ワーキングメモリと認知症の関係は?どうすれば鍛えられる?

2019/8/17

山本 康博 先生

記事監修医師

東京大学医学部卒 呼吸器内科医

山本 康博 先生

ワーキングメモリとは、短期記憶よりもさらに短い間に記憶することのできる能力です。そこで今回は、ワーキングメモリのメカニズムや鍛える方法などをご紹介します。

ワーキングメモリとは

情報を一時的に脳に記憶し、処理する能力のことをワーキングメモリといいます。前頭前野と呼ばれる脳の領域のはたらきのひとつで、私たちの日常生活における判断や行動に関わっています。たとえば私たちが会話をするときには、相手の話をその場で覚え、相手の意図をくみ取り、状況に応じて前の情報は忘れて会話を進めていくという流れを無意識に繰り返しています。このような会話の流れをはじめ、読み書きや計算、運動など、さまざまな場面でワーキングメモリは機能しています。また、ワーキングメモリは主に以下の3つから構成されています。

中央実行系
処理資源の配分や注意の制御などを司る高次の認知活動
視空間的短期記憶
絵やイメージ、位置情報などの視空間情報
言語的短期記憶
文章、単語、数などの音声によってあらわされる情報

さらに、中央実行系と視空間的短期記憶が組み合わされたものを「視空間性ワーキングメモリ」、中央実行系と言語的短期記憶が組み合わされたものを「言語性ワーキングメモリ」と呼びます。

また、ワーキングメモリは容量が少ないことが特徴として挙げられます。たとえば誰かに電話をかけるときも、電話番号を見て電話をかけるわずか数秒間は覚えておくことができても、電話をかけ終わった電話番号はすでに忘れているということは身に覚えがあるかもしれません。このようにワーキングメモリに記憶できる情報はとても少ないため、新しい情報が入ると、古い情報は消されていきます。

ワーキングメモリのメカニズムは?

ある研究で、ワーキングメモリは海馬にある神経活動によりつくられていることがわかってきました。この研究では、ラットに報酬の置かれた複数の場所を覚える迷路課題を解かせることなどによって、ワーキングメモリが海馬の神経回路とどのように関わっているかを調べたものです。正しい答えを導くためには、一度行った場所とまだ行っていない場所を一時的に記憶しておく必要があります。正常のラットの場合、正解率は70%以上でしたが、海馬の歯状回と呼ばれるところを壊したラットの場合には、正解率が30%ほどに低下しました。このような研究を重ねることで、海馬の歯状回から生じた神経活動が、ワーキングメモリに重要なはたらきをしていることがわかりました。

また、覚えておく必要のあるワーキングメモリに対する神経活動はしっかりと保たれる一方で、必要のない記憶に対しては神経活動が弱まるという反応がみられています。つまり、海馬の神経回路には覚えておくべき記憶に対応している神経細胞があり、この細胞がその場に応じて活動のレベルを柔軟に変えてワーキングメモリを適切にはたらかせているということが示されました。

ワーキングメモリを鍛えると認知症予防になるの?

認知症は、正常にはたらいていた知的機能が徐々に低下し、脳の処理機能が低下する病気です。認知症になると食事したことを忘れる、何度も同じことを繰り返して言う、外出しても自宅に戻れなくなるなどの症状がみられ、本人の生活の質が下がると考えられます。また、原因によってさまざまなタイプがあり、中でもアルツハイマー型認知症は最も多いタイプの認知症といわれています。

このアルツハイマー型認知症は、薬の服用などによって症状の進行をゆるやかにすることはできても、完治は難しいといわれてきました。しかし最近、アルツハイマー型認知症は脳のリハビリや適切な治療などにより、症状を改善することができることがわかってきています。

アルツハイマー型認知症は脳にある神経細胞が破壊されていく病気のため、重度となっている場合には回復が厳しいといわれますが、初期の段階では脳の「前頭前野」と呼ばれる領域がある程度はそれまでと同じようにはたらいています。前頭前野は脳でのはたらきをコントロールする司令塔としての役割があり、考える、コミュニケーションをとる、記憶を整理するなどさまざまなはたらきがあります。加えて、前頭前野は脳の他の領域をコントロールするはたらきもあるため、刺激の内容によっては脳全体を活性化できる可能性もあります。そして、前頭前野はワーキングメモリを担っている領域でもあるため、ワーキングメモリを活用したリハビリなどが、アルツハイマー型認知症の改善や予防などに期待されています。

どうやってワーキングメモリを鍛えればいいの?

ワーキングメモリを鍛える方法としては、主に以下のような方法が考えられます。

前頭前野を活性化させる

ワーキングメモリは前頭前野が担っているため、前頭前野を鍛えることでワーキングメモリの向上が期待できます。たとえば、電車のつり革広告を覚えて単語を思い出す、音楽鑑賞や読書をする際、頭でイメージするなどが挙げられます。

デュアルタスクを行う

デュアルタスクとは、知的作業と運動を同時に行うことをいいます。2つのことを同時に行うことで脳は混乱しますが、この混乱を整理しようと脳が動くことが活性化につながるといわれています。シャンプーをしながら昨日食べた3食を思い出す、計算しながらウォーキングを行うなどが挙げられます。

楽しいことを考える

ある研究によると、幸福度が高い人ほど「吻側前部帯状回(ふんそくぜんぶたいじょうかい)」と呼ばれる脳の領域が大きく、この大きさはポジティブな出来事に関連していると考えらえています。吻側前部帯状回とは、「ACC」と呼ばれる領域の最前方にある部分を指します。

ACCは、ワーキングメモリのはたらきが優れている脳において、著しく活動しているといわれる領域です。そのため、楽しいことやポジティブなことを考えることは脳の活性化につながる上、脳のある特定の領域が広くなり、活発にはたらく可能性があると考えられています。これは同時に、ワーキングメモリの活性化にもつながる可能性があるといえます。

普通の生活を健全に送る

ワーキングメモリは普段の日常生活から十分に使われているため、料理や掃除をする、人と話す、適度に体を動かすなどを行うことで鍛えることができるといわれています。

イメージする

覚える単語を頭の中でイメージして絵にすることで、脳内でACCが活性化するといわれています。ACCの活性化はワーキングメモリを鍛えることにつながると考えられるため、本を読むときにはストーリーを絵にして思い浮かべる、さまざまな食材から作れる料理をイメージすることなども効果的です。

おわりに:ワーキングメモリは、さまざまな方法で鍛えることができます

ワーキングメモリは私たちの日常生活に深く関わっている脳のはたらきのひとつです。社会問題にもなっている認知症の予防にも効果的とされているため、日頃からさまざまな方法でワーキングメモリを鍛えていきましょう。

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