記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2019/8/10
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
夏は汗をかきやすい季節です。とくに、日本の夏は高温多湿で、どうしても体感温度が高くなりがちなため、熱中症に対する予防手段として、さかんに水分補給と塩分補給が叫ばれています。
しかし、一方で、日本人は世界の中でも塩分を大量に摂取している食文化だと言われています。そんな日本で、夏場の塩分補給は本当に必要なのでしょうか?熱中症にならないためには、どんなときに水分・塩分補給をすれば良いのでしょうか?
夏になると、水分摂取と同時に塩分摂取も呼びかけられます。とくに近年では局地的ではなく、日本全国で記録的な猛暑になることも多く、塩分を含んでいることをうたった飲料やお菓子も増えてきます。なぜ、このように塩分摂取がさかんに呼びかけられるのでしょうか。
まず、そもそも人間はじっとしていても呼吸から水分が失われていきます。つまり、生きているだけでどんどん水分を消費していきます。人間の体は成人で約60%、子どもで約70%が水分と言われていますから、水分が失われると体のさまざまな機能に支障が出てしまい、体調不良を引き起こします。体重の3%程度の水分が汗で失われると、運動能力や体温調節機能に支障が出ると言われるほどです。
さらに、夏のように暑い季節には、運動しなくても気温だけで汗をかいてしまいます。汗は99%が水分ですが、うち1%が電解質です。電解質とは「ナトリウム」「カリウム」「鉄」などのことを言いますが、塩分もまた「塩化ナトリウム」という物質で「ナトリウム」を含みますが、汗を舐めるとしょっぱいのはこの「ナトリウム」が含まれているからなのです。
この「ナトリウム」を補充するために、夏は水分とともに塩分も摂取しよう、と呼びかけられるというわけです。
しかし、汗の99%は水であり、そのうち1%が電解質ですが、この電解質には「ナトリウム」「カリウム」「鉄」などさまざまな物質が含まれています。つまり、汗に含まれる塩分はごく微量と考えてよいでしょう。夏はそんなに塩分を摂取する必要があるのでしょうか?
汗に含まれる塩分量は、汗の重さの約0.3%と言われています。ということは、1Lの汗をかいたら、約3gの塩分が失われるということです。一般的に、運動などを行わず、大量の汗が出たと感じることのない普通の人が1日でかく汗の量は約700mlと言われています。このとき、失われた塩分量は2.1gです。
一方、日本人が1日に摂取する塩分量は、平均10.2g(平成25年国民健康栄養調査結果)だとわかっています。対して、日本人の塩分摂取量の目標値は男性8.0g未満、女性7.0g未満とされています。ということは、汗で2.1gの塩分が失われても、平均程度の塩分を摂取してしまう人にとっては、塩分摂取量の目標値にも届かないということになります。高血圧を抱える人では6.0g未満が目標値ですから、さらに塩分の量を減らしても構わないわけです。
このことから、いくら夏に汗をかくといっても、運動などで大量にだらだらと汗が流れ続けるような事態にならない限り、塩分をわざわざ摂取する必要はないと考えられます。ただし、もちろん水分はどんどん失われていますので、水(真水)やカロリー・カフェインのふくまれない麦茶などでしっかり水分補給を行うことが大切です。
体に約60%含まれる水分の主な役割の一つに体温調節があり、気温が高いと体温が高くなりすぎるのを防ぐために発汗量が増え、汗の蒸発によって体温を下げようとします。さらに、我々の体は汗の他にも尿で1日約1.5Lの水分を消費します。ですから、夏場の水分補給は本当に大切ですので、ぜひ水(真水)をたくさん飲みましょう。
さらに、通常、1.5時間未満の運動であれば、水分補給は水(真水)のみでよいと言われています。大量に汗をかく運動のときには、水分・塩分・糖質のすべてが大量に失われるため、スポーツドリンクなどから水分と塩分を同時に補給するのが良いのですが、汗の量がそれほどでもないときにわざわざスポーツドリンクや経口補水液などを飲む必要はないでしょう。
もちろん、塩分入りの飴やお菓子を積極的に食べる必要があるわけでもありません。
ただし、汗をだらだらと長時間かいてしまうようなときには注意が必要です。発汗によって大量に塩分が失われた場合、真水のみで水分補給をしていると熱中症になったり、症状を悪化させてしまうことがあるからです。
例えば、夏の日本のような高温多湿の屋外(冷房などのない屋内も含む)で30分を超える長時間の肉体労働やスポーツなどで大量に汗をかくと、体内からは水分だけでなく塩分もミネラルも奪われます。例えば、約26℃の気温で約1.5時間サッカーをすると、約2Lもの水分が汗として失われることがわかっています。
こうして体内から水分と塩分・ミネラルが大量に失われた状態で水分だけを補給すると、血中の塩分・ミネラル濃度が下がります。通常、人体を流れる血液は約0.9%の食塩水と同じくらいの浸透圧となっていますが、塩分が失われた状態で水分だけを補給するとこの濃度よりも下がるため、まず、これ以上体液の浸透圧を下げないために(血中のナトリウムやミネラル濃度を下げないために)、喉が渇いたという感覚がなくなります。
さらに、余分な水分を尿としてどんどん排出して体液の濃度を上げようとするため、慢性的に水分不足の状態が保たれてしまいます。この状態を「自発的脱水症」といい、この状態でさらに水分だけを補給してもやはり汗をかく前の体液の量に戻せなくなってしまうため、運動能力が低下し、体温の上昇を止められず、熱中症を引き起こしてしまうのです。
つまり、何リットルもの大量の汗をかいたときに真水だけで水分補給しようとすると、かえって水分補給ができなくなり、熱中症を発症させたり、症状を悪化させてしまうというわけです。
このように大量に汗をかいて熱中症が疑われるときは、水分だけでなく塩分を一緒に補給しましょう。市販のスポーツドリンクや経口補水液などでも構いませんが、自宅でも手軽に作れる食塩水もおすすめです。目安として、1Lの水に1~2gの食塩を加えたものが良いでしょう。さらに、長時間のスポーツなどで糖分も失われている場合、砂糖などで糖分を補うと水分や塩分の吸収がよくなり、疲労回復にもつながります。
ただし、水分補給用の飲料水にカフェインが入ったものは避けましょう。具体的には、緑茶やコーヒー、ほうじ茶などが当てはまります。カフェインは利尿作用を促進するため、せっかく水分を摂っても尿としてどんどん排出してしまいます。水分補給のためにお茶を飲みたいときは、ノンカフェインと書かれたものを選びましょう。
また、スポーツドリンクや経口補水液などの味が苦手な人や、水分補給には真水を飲みたいという場合、塩分補給には塩飴・タブレット・梅干しなどもおすすめです。熱中症の症状に陥る前に予防できるのが理想ですが、熱中症の症状が出てしまった場合も、意識がはっきりしているなら涼しい日陰や屋内で適切に水分・塩分補給を行い、安静にしていればほとんどの症状は改善します。
しかし、意識がはっきりしない場合や、いつもと違うと感じるとき、不安が拭えないときにはすぐに医療機関を受診しましょう。
人間は、なにもしなくても生きているだけで水分を消費しますので、とくに汗で水分が失われやすい夏の水分補給は必須です。しかし、運動もせず汗もさほどかいていない場合はわざわざ塩分を一緒に摂取する必要はありません。
ただし、スポーツなどで大量に汗をかく場合は水分とともに塩分や糖分が大量に失われるため、スポーツドリンクや塩飴・タブレットなどで適度に水分と塩分・糖分を補給しましょう。