記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2025/12/18
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
マロリーワイス症候群とは、激しいおう吐を繰り返したときに起こる疾患です。軽いものであれば自然治癒しますが、重症のものに関しては早急な治療が必要になる可能性があります。この記事では、症状・原因・治療方法など、マロリーワイス症候群について解説していきます。
マロリーワイス症候群とは、おう吐の際に食道と胃の境界付近(胃食道接合部)の粘膜が切れて出血する疾患であり、吐瀉物に血が混じっていることに気づいて自覚する場合が多く、便に血が混じり、黒く見えるようになることで自覚する場合もあります。吐血量・出血量が少ない場合は自然に治まることが多いといわれていますが、吐血量・出血量が多い場合は生命に関わる状態に陥る可能性があります。
また、激しく咳き込んだり、むせたりするなどをきっかけに吐血・出血することがあり、胃食道接合部の粘膜が損傷することにより、お腹や背中に痛みが現れることもあります。大量出血に至ることは少ないものの、出血量が多い場合は低血圧に伴う症状(顔色が悪くなる・頻脈・立ちくらみなど)が合併することもあります。
マロリーワイス症候群のおもな原因は、激しいおう吐を繰り返すことといわれています。何度も激しいおう吐を繰り返すと、腹部の圧力が一時的に急上昇し、胃食道接合部に非常に大きな負荷がかかります。その大きな負荷により胃食道接合部の粘膜が裂けると、近くにある静脈・動脈が損傷し、出血が起こるのです。このようなおう吐を引き起こすおもな原因として、以下が挙げられます。
なお、食道裂孔ヘルニアや加齢に関しては「関係している可能性がある」と指摘されている段階といわれていますが、「大量の飲酒」とマロリーワイス症候群には強い関係性があると考えられています。
大量に飲酒すると、肝臓でのアルコール代謝(分解)が追いつかなくなり、血中のアセトアルデヒド濃度が増加していきます。血中のアセトアルデヒド濃度がある一定の値を超えると、私たちの体は「緊急事態である」と判断し、生体防御反応としておう吐が引き起こされます。
このときの吐瀉物には、胃酸や胆汁など、粘膜・組織を傷つけてしまう分泌液が多く含まれます。このような分泌液が何度も激しい蠕動運動とともに胃食道接合部に触れることで、粘膜は繰り返し傷つき、溶かされ、やがて「マロリーワイス症候群の出血」が現れるようになります。なお、妊娠悪阻(つわり)のときにも似たような激しいおう吐を繰り返すことがあり、マロリーワイス症候群につながる可能性があります。
吐血量が多く血圧が低下している場合は、生命に関わる状態に陥る可能性があるため、早急な止血処置が必要になるケースがあります。止血処置は内視鏡下で行われ、露出している血管にクリップをかける・血管を電気焼灼するなどの方法が用いられます。なお、内視鏡検査をした際に、潰瘍から動脈性の出血が確認された場合は、即座に止血処置をする必要があります。とくに、潰瘍に血の塊がくっついている・露出している血管があるなどの状況に陥っている場合は、再出血のリスクがあるため、すでに自然止血していて出血がみられなくても止血処置を行う必要があると考えられています。
止血処置後は、潰瘍の程度や全身の状態にあわせて治療が進められますが、潰瘍が重症である場合や全身の状態が悪い場合は、入院して絶食・輸液療法などを継続する可能性があります。潰瘍治療では、おもにH2ブロッカー・プロトンポンプ阻害剤などの酸分泌抑制剤による薬物療法が用いられます。
マロリーワイス症候群を発症しても、出血量が少なければ自然治癒することもあります。しかし、出血量が多い場合や潰瘍から出血している場合などには、緊急処置が必要になる可能性があります。過度の飲酒を控えるなどの予防対策も大切ですが、つわりや激しい咳込みが原因になることもあるので、症状に気づいたときは早めに医療機関を受診しましょう。