血糖値スパイクってどういう状態のことをいうの?

2019/10/4

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

食事をするということは、人間やその他の動物にとって、エネルギーを体内に取り込むということです。エネルギーには糖質・脂質・タンパク質の3種類がありますが、中でももっとも利用しやすいエネルギーが糖質です。
食事で糖質を摂取すると、腸から血液中に糖分が吸収され、血糖値が上がり、その後下がって元に戻ります。この血糖値上昇と下降が異常な状態を血糖値スパイクと呼んでいます。

冷凍宅配食の「ナッシュ」
冷凍宅配食の「ナッシュ」

血糖値スパイクとは

血糖値スパイクとは、食後に血糖値が急上昇し、その後急降下する現象のことを言います。通常、食事の後は血糖値が上がるものですが、健康な人では血糖値の上がり方も下がり方も穏やかで、急激に上昇したり降下したりすることはありません。しかし、食後に血糖値が急上昇すると、血糖値を下げるホルモンであるインスリンが過剰分泌され、血糖値が急降下します。この急上昇と急降下をグラフに書くとスパイク(くぎ)のように見えることから、血糖値スパイクと呼ばれています。

食後にぐったりと疲労感が抜けず、椅子で座ったままになってしまう、耐えられないほどひどい眠気を感じるなどの状態になってしまう場合、血糖値スパイクの可能性があります。血糖値スパイクは血糖値の急上昇の後に急降下が起こるため、低血糖の状態になり、眠気やイライラ、疲労感などが出てしまうのです。

この血糖値スパイクを放置しておくと、血管が甚大なダメージを受け、動脈硬化が進行し、炎症や酸化ストレスも起こりやすくなります。最終的に、心筋梗塞や脳梗塞などの深刻な心血管系の疾患を引き起こすこともあり、最近では認知症の進行にも関係することがあるとわかってきました。

血糖値スパイクがあると体にどんな影響があるの?

血糖値スパイクが続くと、体に以下のような影響が現れます。

血糖値の急変動によって集中力が低下する
血糖値の急上昇時に強い眠気が、急降下時に空腹感・イライラ・集中力や判断力の低下が起こる
放置すると糖尿病に移行したり、糖尿病が重症化する
糖尿病の予備軍や、糖尿病を発症して間もない人は進行しやすい
血糖値スパイクによって糖尿病に進行したり、糖尿病の症状が重症化する
心筋梗塞や脳梗塞などのリスクが上がる
血糖値スパイクを繰り返すと、血管の壁が傷み、動脈硬化が進行
やがて心筋梗塞や脳梗塞などを引き起こすリスクが上がってしまう
インスリンの過剰分泌が認知症の一因になる
インスリンの過剰分泌は「アミロイドβ」という脳の老廃物の蓄積を促してしまう
「アミロイドβ」は認知症の原因物質の1つとされているため、認知症の進行にも関係することになる
がん細胞を増殖させ、がんを発症させることも
インスリンには細胞を増殖させる働きがあるため、過剰に分泌されるとがん細胞も増殖させてしまう
がん細胞が増殖してしまうと、やがてがんを発症してしまうこともある

血糖値スパイクは、急激な血糖値の上昇によって有害物質である「活性酸素」を発生させ、活性酸素が血管を傷つけることが大きな問題です。傷ついた血管は修復されますが、そのときに血管の内側の壁はどんどん厚く硬くなっていきます。これが動脈硬化で、血栓によって血管が詰まりやすくなってしまいます。

詰まる場所が心臓に栄養や酸素を供給する血管なら心筋梗塞、脳の血管なら脳梗塞を引き起こします。このように、血糖値スパイクは生命を脅かす疾患につながることもあるのです。他にも、がんや認知症の発症を誘発したり、進行させたりしてしまう場合もあり、糖尿病以外にも全身の疾患につながる影響を及ぼしかねません

