記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2019/8/29
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
ナルコレプシーとは、睡眠障害の一種です。睡眠障害とは眠れない、途中で起きてしまう、寝すぎてしまうなど、睡眠を自力でコントロールできない疾患の総称ですが、中でも日中に強い眠気が現れるのがナルコレプシーの大きな特徴です。
では、ナルコレプシーの治療ではどんな薬を使うのでしょうか?また、薬を飲むことによる副作用には、どのようなものが考えられるのでしょうか?
ナルコレプシーとは睡眠障害の一つ「過眠症」の一種で、眠ってはいけない、または眠りたくない場面なのに、自分の意思でコントロールできないほどの強烈な眠気に襲われたり、眠気を感じる暇もなく突然眠りに落ちてしまったりする症状が特徴の疾患です。また、昼間眠い代わりに夜に眠れなくなる症状が見られる人もいます。
自分の意思で睡眠をコントロールできないことは外からはわかりにくいため、大事な場面でも眠ってしまうことから「だらしない」「意欲がみられない」「真面目さに欠ける」などと思われて責められたり、「自分は意思が弱いのだ」と思い込んで本人が自分を責めてしまったりするため、疾患として認識されないことも少なくありません。
世界では2,000人に1人程度ですが、日本では600人に1人と、世界の約3倍もの頻度で日本人に多い疾患です。精神的・身体的な発達に伴って発症するため若年層に多く、発症のピークは14~16歳ごろと言われています。治療されないまま成長してしまうと社会生活に支障をきたす恐れがありますので、早めの診断と治療開始が大切です。
ナルコレプシーの症状としては、主に以下の4つが挙げられます。
ナルコレプシーの治療としては、主に日中のコントロールできない眠気を消すため「中枢神経刺激薬」という目を醒ます薬を使います。特発性過眠症ではこの薬剤が適合し、効果がみられる人は半数程度なのですが、ナルコレプシーの患者さんの多くはこの薬剤に対して反応性が良く、副作用も少ないため、日中の眠気をコントロールして社会生活への負担を減らすことができます。
2019年現在、日本でナルコレプシーの治療に使用されている「中枢神経刺激薬」は以下の3種類があり、いずれもドーパミン神経伝達系という回路を増強して脳を覚醒状態にしておく作用があります。
基本的には、作用時間が長く効果が穏やかなモダフィニルが使われます。モダフィニルに対してあまり反応しない場合はメチルフェニデートに変えたり、または併用したりします。ペモリンは肝臓に対してダメージを与えるリスクがあり、実際に重篤な肝障害を発症したという報告もあるため、だんだんと使われなくなってきています。
また、これらの薬剤を使う場合、患者さんによっては服薬後30~60分程度の間、一時的に眠気が悪化したあと、覚醒効果が現れる場合がありますので、十分注意しなくてはなりません。服用のタイミングは医師とよく相談しましょう。
薬の量や頻度は、あくまでも「社会生活に支障が出るかどうか」が焦点となりますので、会社勤めではなく自営業の人などで適度に仮眠を取れる環境にある患者さんであれば、薬の量を減らすこともできます。例えば、毎朝必ずモダフィニルを飲まなくても、どうしても起きていたいときに頓服としてメチルフェニデートを飲むだけで済む、という場合もあります。
情動脱力発作や入眠時幻覚・睡眠麻痺に対しては、三環系抗うつ薬(クロミプラミン・イミプラミン・プロトリプチンなど)やSSRI(ベンラファキシン・フルオキセチンなど)・SNRIが使われます。これらの薬剤はレム睡眠抑制作用によって発作や麻痺を抑えるものですが、服用を突然中止すると反動のように悪化した脱力状態を発症することがありますので、むやみに自己判断で服用を中止してはいけません。
その他、夜に寝つけない、途中で起きてしまうなど十分な睡眠が取れない場合、短時間作用型の睡眠導入剤や鎮静作用のある抗精神薬などを少量用いることもあります。
