記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2020/2/9
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
すい臓という器官を知っていますか?胃や肝臓、小腸や大腸などのよく聞かれる器官に対してあまり馴染みのない名前かもしれませんが、すい臓は消化のために非常に重要なホルモンを作ったり、それらを含んだ消化液を分泌したりという重要な器官です。
すい臓にあるランゲルハンス島という細胞は、インスリンなどの重要なホルモンを分泌する器官です。ランゲルハンス島の細胞やホルモンについて、詳しく見ていきましょう。
ランゲルハンス島とは、体内の「すい臓」という臓器の組織中に散らばっている内分秘腺の組織です。まるで海に浮かぶ島のように点々と散らばっているため、「ランゲルハンス島」または「膵島(すいとう)」と呼ばれています。すい臓は胃の裏側にある組織で、十二指腸に消化液(すい液)を分泌する役割をしています。
ランゲルハンス島には数種類の細胞があり、それぞれ別のホルモンを分泌しています。特にインスリンを分泌する「β細胞(B細胞)」と、グルカゴンを分泌する「α細胞(A細胞)」が有名で、体の重要なエネルギー源の1つである糖の分解や吸収に関わっています。すい臓内にα細胞は約20%、β細胞は約60~75%存在するとされています。
インスリンは、全身の細胞に働きかけ、細胞内への糖の取り込みを促進します。そのため、血糖値と密接な関係があり、β細胞が何らかの原因で障害されてインスリンを分泌できない、あるいはしにくいもの、細胞側でインスリンをキャッチする受容体が働かなくなった、あるいは働きにくくなったものが糖尿病です。
糖尿病にかかると、高い血糖値が持続することによって徐々に細い血管を中心に動脈硬化などの様々な合併症が出現し、重要な臓器にも障害が出てしまいます。尿にも糖が出るのは、血糖値が高まったために起こる二次的なもので、尿に糖が出たからと言って必ずしも糖尿病とは限りません。インスリンには、他にも糖からグリコーゲン(貯蔵しやすい状態にした糖分)を合成したり、タンパク質の合成を促進したりする働きもあります。
グルカゴンは、細胞内でグリコーゲンや脂肪を分解し、糖を新しく作る(糖新生)という作用を司っています。これらのホルモンについて、以下でさらに詳しく見ていきましょう。
ランゲルハンス島のα細胞から分泌されるホルモンが「グルカゴン」で、主に肝臓内でグリコーゲンを分解し、グルコース(糖)の生産量を増やし、血糖値を上げる働きがあります。通常、空腹時にグルカゴンが働くことで、グリコーゲンが分解され、糖分を摂取していなくても血糖値が一定に保たれるようになっています。
他にも、以下のような働きを持っています。
上記の働きはいずれも、細胞に備蓄されていたエネルギーを使いやすい形(糖)に変えて消費を促すものです。たとえば、ダイエットのために運動するなら空腹時がおすすめとされるのはこのためで、細胞内に溜めこまれていた糖分や脂肪が分解されて血中に放出されやすい状態だからです。
このように、グルカゴンは低血糖状態の際に分泌が促され、血糖値を一定に保つために体が溜めこんでいたエネルギーを放出させます。他にも、タンパク質やアミノ酸(中でもアラニンやセリンなどの糖原性アミノ酸)に刺激されたり、交感神経・副交感神経が刺激されたりすることでも分泌が促進されます。
インスリンは、ランゲルハンス島の「β細胞」から分泌されるホルモンで、血糖値を下げる唯一の働きを持つホルモンです。三大栄養素と呼ばれるタンパク質・糖質・脂質すべての代謝に関係して調節する作用を持っているため、栄養素と代謝を考える上で非常に重要なホルモンであると言えます。
最も重要な働きとしては、食後に小腸から吸収された糖が血中に放出されると分泌が増え、肝臓や筋肉など各種細胞に働きかけて血中の糖を取り込ませ、細胞内にグリコーゲンの形で貯蓄させたり、取り込んだグルコースを直接エネルギー代謝に利用したりする「糖代謝」を司るというものです。
ほかにも、脂肪細胞に働きかけ、取り込んだグルコースを材料に脂肪(中性脂肪)を合成し、皮下脂肪として貯蔵するのを促進する働きがあります。これらの作用によって、食後に上がった血糖値が速やかに低下するため、血糖値はいつも一定に保たれているのです。
筋肉の場合、取り込まれた糖はグリコーゲンとして貯蔵されるほか、肝臓では解糖とグリコーゲンの合成が促進されます。また、タンパク質の合成と分解抑制にも作用するため、結果的に体の成長を助ける働きも持っています。このように、インスリンは食後に分泌量が増えるホルモンですが、普段は全く分泌されていないというわけではなく、常に血中に含まれています。
空腹時にいつも分泌されているインスリンを「基礎分泌」と呼ぶほか、15分程度の間隔で分泌される「周期的分泌」などもありますので、血中のインスリン濃度は複雑に変化しています。ところが、糖尿病初期には食後の分泌量が減って基礎分泌量が増える、糖尿病を発症した患者さんでは15分の周期的分泌が見られないなどのケースが報告されています。
糖尿病は、上記のようなケースも含め、インスリンの分泌量が減るほか、細胞に対してインスリンが効きづらくなる(インスリン抵抗性)ことで発症します。日本人は一般的に欧米人と比べてインスリンの分泌量が少ないため、BMIが低くても糖尿病になりやすいという性質があります。
グルカゴンが「エネルギー放出」の役割を持っているのに対し、インスリンは「エネルギー貯蓄」の役割を持っています。そのため、エネルギーが不足する空腹時には細胞内に貯めておいた糖分をどんどん分解してエネルギーを生み出すため、グルカゴンの分泌が盛んになり、インスリンの分泌は抑えられます。
逆に、エネルギーが十分摂取される食事後にはエネルギーを貯めておこうとインスリンの分泌が盛んになり、グルカゴンの分泌は抑えられます。糖尿病の人では、これらのインスリンとグルカゴンの分泌が通常の人と異なり、インスリンの分泌量が減ったり細胞に対して効きづらくなったりするほか、食前・食後にグルカゴン濃度が増えたり、食後にグルカゴンの分泌が抑制されなかったりといった調節異常が見られます。
インスリンとグルカゴンの比を表した数値をI/G比と呼ぶことがありますが、グルカゴンの分泌が多くなれば小さくなり、インスリンの分泌が多くなれば大きくなります。つまり、健常な状態では空腹時のI/G比は小さくなり、食後のI/G比は大きくなるはずです。また、1型糖尿病の場合は何らかの原因でβ細胞からのインスリン分泌が減りますので、I/G比はやはり小さくなります。
すい臓は、すい液という重要な消化液を十二指腸に分泌する器官です。ランゲルハンス島はそこに含まれるホルモンを産生する組織で、α細胞ではグルカゴン、β細胞ではインスリンが産生・分泌されます。
グルカゴンは糖の分解・消費を促す「エネルギー放出」のホルモンであり、インスリンは糖の合成・貯蔵を促す「エネルギー貯蔵」のホルモンです。糖尿病患者さんでは、これらのホルモンの調節や分泌の異常が見られます。