記事監修医師
東京大学医学部卒 医学博士
下痢や便秘はよくある消化器系のトラブルで、中には「体質だから仕方ない」とあきらめてしまっている人も多いかもしれません。
でも、意外に思うかもしれませんが、糖尿病が原因で下痢や便秘が起こることもあるんです。健康診断で血糖値が高かったり、糖尿病の疑いがあると言われた人で、便秘や下痢がひどいと感じている人は、この記事で糖尿病と下痢や便秘の関係について知っておくとよいかもしれません。
糖尿病と聞くと、多くの人は心臓疾患や脳卒中の可能性を思い浮かべるかもしれません。でも、実は糖尿病で下痢や便秘など、消化管に影響を及ぼすこともあるのです。
消化は食事をするとすぐに始まり、1~2日後にお手洗いに行って排便したときに終わります。これらの過程は、体の機能をコントロールする神経系によって行われています。
しかし、糖尿病の症状である高血糖によって、消化器系を含む体の毛細血管や自律神経にダメージを与えることがあります。その結果、腸の働きが早くなったり遅くなったりして、下痢や便秘を起こすことがあるのです。
このほか、治療薬や特定の食べ物が原因で、下痢や便秘になることもあります。
糖尿病患者の方のうち、60~70%が何らかの形で神経障害がみられたり、合併症のひとつである糖尿病性神経障害を発症していたりします。糖尿病の病歴が長ければ長いほど、神経障害が出てくる可能性が高くなります。
一般に、下痢には腹痛が伴うもの、というイメージがあるかもしれませんが、糖尿病が原因の下痢では腹痛が起こることがありません。また、昼夜を問わず突然起こることが多いため、夜間に便失禁を起こすなど、生活に支障をきたすこともあります。
また、糖尿病が胃腸の神経を傷つけると筋肉の収縮が起こらなくなるため、胃腸の働きが鈍くなって食べ物をうまく胃から腸へと移動させることができなくなります。また、結腸は排泄物から水分を吸収するため、便を固くして腸にとどまりやすくなって便秘になるのです。
メトホルミンは、糖尿病の人の多くが服用する治療薬で、血糖値を下げる効果があります。この薬を服用し始めたときや、服用量を増やしたときに、吐き気や下痢の原因となることがあります。この副作用は、2~3週間でなくなることが多いです。
下痢は、そのほかの糖尿病治療薬の副作用でも起こります。一例として、以下のようなものがあります。
無糖甘味料である、マルチトール、マンニトール、ソルビトール、キシリトールなどを大量に摂取すると、下痢の原因となることがあります。これらは「糖アルコール」と呼ばれる種類の化合物群です。
糖アルコールは小腸で消化・吸収しづらく、糖アルコールを消化するために腸管壁から水分を引き出す性質があります。このため、大腸の水分が増えて下痢しやすくなるといわれています。ただし、この症状は一過性のものなので、特に心配はいりません。
下痢すると、低血糖状態に陥ることがあります。低血糖になると、最初はあくびや眠気、頭痛、吐き気といった症状がみられますが、症状がすすむと冷や汗や手のふるえなどがあらわれ、最悪の場合、意識障害が起きて昏睡状態に陥ることもあります。
もし、下痢のあとにこのような症状がみられたら、ブドウ糖を摂取するか、糖質を含むジュースや缶コーヒーなどを飲むようにしてください。
糖尿病性神経障害が原因で下痢や便秘が起きている場合、元となる神経障害を治療することが必要です。初期の神経障害の場合、血糖値をコントロールすることで症状を改善することができます。医師の指導に従って、食事療法や運動療法に取り組みましょう。
糖尿病の持病があって下痢や便秘に悩んでいる場合、食べ物や薬の影響も考えられますが、神経障害が原因の場合もあります。下痢や便秘が続くなど、気になる症状があるときは、必ずかかりつけの医師に相談して、しかるべき対処法をアドバイスしてもらいましょう。