中枢神経刺激薬・三環系抗うつ薬の副作用として、それぞれ以下のようなものがあります。
中枢神経刺激薬はドーパミンの量を増やす作用があるため、長期的な服用によっていわゆる「ハイテンション」になるといったような精神症状が現れることがあります。もとから不安や緊張などがあり精神的に不安定な患者さんにはとくに注意が必要なほか、鎮静作用のある薬剤を併用し、夜間の睡眠を確保する場合もあります。
例えば、メチルフェニデート(薬剤名:リタリン)は以前、その興奮作用から多幸感や爽快感を得られ、食欲抑制作用から「痩せ薬」などとして乱用されたことがあり、依存性と副作用の幻覚妄想から大きな社会問題となったことがありました。このため、2007年10月にはうつ病に対する適応が除外され、現在ではメチルフェニデートの適応はナルコレプシーのみとなっています。
しかし、基本的にナルコレプシーの患者さんは、コントロールできない日中の眠気や居眠り症状を抑えるため、必要に迫られて薬を服用しています。ナルコレプシーの患者さんが医師の指示に従って服用している範囲内では、こうした精神症状や依存性の副作用が現れることはごく少なく、一説には4%以下と報告されています。少なくとも、メチルフェニデート(リタリン)の流通量が医師や医療機関・薬局で厳密に管理されている現在では、薬物依存や乱用などの状態に陥ることはまずありません。
このように危険な副作用が少ない理由として、ナルコレプシーの人では多幸感などにつながる報酬系の一つ「オレキシン」の分泌が極端に少ないことが一因ではないかと指摘されていますが、正確なところはまだわかっていません。
ナルコレプシーは睡眠障害の一つであり、本人の努力とは無関係な疾患である、という意識を本人も、家族などの周囲の人も持っておく必要があります。つまり、睡眠障害のない人と全く同じように過ごそうとしたり、逆に夜の睡眠を削って無理をしたりすることは心身に大きな負荷をかけ、最終的には心身を壊してしまいかねません。
そこで、ナルコレプシーは「起き続けられない疾患」であることをしっかりと意識し、昼休みなどを利用して短時間の仮眠を適度にとるなど、生活習慣やリズムを工夫しましょう。体をしっかり動かしながら、午前と午後に適度に昼寝の時間をとることができれば、薬の量を減らしたり、場合によってはなくしたりすることもできます。
睡眠障害のない人と同じペースでできないことが問題なのではありません。心身に無理な負荷をかけてしまうことの方が結果的に学業や仕事の効率を下げてしまいます。ですから、自分の疾患の特徴をよく理解し、計画的に睡眠をとるリズムを作り、夜間の睡眠時間や質をしっかりと確保することが心身にとっても、疾患の治療を進める上でも大切です。
この疾患は学生に多いですが、例えば高校受験や大学受験の受験生が学校・部活・塾と1日中活動し続けるのは非常に疲労が溜まります。睡眠障害のない人の場合、それでもなんとか眠気をコントロールして自宅や自室まで帰ってくることができるのですが、ナルコレプシーの人が極度に疲労を溜めた状態になると、眠りながら歩いていたり、家についたとたん玄関先で倒れて眠り始めたり、と怪我や事故につながる危険な状態になりかねないのです。
ですから、薬を飲む場合でも、睡眠や生活のリズムを毎日規則的に整えることが重要です。薬はできれば日中、どうしても起きていなくてはならないときに覚醒状態を維持するためだけに使い、夜の睡眠の質を妨害しないように気をつけなくてはなりません。疾患とは関係ない慢性的な寝不足によって睡眠のリズムが狂わないよう、規則正しい生活を心がけましょう。
ナルコレプシーの治療に使う薬剤は、主に日中のコントロールできない眠気をさますための「中枢神経刺激薬」です。もっとも作用時間が長く、効果が穏やかで副作用が少ないモダフィニルがよく使われます。
そのほか、情動脱力発作や入眠時幻覚などには三環系抗うつ薬が使われることがあります。しかし、薬剤に頼りすぎるのではなく、生活習慣や睡眠リズムを見直し、工夫して睡眠時間を確保することも大切です。