記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2019/8/21
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
吐き気や嘔吐は、私たちの体が自分を守ろうとする「生体防御反応」の一種だと考えられています。しかし、吐き気や嘔吐は体にとっても辛い状態です。とくに、あまりにも激しい嘔吐を繰り返すと、吐いたものに血が混じることがあります。出血が喉などでなく、食道と胃の境界部分の粘膜から起こった場合、マロリーワイス症候群と呼ばれます。
では、マロリーワイス症候群とは具体的になぜ起こり、どのように治療するのでしょうか?
マロリーワイス症候群とは、嘔吐の際に食道と胃の境目の粘膜が切れて出血する疾患のことを指します。嘔吐した吐瀉物に血が混じって気づくことが多いですが、吐血ではなく便に血が混じって黒く見えるような症状が出ることもあります。吐血量が少ない場合はたいてい自然に止血するため、放っておいても大丈夫なのですが、吐血の量が多い場合は生命に関わることもありますので、内視鏡を使って粘膜を縫合する手術を行うこともあります。
マロリーワイス症候群で吐血に至るような場合、嘔吐の際に食道と胃の境界にかなりの力が加わります。お酒を飲みすぎて気分が悪くなって、何度も吐いていたら真っ赤な血が混じったので驚いて病院に来た、などのケースが多いようです。最初の嘔吐の際に出血し、その血が複数回の嘔吐後に吐瀉物に混ざることでわかるというわけです。
嘔吐以外では、激しい咳き込みやむせるなどをきっかけとして出血・吐血することがあります。境界部分の粘膜が損傷することで、お腹や背中の痛みとして現れることもあります。大量出血に至ることは少ないものの、出血量が多かった場合は低血圧に伴う症状(顔色が悪くなる、頻脈、立ちくらみなど)が合併することもあります。
また、肝硬変に伴う「門脈圧亢進症」という病態を発症した際に食道静脈瘤が発生し、これにマロリーワイス症候群を合併すると、出血症状が重篤になると考えられています。肝硬変や肝機能の低下が指摘されていながらマロリーワイス症候群の出血を生じた場合、早急に病院で検査を受けるのが良いでしょう。
マロリーワイス症候群の発症には、激しい嘔吐が深く関係しています。つまり、何度も激しい嘔吐を繰り返すと腹部の圧力が一時的に急激に上昇し、食道と胃の境界付近(胃食道接合部)に非常に大きな負荷がかかります。すると、この胃食道接合部の粘膜が大きな負荷によって避け、その近辺にある静脈や動脈が損傷し、出血するというわけです。
このような激しい嘔吐に至る原因としては、以下のようなことが考えられます。
ただし、食道裂孔ヘルニアや加齢に関しては関与している可能性があると指摘されている段階であり、確実なリスク因子とは断定されていません。逆に、大量のアルコール摂取はもっとも強い関連性を持つリスク因子だということがわかっています。
大量にアルコールを摂取すると、肝臓でのアルコール代謝(分解)が追いつかず、血中のアセトアルデヒド濃度が増えていきます。そして、ある一定の値を超えると私たちの体は「緊急事態である」と判断してしまい、生体防御反応として嘔吐が引き起こされます。このため、大量の飲酒によって嘔吐が起こる場合は激しい嘔吐を何度も繰り返すことになるわけです。
このときの吐瀉物には、胃酸や胆汁など、粘膜や組織を傷つけてしまうような分泌液も多く含まれます。こうした分泌液が何度も激しい蠕動運動とともに胃食道接合部に触れることで、粘膜は繰り返し傷つき、溶かされ、やがてマロリーワイス症候群の出血に至るのです。妊娠悪阻(つわり)においても似たような激しい嘔吐を繰り返すことがあり、マロリーワイス症候群につながることがあります。
マロリーワイス症候群の症状がごく軽度で、吐血量も少ない場合は自然と止血することも多いのですが、吐血量が多く血圧が低下している場合は生命に関わる危険性がありますので、一刻も早く処置が必要です。処置は内視鏡下で行われ、露出している血管にクリップをかける、血管を電気焼灼する、などの方法で行います。
とくに、内視鏡検査によって潰瘍から動脈性の出血が確認された場合は、即座に止血処置が必要です。さらに、既に自然に止血していた場合でも潰瘍に血のかたまりがくっついているもの、露出している血管があるもの、の場合は今後再出血する可能性が高いため、出血していなくても止血処置を行っておく必要があります。
止血処置後は、潰瘍の程度や全身の状態を鑑み、潰瘍の程度が深い場合や全身状態が悪い場合は入院して絶食・輸液療法など、継続して治療を行います。潰瘍を治療するには投薬治療が一般的で、H2ブロッカー・プロトンポンプ阻害剤などの酸分泌抑制剤を服用します。
「門脈圧亢進症」を伴うマロリーワイス症候群の場合、内視鏡下の手術だけでは出血がコントロールできない場合もありますので、血管造影下でバソプレシンの動脈内注射や、左胃動脈の塞栓術(治療的に血管を塞ぐ手術)が行われる場合もあります。ただし、こうした手術療法が必要になることは非常にまれです。
マロリーワイス症候群とは、激しい嘔吐を繰り返したときに食道と胃の境目(胃食道接合部)から出血することを言います。出血量が少なければ自然に止血することが多いですが、出血量が多い、潰瘍から出血しているなどの場合はただちに止血処置を行います。
マロリーワイス症候群の原因は、大量のアルコール摂取や妊娠悪阻(つわり)と考えられています。アルコールの飲み過ぎには注意し、出血した場合は早めに病院に行きましょう。