記事監修医師
東京大学医学部卒 医学博士
お年寄りに認知症のような症状が現れる疾患に、正常圧水頭症があります。認知症と違うところは、早期発見して治療することで症状が改善するところ。症状としてどのような点が似ていて、どのような点が違うのでしょうか? また、どのように治療するのでしょうか?
脳脊髄液は毎日脳室でつくられ、脳の周囲や脊髄の表面を通り、血管に吸収されているという流れを繰り返しています。この流れが滞ると、脳室に脳脊髄液がどんどんたまっていき、脳が圧迫することでさまざまな障害を起こす病気を水頭症といいますが、このうち髄液圧が正常の範囲におさまっているものを正常圧水頭症といいます。
正常圧水頭症には、クモ膜下出血や頭部外傷など、なにかしらの疾患が原因となって発症する「続発性正常水頭症」と、原因がはっきりしない「特発性正常圧水頭症」の2種類があります。
このうち、高齢者が発症しやすいのは「特発性水頭症」であり、三大症状として「歩行障害」「尿失禁」「認知症に似た症状」があります。
認知症は大変よく似た症状を示すため、正しく診断されないことがあり、治療が遅れるケースも少なくありません。
認知症にはみられない、特徴的な症状は、「歩行障害」です。すり足で歩く、がに股になるといった特徴的な歩行がみられるようになり、転倒することが増えます。
また、注意力や集中力が散漫になり、うつ状態のようにボーっとしていることが多くなるなど、意欲の低下が見られます。ほかに発症しやすいのは、尿失禁などの排尿障害です。
正常圧水頭症を発症した場合、注意しないといけないのは、以下のような、よく似た症状を示す疾患があるということです。
正常圧水頭症と合併して発症することがあります。
末期になるまでは、歩行障害はみられません。
正常圧水頭症と合併して発症することがあります。また、正常圧水頭症では、パーキンソン病でみられるような手の振るえはありません。
まず、三大症状としての「歩行障害」「尿失禁」「認知症に似た症状」を、周囲の人が見逃さないようにすることです。そして、症状が認められたときは、脳神経外科、神経内科を受診しましょう。
病院では、まずCTスキャンやMRIといった画像検査を行い、脳室が大きくなっていないかが確認されます。このような画像検査は、脳の内部でいま起こっていることを詳細に映し出してくれます。
正常圧水頭症の疑いがある場合は、次に髄液循環障害検査を行い、髄液循環障害の有無を確認します。ここで行なわれる重要な検査が、腰椎から髄液を抜いて症状がよくなるかをみる髄液排除試験(髄液タップテスト)です。
なお、補助的な検査として持続髄液ドレナージや髄液流出抵抗測定(インフュージョンテスト)が行なわれることもあります。
髄液タップテストで症状がよくならなかったときは、外科手術となります。外科手術で行われるのは、「髄液シャント術」という手術です。これは、頭の中に溜まった髄液を、カテーテルを使って他の場所に流れるようにする施術方法の総称です。
髄液シャント術の中では、現在、「脳室腹腔シャント術」が最も一般的に行なわれていますが、「腰椎腹腔シャント術」や、カテーテルではなく内視鏡を用いる「第三脳室底開窓術」といった手術も行なわれています。
正常圧水頭症は、早期発見・早期治療が重要な疾患であり、治療が遅れてしまった場合、手術をしてもなかなか期待どおりの回復がみられない場合があります。しかし、リハビリによって改善の確立は上がりますし、認知症状や運動障害の改善にはただでさえ時間がかかります。焦らないでがんばることが大切です。