記事監修医師
東京大学医学部卒 医学博士
O157(腸管出血性大腸菌)は、下痢などの症状だけでなく、死に至る危険もある感染症です。 今回の記事では、症状や治療法を解説します。
この記事では、O157感染症の症状の特徴と感染者が出たときの対処法を紹介していきます。
腸管出血性大腸菌O157(EHEC)は、腸管出血性大腸菌の中の代表的な菌の一種です。通常、大腸菌は人や家畜の腸内に存在するもので、そのほとんどが無害ですが、いくつかの有害な大腸菌は毒素を産生し、出血を伴う腸炎や溶血性尿毒症症候群(HUS)を引き起こし、感染することで下痢や激しい腹痛を発症させます。
O157に感染すると、約3~8日の潜伏期間を経て発症します。最初は水様便があり、その後激しい腹痛が起き、さらに著しい血便が出るようになります。また発熱を伴う場合もありますが、多くは一過性のものです。
これらの症状を発症する人のうち6~7%が、下痢などの最初の症状が起こった数日後から2週間以内に、HUSや脳症などの重症合併症を発症する可能性があります。激しい腹痛と血便がある場合には、特に注意が必要となります。
また、中には全く症状の出ない人や軽い腹痛や下痢で治まる人もいますが、重篤な合併症を引き起こす場合もあり、最悪の場合死にいたるケースもあります。
O157の感染経路は、肉や魚介類などの食品や、感染者の便に生息する大腸菌から感染することが多いとされています。また、スーパーの惣菜などから複数人の感染が起こるケースもよくみられます。
O157感染症の症状は、頻回の下痢、腹痛、発熱などですが、重症化すると血便を生じてHUSや脳炎などの重篤な合併症を引き起こす可能性があります。
初期症状の現れ方は、子供と大人に違いはありませんが、免疫力が低い子供や高齢者は健康な大人よりも重症化することが多いとされています。また、子供や高齢者は頻回の下痢や発熱によって脱水症状に陥りやすいため、注意が必要です。
O157に感染した場合は、まず医師の診察を受けることが大切です。治療は、下痢の症状に応じた治療が優先されます。抗生物質の投与で菌の増殖を防ぎ、水分補給を行い安静を保つように指示されるでしょう。
また、下痢により強い脱水症状がみられる場合は、点滴を行うこともあります。また、市販の下痢止めはO157の菌が大腸内に残ってしまうため、使用しないでください。
O157に感染した人が周囲に出たときは、感染した人と同じ飲食物を摂取した家族が感染していないかどうか、または感染した人から家族への感染がないかどうか診断を受けましょう。特に症状がなくても、便の検査が行われる場合があります。
家庭内で家族が感染した場合、ドアノブやトイレの取っ手など、菌が付着しやすい場所を消毒用アルコールなどで消毒をする必要があります。
感染者本人は、食事や調理の前、トイレの後など、十分に石鹸で手を洗い、消毒用アルコールで消毒することが大切です。
おむつの交換をする際は、使い捨てのゴム手袋を着用し、使用後は捨ててください。
感染者の汚れた下着を洗う際は、薬品などにつけおきし、家族のものとは別に洗濯するようにしましょう。
また、タオルやバスタオルの共用も避けましょう。
こうした家庭内の消毒についての知識や、日常生活で感染した人への接し方についての知識は、保健所の職員が指導していますので、話を聞いて、分からないことがあれば質問しておくことが大切です。
飲食店でO157に感染した人が出た場合、それが提供した飲食物が原因である場合には「食中毒事件」として認定され、都道府県知事より数日~数週間の業務停止命令が出されます。その間、飲食店は店内の消毒や品質管理の見直しなどを徹底して行い、再発防止に努める義務が課されます。
また、提供した飲食物が原因でない場合は、特にトイレやドアノブ、電気スイッチなどの人の手が触れやすい部分のアルコール消毒を行います。従業員がO157に感染していることが分かった場合には、他の従業員にも感染が広まっていないか検便を行い、便からO157が検出された従業員は医療機関での治療を受け、菌が検出されなくなるまで出勤停止となったり、食品に直接触れる業務を行うことはできなくなります。
いずれも、管轄の保健所の指示に従うようにしましょう。
O157は、気をつけていたとしても感染してしまう恐れがあります。発熱とともに下痢や嘔吐などの症状がみられたら、手遅れにならないうちに、すぐに病院で検査をしてください。子供や高齢者はとくに注意が必要です。
また、感染者から他の人に感染を拡げないためにも、正しい対処法を覚えておきましょう。
【 厚生労働省ホームページを編集して作成 】
※抗菌薬のうち、細菌や真菌などの生物から作られるものを「抗生物質」といいます。 抗菌薬には純粋に化学的に作られるものも含まれていますが、一般的には抗菌薬と抗生物質はほぼ同義として使用されることが多いため、この記事では抗生物質と表記を統一しています。