血糖値スパイクかどうかをチェックしてみよう

血糖値スパイクかどうかをセルフチェックするために、以下の項目に「はい」「いいえ」で答えてみましょう。

  1. 朝食を摂らない
  2. コンビニ食を週3回以上利用している
  3. BMI値が25以上である
  4. 兄弟・姉妹・父母・祖父母など、血のつながった家族に糖尿病を発症した人がいる
  5. 3食のうち、1食以上が10分未満で食べ終えている
  6. 食後、すぐに椅子に座ることが多い
  7. 運動は週3日未満である
  8. これまで、ダイエットにトライしたことが3回以上ある
  9. 週3回以上、6時間以下の睡眠がある

上記の質問に対する答えのうち「はい」の数によってリスクの高さをチェックします。BMI値は、以下の計算式によって計算しましょう。

■ 体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)=BMI

  • 「はい」が2つ以下:低リスク
  • 「はい」が3~4つ:中程度リスク
  • 「はい」が5つ以上:高リスク

血糖値スパイクを予防するには?

上記で「はい」が5つ以上あるなど、血糖値スパイクのリスクが高い人は、血糖値スパイクになりにくいような工夫が大切です。具体的には、食事の際に以下の2つのことを心がけましょう。

タンパク質や食物繊維を十分に摂る

食後の急激な血糖値上昇を防ぐためには、朝食の炭水化物や糖質の比率を下げ、低糖質で高タンパクの朝食を摂ると良いことが、カナダの研究によってわかりました。一般的に、典型的な西洋式の朝食には、シリアル・オートミール・トースト・フルーツなど、非常に糖質が高く、食物繊維が少ないものが多いです。これらは手軽に摂取できる一方、食後の血糖値を急激に上昇させやすく、血糖値スパイクを引き起こしやすいという特徴があります。

同研究グループが2型糖尿病の人を対象に2日間の実験を行い、1日目には朝食にタンパク質の多いオムレツとサラダを、2日目には朝食に糖質の多いオートミールとフルーツを食べてもらい、それ以外の食事は全く同じものを食べてもらって1日の血糖値の変動を比較したところ、1日目には血糖値スパイクが見られず、さらに次の1日間の血糖値が安定していたことがわかりました。

つまり、朝食の炭水化物を減らし、血糖値を上げにくいタンパク質や食物繊維を含む食品を十分に摂取することは、食後の血糖値スパイクを防ぐのに効果的だと言えそうです。普段から朝食に白いパンや白米、甘いコーンフレークなどを食べてしまいがちな人は、これらの量を減らし、卵やサラダなどの量を増やすと良いでしょう。

食事を食べる順番に気をつける

食事の内容を変えるのがすぐには難しいという人は、食事の順番を変えるだけでも血糖値スパイクを軽減することができます。例えば、白米などの炭水化物を食べる前に魚や肉、野菜などのタンパク質や食物繊維を食べることで、胃の運動がゆるやかになり、食後の血糖値の上昇が穏やかになるのです。

さらに、主食のパンを全粒粉に、白米を玄米に変えるなど、食物繊維の多い穀物の摂取量を増やすことも大切です。食物繊維やビタミン・ミネラルは米や小麦が精製される過程でどんどん削り取られてしまうので、炭水化物以外の栄養素も摂取するためには、できるだけ削り取られていないもとの穀物のまま食べるのが良いのです。

このように、少しの工夫でも食後の血糖値スパイクを抑えることができます。ぜひ、できることから少しずつ実践してみましょう。

おわりに:血糖値スパイクとは、食後の血糖値の急上昇・急降下のことです

血糖値スパイクとは、食後に血糖値が急上昇し、インスリンが過剰に分泌され、血糖値が急降下することを言います。このような急激な血糖値の上昇と降下は、食後の眠気やイライラだけでなく、動脈硬化からの心筋梗塞や脳梗塞、認知症やがんの発症リスクを上げてしまいます。

そこで、食事の糖質を減らしてタンパク質や食物繊維を摂取したり、食べる順番を調節したりするなど、血糖値の急上昇を防ぐ工夫を行っていきましょう。

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認知症(63) 心筋梗塞(78) 動脈硬化(94) 血糖値スパイク(7) 血糖値スパイクのリスク(1)