COPDとわかったら、どんな治療をすることになる?

2019/9/15

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

喫煙による健康被害はさまざまなものが研究され、次々に証明されていますが、その一つにCOPD(慢性閉塞性肺疾患)という疾患があります。タバコの煙を含む有害物質などが原因で気道や肺がダメージを受け、呼吸機能が低下してしまうというものです。

COPDを発症してしまったら、どのような治療を行うのでしょうか?また、日常生活で気をつけられることはあるのでしょうか?

冷凍宅配食の「ナッシュ」
冷凍宅配食の「ナッシュ」

COPDになるとどんな症状が出てくるの?

COPDは、初期にはほとんど症状がありませんが、進行すると以下のような症状が現れます。

  • 階段の上り下りで息切れする
  • 慢性的に咳や痰が出る
  • 風邪が治りにくい
  • 呼吸のたびにゼーゼー、ヒューヒューとした音が出る

このように、COPDにはあまり特徴的な症状がないため、風邪や加齢に伴う体力低下だろうと思って見過ごしてしまうことが少なくありません。しかし、そのまま放置してしまうと少し動いただけでも息切れして日常生活に支障をきたすようになり、最終的には呼吸不全や心不全など生命に関わる疾患を引き起こします。このため、進行する前に早期発見・早期治療が必要です。

また、進行していくと気管支や肺だけでなく、全身に影響を及ぼすこともあります。また、全身性炎症、心血管系疾患、骨粗鬆症、糖尿病などを併発することもあります。20年以上喫煙歴があったり、1日に吸う本数が多いヘビースモーカーだったり、周囲に喫煙者が長くいるような人は要注意です。上記のような症状が出たら、軽く考えず一度病院で診察を受けてみましょう。

COPDかどうかはどうすればわかる?

COPDかどうかの診断には、以下のような検査や問診を行います。

  • 喫煙歴を含めた問診や内科診察
  • 肺機能検査(スパイロ検査)
  • 胸部レントゲン
  • 胸部CTスキャン
  • 動脈血中の酸素・二酸化炭素量の測定

肺機能検査(スパイロ検査)はとくに重要な検査です。息をできるだけ深く吸い込んだ後で1秒間に吐き出せる息の量(FEV1:1秒量)と吐き出せる全量(FVC:努力肺活量)を測定し、FEV1がFVCの70%以下で、他に肺の疾患がなければCOPDと診断されます。他にも、治療方針を決定したり、病状の進行をはかる上でも重要な目安となる検査です。

COPDの特徴の1つとして、息を吐き出す勢いが弱くなるというものがあります。そのため、病気の進行の程度(病期)を決めるためには、年齢・性別・身長から推定される「予測値」に対するFEV1の割合(%FEV1:1秒率)を使います。1秒率が低くなればなるほど、病状が進行していると考えられます。

また、病状がそれほど進行していない場合、レントゲンでは異常が発見できないこともあります。その場合は、CTスキャンによる精密検査を行うと、レントゲンでは発見できない肺気腫などを発見できることもあります。このため、胸部CTスキャンも診断の補助に大切な役割を持っています

そのほか必要に応じて、動いたときや夜間睡眠時に体に酸素が足りているか、心臓に負担がかかっていないかなどを調べることもあります。

COPDとわかったら、どんな治療をするの?

COPDとわかったら、禁煙・薬物療法・理学療法を中心に行います。それぞれ以下のような治療法です。

禁煙
COPDと診断を受けた患者さん全員に推奨される、もっとも有効で必須の治療法
ニコチン依存症に対しては保険適応になる薬もあるので、禁煙外来を受診するのもおすすめ
薬物療法
吸入気管支拡張薬(長時間作動型β刺激薬・抗コリン薬)が中心
病状によっては気管支拡張作用を持つテオフィリン製剤や鎮咳薬、去痰薬、ステロイド吸入薬などが使われる
長時間作動型の気管支拡張薬、去痰薬などは、長期投与の有効性が報告され始めている
理学療法
呼吸困難を緩和するための口すぼめ呼吸・腹式呼吸などの習得
運動療法、分泌物が多い患者さんに対する体位ドレナージなど。呼吸器リハビリテーションとも
持久力、下肢筋力トレーニングなどの運動療法はQOLの改善効果がはかれる

COPDに伴うリスクを下げるためにもっとも大切なのは、禁煙の実践です。COPDの予防にも禁煙は重要ですが、COPDを発症した後でも禁煙によってCOPDの症状がそれ以上進行するのを防いだり、死亡リスクを下げられたりと、有効な治療法の1つです。

また、自覚症状があるようであれば、薬物療法で気管支を拡張したり、咳や痰を止めたりするとともに、理学療法によって呼吸困難を緩和し、QOLを改善するために体力をつける筋力トレーニングなどを行います。こうしたリハビリテーションによって運動能力を改善することは、臨床的にも非常に重要だと言われています。

