記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2017/6/14 記事改定日: 2018/4/5
記事改定回数:1回
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
突然の発作で意識を失うこともある「てんかん」。てんかんでは、患者さん本人が発作に注意をすることがもちろん大切ですが、それと同じくらい重要なのが、「周囲の人が、発作や対処法について正しい知識を持っていること」です。てんかん患者さんと同じ職場の方や、てんかん患者の子供がクラスにいるという教員の方もご一読ください。
てんかんは、発作が起きてからすぐに回復する人もいれば、回復するまでに何時間もかかるという人もいます。発作を起こしている人を見かけたら、下記の手順に従い救護をしてあげてください。
・交通量の激しい通りやキッチンなど、怪我をする可能性のある場所から遠ざける
・地面や床に寝そべっている場合、頭を打つ衝撃を和らげるようなものを敷く
・襟やネクタイなどの首周りをゆるめ、呼吸を楽にする
・痙攣が止まったら、身体の側面が下になるように向きを変える
・そばに付き添い、回復するまで落ち着いた口調で話しかける
発作が始まったときと終わったときの時間や、発作の間に何が起きたかをメモするようにしましょう。てんかん患者本人や医師の診断時に役立つことがあります。特に、発作後にどのような状態になるのか(眠くなる、混乱する、攻撃的になるなど)にも注意しておくといいでしょう。メモすべき具体的な項目は以下のとおりです。
・どこで発作が起きたか
・何をしていたか
・おかしな匂いや味がするなど異常な感覚を訴えていなかったか
・興奮、不安、怒りなど、感情の変化はあったか
・発作の具体的な症状(倒れた、眼球が上転した、頭を回したなど)
・発作は前触れなく突然起こったか
・意識を失ったか、または意識に変化はあったか
・皮膚の色は変化したか、体のどの部位が何色に変化したか
・身体のどこかに硬直や痙攣があったか、どの部位にみられたか
・呼吸に変化はあったか
・ブツブツつぶやいたり、うろうろしたりなどの行動を起こしたか
・発作はどれくらい続いたか
・失禁があったか
・舌を噛んだか
・発作後はどのような状態だったか
てんかんの場合、発作が起きるたびに病院へ行く必要はないので、必ずしも救急車を呼ぶ必要はありません。しかし、以下に該当する場合は救急車を呼んでください。
・その人が発作を起こすのが初めての場合
・発作が5分以上続く場合
・意識が完全に回復しない場合、または意識が回復することなく発作が続く場合
子供のてんかん患者が学校で発作を起こした場合、何より大切なのが落ち着いて対処することです。詳しくは後述しますが、発作にはさまざまな種類があり、1回きりのものもあれば連続して起こるものもあります。意識を失い、顔色が悪くなっていくので動揺してしまうかもしれませんが、発作は基本的に短時間でおさまるので、パニックにならず周囲を観察し、発作を起こした子供と周りの子供の安全確保に努めましょう。
発作のタイプや状況別の対処法は、以下の通りです。
安全な場所に移動させ、机や椅子など周囲のものを遠くにやり、頭の下に柔らかいものを敷いて怪我をしないようにします。子供がメガネやヘアピンなどをつけているときは、外してください。なお、発作の種類によっては尿失禁を起こすこともあるので、下半身をタオルなどで覆ってあげる必要がある場合もあります。
立ったまま体をけいれんさせたり、ぼんやりしたりといった倒れない発作の場合も、周囲の危険物を取り除き、様子を観察してください。強く腕を掴んで制止しようとすると、抵抗してケガにつながる恐れがあるので、後ろから優しく静かに誘導することが大切です。なるべく普段通りの静かな口調を心がけることで、発作を起こした子供も、周囲の子供も安心します。
食事中に発作を起こすと、喉に手を突っ込んで食べ物を出そうとする方もいますが、飲み込む力が弱っている子供以外は、喉が食べ物に詰まることはほぼありません。どちらかというと、食器を倒して怪我をしたり、スープがかかって火傷したりするリスクの方が高いのでそちらに注意を向けましょう。
水泳の授業中に発作が起きたら、腕を抱えて頭部を引き上げ、鼻と口が水面から出るようにします。全身を水から引き上げるのは、発作が落ち着いてからにしてください。
初めて発作を見た周囲の子供たちは、パニックになったり恐怖を感じたりすることがあります。周囲の子供には「大丈夫だよ」と優しく声をかけ、発作は短時間で終わることを伝えましょう。
てんかんの発作は大きく分けて、「部分発作」と「全般発作」の2つに分けられます。しかし実際には、各タイプごとにさらに細かい発作が存在し、発作の種類はおよそ30以上ともいわれています。
「部分発作」とは、脳の一部が興奮して起こるタイプの発作です。てんかん患者の過半数に、この部分発作が起こるといわれています。脳のどの位置で起きた発作かによって症状は異なります。具体的な症状としては、以下のものが挙げられます。
・意識に反して身体が動く
片方の手だけ動き始めるなど、体の一部のみが動き出したりします。
・激しいデジャブや強烈な記憶が蘇る
・情緒不安定になる
突然、説明のしようがないほどの喜び、怒り、悲しみなどの感情に襲われることがあります。
・めまい
・幻聴や幻覚
実際にはない音が聞こえたり、匂いがしたり、味がしたり、実際にないものが見えたりします。
・自動症
自動症とは、まぶたや体をピクピクと動かしたり、歩きながら口を動かしたりなど奇妙な行動を繰り返す発作を意味します。わざとやっているように見える複雑な動きも、意思に反して起こることがあります。また、お皿を洗うなど、発作が起こる前に始めていたことを、非生産的な方法で繰り返すこともあります。この自動症の発作は、基本的には1~2分程度で収まります。
これらの部分発作の症状は、ナルコレプシーや精神疾患と間違えられることもあります。ほかの疾患とてんかんを区別するためには、多くの検査と慎重な観察が必要になります。
全般発作とは、脳全体に異常な電気活動が広がって起こる発作で、意識がなくなったり、倒れたり、筋肉がひどく収縮を起こしたりするのが特徴です。全般発作の中でも、細かい発作の種類は下記のように分けられます。
筋肉を少しピクピクさせながら(まったく起こらないこともある)、一点を集中して見つめる発作です。
背中や脚、腕などの体の筋肉が硬直する発作です。
身体の両側の筋肉で、繰り返し痙攣が起こります。
上半身や腕、脚が痙攣を起こしたり、ピクピク動いたりします。
筋肉の緊張が低下し、意思に反して倒れたり、がっくりとうなだれたりします。
身体の硬直や手足の痙攣、意識を失うといった症状が組み合わさります。
てんかん発作を抑えるには薬を飲むことが重要ですが、もし薬の飲み忘れに気づいたら、その時点ですぐに服用してください。例えば1日2回服薬の場合、夜になってから朝の分の飲み忘れに気づいたら、朝の分の薬を服薬し、少し時間を空けて夜の分の薬を服薬しましょう。1日1回服薬の場合も、前日飲み忘れた薬をきちんと飲むようにしてください。
一言で「てんかん」と言っても、発作の種類や具体的な症状はさまざまです。もし身近なてんかん患者さんが発作を起こした際には、ご紹介した対処法を慌てずに実践してくださいね。