化膿性脊椎炎を発症する原因は?治療でどんな薬を使うの?

2019/9/20

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

手や足を怪我して膿みが発生した場合、「化膿した」という言い方をします。この「膿」とは、怪我や損傷によって傷ついた組織が炎症を起こし、白血球などの免疫細胞が菌を攻撃して殺傷したあとの死骸や体液がまざったものです。
こうした「化膿」の一種に、「化膿性脊椎炎」という疾患があります。あまり馴染みのない疾患かもしれませんが、近年発症数が増加していることから、ぜひ原因や治療法について知っておきましょう。

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化膿性脊椎炎ってどんな病気?

化膿性脊椎炎とは、文字通り細菌によって膿が脊椎に生じる疾患です。主に血液を介して脊椎を化膿させるもので、40~50代くらいの中年世代に多いとされています。ただし、近年は糖尿病・悪性腫瘍・肝機能障害などによって免疫機能が低下し、細菌に対する感染リスクが上がっている高齢者が発症する例が増えています。

胸椎や腰椎などに発症する例が多く、頚椎では比較的まれであるという傾向があります。症状は急性型・亜急性型・慢性型の3種類に分けられ、急性型では腰背部痛などの炎症が生じている脊椎の部位による限局的な症状だけでなく、発熱・吐き気・倦怠感などの全身症状が現れるのが特徴です。

亜急性型の場合、発熱などの全身症状が比較的マイルドになり、例えば熱は37度台程度の微熱を生じることが多いです。慢性型ではさらに症状がはっきりしなくなり、加齢による慢性的な腰痛などとして見過ごされがちなのが特徴です。見過ごされてしまうと経過観察となってしまうため、診断と治療開始が遅れてしまうのが問題です。また、局所症状がはっきり現れず不明瞭なこともしばしばあり、診断が難航することもあります。

しかし、診断が遅れて症状が進行していくと、脊椎や椎間板が細菌によって徐々に破壊されていき、脊柱管の内部に走る神経までもが損傷を受ける場合があります。神経にまで症状が進行すると、手足のしびれや下肢の麻痺などの症状が出ることもあり、日常生活に大きく支障をきたすこともありますので、早期発見と早期の治療開始が重要なのです。

化膿性脊椎炎の原因は?

直接的な原因としては、脊椎に細菌が感染することです。脊椎に細菌が感染する経路としては、まず体の別の部位や組織(扁桃、副鼻腔、尿路、消化管など)に細菌が感染し、その感染巣から血流を通って脊椎に至るものが一般的です。その他の経路としては、怪我などの外傷や神経ブロック療法などの医療行為によって皮膚が傷つき、病原体が直接脊椎に侵入することもあります。

さらには、周囲の組織が感染し、その範囲が広がることで化膿性脊椎炎が発症することもあります。原因となる細菌は「黄色ブドウ球菌」がもっとも多く、この細菌は人間の皮膚や消化管内にも存在する常在菌で、手や足などを怪我して化膿するときの原因菌と全く同じ病原体です。

脊椎は首から腰にかけて存在し、一般的には「背骨」と呼ばれる部位で、頚椎・胸椎・腰椎を含む24個の骨から成ります。中でも化膿性脊椎炎の起こりやすい「腰椎」は腰の部分の脊椎で、5つの大きな骨とその間でクッションの役割をする「椎間板」で構成されています。これらの大きな骨を「椎体」と言い、椎体は背骨の内部(脊柱管)の空間を保つのに重要な役割を果たしていて、脊柱管の中を通る神経を守っています。

ところが、化膿性脊椎炎が生じると、椎体や椎間板が化膿して病変が生じます。すると骨がもろくなり、だんだんと脊椎が破壊されていきます。脊椎が破壊されて崩れていくと、内部の空間である「脊柱管」も崩れ、内部の神経に影響が生じ、ひどくなると損傷を受けます。神経にまで影響が及ぶと、その影響を受けた部位によって神経症状が引き起こされるというわけです。

化膿性脊椎炎を治すには?

化膿性脊椎炎の治療は、コルセットなどを装着して安静を保ちつつ、抗生物質を使用して炎症を抑える保存的治療が中心です。化膿性脊椎炎は黄色ブドウ球菌が原因となることが多いため、まずはグラム陽性菌に対する治療薬「セファゾリン」を使うことが多いですが、原因菌がグラム陰性菌である可能性がある場合には「セフトリアキソン」を使う場合もあります。

また、長期入院の患者さんや手術後の患者さん、施設に入所している患者さん、以前に特定の細菌に感染したことがはっきりしている患者さんなど、ある程度感染した細菌が絞り込める場合は、最初からそれらに対する抗生剤を投与します

さらに、培養結果に応じて抗生剤の種類を変更することもあります。MSSA(メチシリンが効く黄色ブドウ球菌)やMRSA(メチシリンに耐性がある黄色ブドウ球菌)をはじめ、薬剤耐性や細菌の特性などによって上記のセファゾリン・セフトリアキソン以外にも「レボフロキサシン」「リファンピシン」「バンコマイシン」「リネゾリド」「ペニシリン」など、さまざまな抗生剤を使い分けます。

おわりに:化膿性脊椎炎は黄色ブドウ球菌の感染が主な原因。さまざまな抗生物質で治療します

化膿性脊椎炎は、手や足を怪我したときに化膿するのと同じように、人間の体にもともと多く存在している常在菌「黄色ブドウ球菌」が原因となることが多いです。そのため、基本的にはこの細菌に対する抗生物質を使って治療しますが、培養結果によっては抗生物質の種類を変えて対応します。

化膿性脊椎炎が進行して脊柱管内の神経に影響すると、日常生活に大きな支障をきたしかねません。早期発見と早期治療が重要です。

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