さらに病状が進むと、酸素療法や外科療法(手術)を行う場合もあります。それぞれ以下のように治療を行います。

酸素療法
動作時または安静時、体内に十分な酸素を取り込めない患者さんに行う
自宅・外出先で酸素を吸えるようにする
自覚症状の改善だけでなく、心臓への過剰な負担が避けられるため、より安全に生活できるようになる
この療法が必要なほど病状が進行してしまった場合、身体障害者(呼吸器機能障害)の認定を受けられることも
外科療法
外科的に主病巣(気腫化肺)を切除することで残った肺の機能を改善させる「肺容量減少術」
肺にランダムに分布する重度の肺気腫があるような場合、適応されることがある
手術によって肺機能は術前よりも改善するため、呼吸器症状を一時的に緩和できるが、残った肺も徐々に気腫化していくため完治はしない

酸素療法は、呼吸困難の症状が続いて動くときや安静のときに十分な酸素を取り込めない状態になり、日常生活に支障をきたすまでになった患者さんに対して行います。単純な自覚症状の改善だけではなく、酸素を全身に送る心臓への過剰な負担も避けられるため、より安全に生活することができます。この状態まで進行すると、身体障害者の認定を受けられ、医療費や在宅酸素療法などのサービスを受けられる場合がありますので、主治医に相談してみましょう。

また、肺気腫(肺の細胞の破壊)が進んだCOPDの場合、精密検査の後で病巣を切除して残った肺の機能を改善させる「肺容量減少術」の適応となる場合もあります。ただし、この手術はあくまでも一時的な処置であり、残った肺にも気腫化が進んでいくため、完治を目指す治療法ではありません。

日常生活を過ごす上での注意点は?

COPDの患者さんは、呼吸器官に大きなダメージを受けています。ですから、何らかの動作を行うとき、力を入れるときなどに無意識に呼吸を止めてしまうのを意識的に避け、肺が圧迫されるような姿勢にならないよう気をつける、などの工夫が必要です。また、1日のうちでも体調の良い時と悪い時がありますので、できるだけ体調の良い時にまとめて体を動かすと良いでしょう。日常生活でよくある動きのコツは以下のようになっています。

着替え
椅子に腰掛け、かがむ動作をできるだけ避けるようにする
腕を高く上げる動作も繰り返すと息苦しさが増すため、あらかじめ洋服を取りやすい場所に揃えておくとよい
入浴
湯船につかるときは胸までで、肩まで深くつからないようにする
浴槽が深い場合、浴槽の中にお風呂用の椅子やすのこを入れる。洗い場にも椅子を用意する
体を洗うときは手を脇から出し、無理なく背中を洗えるよう柄の長いブラシを使う
トイレ
和式便座の場合、座りやすい洋式に取り替える
改装工事を行わなくても取りつけられる洋式便座を置くのもよい
長く座っていたりいきんだりするのも呼吸が苦しくなる原因なので、適度に食物繊維を取って便秘を防ぐ

体調が変化したら?

COPDが軽症の状態でも、インフルエンザや風邪などを合併することで深刻な呼吸不全を引き起こす「急性憎悪」に陥ることが少なくありません。ですから、処方された薬はしっかり飲むこと、日頃の体調管理をしっかりすることで、感染症の予防にも気をつけましょう。急性憎悪を起こす場合、以下のようなサインが現れることもありますので、COPDの人で突然このような症状が現れた場合、すぐに医療機関を受診しましょう。

  • 食欲や意欲の低下
  • いつもより呼吸が苦しい、息苦しくて歩けない、話ができない
  • 頭痛がする、頭がボーッとする
  • 唇や爪が紫色や白っぽくなり、血の気がない(チアノーゼ)
  • 痰が切れにくい、色がいつもと違う
  • 眠気が強く、冷や汗が出る
  • 呼吸数が増えたり、脈が速くなったりしている
  • 足のむくみがある

また、いざというときに備えて、あらかじめ主治医に日中の連絡先や夜間の対応を聞いておきましょう。自分の病状や、服用している薬を合わせてメモに書いたものを常に携帯しておくなどすると、外出先で急変した場合でも素早く処置を行えます。

止まらない咳はどうする?

COPDの患者さんは、一度咳き込み始めると止まらなくなることもしばしばあります。咳き込む時間が長いと酸素が上手く取り込めなくて苦しいだけでなく、体力も消耗してしまいます。そこで、常にぬるま湯などの水分を用意し、喉がいがらっぽいと感じたとき、ムズムズしだしたときには飲むようにしましょう。

また、水分不足は痰の粘り気を増やして気道に絡まりやすくなってしまうため、喉に異変を感じなくても水分補給はこまめに行いましょう。痰が出た場合はティッシュなどに吐き出し、色に変化がないかどうかの確認も忘れずに行います。

おわりに:COPDになったら禁煙は必須。薬物療法や理学療法を中心に治療します

COPDを発症した場合、まず禁煙することが必須です。COPDを発症しないためにも禁煙は重要ですが、発症した後でも禁煙すればそれ以上の呼吸器へのダメージを防げるため、進行や死亡リスクを下げられます。

その他、薬物療法や理学療法を中心に、気管支を広げ体力をつけるようなトレーニングをしていきます。症状が進行した場合は、酸素療法や外科療法を行うこともあります。

関連記事

この記事に含まれるキーワード

喫煙の害(4) COPD(10) COPDの症状(3) COPDの検査(2) COPDの治療(1)