記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2024/2/28
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
PM2.5は、大気汚染物質のひとつであり、大量に吸い込むと健康被害を及ぼす恐れがあります。PM2.5の飛散量については地域差があるため、「なんとなく怖いもの」という認識しかない人もいるかもしれません。この記事では、PM2.5が体に与える影響や発生経路、PM2.5から体を守るためにできる対策など、PM2.5の基本情報について解説していきます。
「PM」とは「Particulate Matter(粒子状物質)」の頭文字を取って略したもので、工場や自動車・船舶・航空機などから排出された煤煙や粉塵、硫黄酸化物(SOx)など、大気汚染の原因となる粒子状の物質を指します。「2.5」は大きさを表し、直径2.5μm以下の非常に小さな粒子であることを示しています。
1μmは1mmの1000分の1で、人間の髪の毛の直径が約70μm程度ですから、PM2.5は髪の毛の直径に約28個も並ぶと考えると、非常に小さい粒子であることがわかります。そして、この小ささが非常に問題で、小さいゆえに肺の奥深くまで入り込み、喘息や気管支炎などの呼吸器系疾患や循環器系疾患などのリスクを高めるといわれているのです。
一般的に、ヒトの上部気道(鼻腔・咽頭・喉頭、すなわち鼻から喉まで)には10μmよりも大きい粒子でも入り込めます。しかし、それよりも下の気管や気管支には10μmよりも小さい粒子しか入れず、さらにその先の肺や肺胞には2.5μmよりも小さい粒子しか入れません。しかし、PM2.5ほど小さい粒子の場合、肺や肺胞にまで入り込む可能性があります。もともと呼吸器系や循環器系の疾患を持っている人や、高齢者・子どもなど免疫力の弱い人は、これらの粒子の影響を受けやすいといわれていますので、より注意が必要です。
PM2.5のような粒子状物質は、おもに「直接的な発生」「大気中での化学反応」の2つの経路で発生すると考えられています。以下がそれぞれの具体的な発生経路の例です。
PM2.5は肺の奥深くまで入り込み、以下のような呼吸器系や循環器系の疾患を引き起こします。
2013年10月、世界保健機関(WHO)の研究機関IARCは、屋外の大気汚染と、その主要物質であるPM2.5がヒトに対して発がん性を持つ「グループ1」の物質に分類されたと発表しました。環境省が定める「健康を維持するのに望ましい濃度」は1日の平均が35μg/㎥であり、70μg/㎥を超えると健康に被害を及ぼす可能性が高くなるといわれています。
日本国内でのPM2.5に関する取り組みは2009年の基準設定に始まり、それ以前から取り組んでいたSPM(PM6.5-7.0相当の浮遊粒子状物質)を減らすための工場・事業所からの煤煙発生施設の規制や自動車排出ガス規制などの努力も含めて、徐々に減少傾向にあります。
環境省が発表している、国内全測定局のSPM濃度の年平均によれば、1974年には0.16mg/㎥を超えていましたが、翌年には0.09mg/㎥以下に減少し、移行も緩やかに減少を続け、2001~2008年までは0.04mg/㎥以下を維持しています。
日本国内ではこれだけ減らす取り組みが進んでいたPM2.5がにわかに取り沙汰され始めたのは、2013年の1~2月にかけて中国(北京)で発生した大規模な大気汚染により、PM2.5の値が記録的に悪化したことによります。中国は日本からみて西側に位置することから、偏西風の影響によって、日本にも越境汚染という形でPM2.5が飛散してきたためです。とはいえ、このときの越境汚染に関しても日本国内の多くの都市では前年・前々年と比較して非常に高い値というわけではありませんでしたが、九州北部で一時的に濃度が約105μg/㎥程度(基準値の約3倍)を観測する事態になったことで、大きな話題となりました。
その後は大きく基準値を超える濃度を記録していませんが、例年、3~5月にかけてはその他の時期と比べてPM2.5の濃度が上昇する傾向にあります。また、飛散量は地域差もありますので、住んでいる地域の濃度を調べるためには、環境庁の公開している大気汚染物質広域監視システム「そらまめ君」(PM2.5をはじめ、二酸化硫黄やSPMなどの速報値を公開)や、各都道府県のPM2.5関連情報サイトなどをチェックしてみましょう。
なお、都道府県などの自治体は1日の平均値が70μg/㎥を超える(健康に被害を及ぼす可能性が高くなる)と判断した場合、住民に注意喚起を呼びかけることが環境省によって定められています。これは、午前5~7時の1時間値が85μg/㎥を超えた場合、または午前5~12時の1時間値が80μg/㎥を超えた場合は1日の平均値が基準値を超えるとして判断されます。
PM2.5による影響には個人差があるため、この濃度を超えたからといってすべての人にただちに影響が生じるとは限りませんが、リスクを避けるためにも呼びかけがあった場合は不要不急の外出を控えましょう。どうしても外出の必要がある場合はマスクを着用するなどの対策を行うようにしてください。PM2.5を大量に吸い込まないように屋外での長時間の激しい運動はできるだけ避け、換気や窓の開閉もできる限り最小限に抑えることも大切です。
マスクはインフルエンザや花粉症対策で使用する一般的な不織布マスクでも構いませんが、PM2.5の吸い込みを防止する効果はマスクによって異なります。パッケージにPM2.5に対する効果を記載しているマスクも多くなりましたので、これらの記載をよく確認してから購入するようにしましょう。また、空気清浄機の性能も機種やメーカーによって違います。詳細は製品の表示や販売店やメーカーに問い合わせて確認してください。
なお、医療用・産業用の高性能な防塵マスク(日本の国内基準DS1以上、米国規格N95以上)の場合は微粒子の捕集効率が高いフィルターを使っているため、微粒子の吸い込みを減らす効果が高いとされていますが、長時間の使用には向かないほか、日本の国家検定に合格した「DS1」以上のものは一般的なマスクと比較すると高価です。
PM2.5は、物の燃焼や化学反応によって生じます。髪の毛の直径に約28個も並ぶほどのごく小さい粒子なため、吸い込むと肺や肺胞の奥深くに入り込み、呼吸器系や循環器系の疾患を引き起こす可能性があります。例年3〜5月には濃度が高くなる傾向があり、花粉とともにマスクで対策を行う人が多いです。近年は一般的なマスクでもPM2.5の吸入防止効果がうたわれていますので、パッケージなどをよく確認しましょう。