いが強い場合は、確定診断を待たずに治療を開始します。
治療では、テトラサイクリン系抗生物質(抗生物質)が第一選択薬として使われます。テトラサイクリン系抗生物質にアレルギーなどがあって使えない場合、「クロラムフェニコール」が使われることもあります。ニューキノロン系抗生物質も有効とされていますが、β-ラクタム系抗生物質は効かないことがわかっています。このため、まずは「ドキシサイクリン」「ミノサイクリン」などのテトラサイクリン系の薬剤が使われることが多いです。
また、1日の最高体温が39℃以上となるような重症例、または重症化が近いと予想される症例の場合には、テトラサイクリン系抗生物質とニューキノロン系抗生物質をすぐに、また同時に投与するという治療法がこの疾患の発見者である馬原医師から提唱されています。
テトラサイクリン系抗生物質はこの疾患に対して特効性があり、投与後はおよそ1日程度で急速に熱が下がります。ただし、解熱をはじめとして症状が落ち着いても、再燃を防ぐために7〜10日間は投与が必要です。症状が落ち着いたからと勝手に薬を飲むのを止めず、医師の指示には必ず従いましょう。
日本紅斑熱は、リケッチアを持つダニに刺されることで感染します。つまり、持っていないダニに刺されても感染しないため、「流行時期(4~10月)に流行地に行かない」ということが大切です。その土地に行く場合であっても、野山や畑にむやみに入らないこと、どうしても自然の多い場所に行く場合は長袖・長ズボンなど、ダニに刺されにくい服装をすることを心がけましょう。地面に直接座らないことも重要です。
また、ディートやイカリジンなどの成分を含むダニ予防スプレーなどもある程度の効果があるとされていますので、長袖や長ズボンなどの服にこうしたスプレーをしておくことも大切です。農繁期などで野外作業を行った後は、すぐに入浴すると刺しているマダニが見つかることもあるため、早期発見の目安として推奨されています。
日本紅斑熱は「日本紅斑熱リケッチア」という微生物に感染して起こる疾患であり、38~40℃の高熱と全身に広がる赤い発疹が特徴です。ただし、この発疹にかゆみや痛みはなく、早期発見・早期治療できれば重症化することもなく、数週間程度で回復します。
症状が出たらすぐに治療を受けることが大切ですが、同時にかからないよう予防することも大切です。流行時期に行かないこと、ダニに刺されない服装やスプレーなどが有効です。
※抗菌薬のうち、細菌や真菌などの生物から作られるものを「抗生物質」といいます。 抗菌薬には純粋に化学的に作られるものも含まれていますが、一般的には抗菌薬と抗生物質はほぼ同義として使用されることが多いため、この記事では抗生物質と表記を統一しています。