記事監修医師
東京大学医学部卒 医学博士
死や寝たきり状態に直結するリスクのある、恐ろしい「脳梗塞」。ただ、脳梗塞は何が原因で発症するのでしょうか?若い人に起こる脳梗塞「若年性脳梗塞」の原因も併せて解説していきます。
まず脳梗塞とは、脳の血流が正常時の5分の1~10分の1程度に低下し、それによって脳組織が酸素不足や栄養不足に陥ることで、脳組織が部分的に壊死してしまう状態をいいます。若い人から高齢者まで様々な年代の人が発症してしまう可能性がある病気です。
この脳梗塞の主な原因が「血栓」です。本来体内をめぐっている血液は凝固することはないのですが、損傷や炎症、動脈硬化によって血管の内皮が変化したことで血液が凝固してしまい、血栓ができてしまうことがあります。血栓が大きかったり蓄積したりすると血管は塞がり、血液の流れはストップします。これによって血液の流れが滞り、結果として脳梗塞を起こしてしまうのです。
ただ、脳梗塞の原因は血栓だけではありません。脳にはたくさんの血管と血液がめぐっていますが、特に動脈硬化が起きている場合は、たとえ血液が凝固していなかったとしても血流が悪くなるので、脳梗塞を引き起こしてしまう可能性があります。
脳梗塞には大きく分けて2種類のタイプがあり、ひとつは「動脈硬化」によって脳に「血栓」ができ、脳の血管が詰まってしまうことによって生じるタイプ、もうひとつは心臓など脳以外の部位でできた「血栓」が体内をめぐり、脳の血管で詰まってしまうことによって生じるタイプがあります。それぞれを誘発する原因としては、以下のものが挙げられます。
糖尿病や脂質異常症といった生活習慣病は脳梗塞の発症リスクを上げる要因と言われていますが、中でも注意が必要なのが高血圧です。高血圧によって血管の壁への圧力が長く続くと、血管の壁にダメージが蓄積することで動脈硬化が進んでいきます。このことから高血圧は脳梗塞の最大の危険因子とも言われており、高血圧による脳梗塞には3つのタイプがあります。
動脈硬化が脳の細い血管で起こると、血管内に小さなコブができ、血栓を生じるようになります。この血栓によって脳の血管が詰まったことで起こるのがラクナ梗塞です。
脳の太い血管で動脈硬化が起こり、血管の内側にかゆ状の塊ができて血管が詰まりやすくなることで起こります。
高血圧によって心筋の細胞に負担がかかると、「心房細動」と呼ばれる心不全や不整脈を発症しやすくなります。心房細動では「心房(心臓の内腔の上半分を占める大きな部屋)」での血流が乱れて滞るため、その分できる血栓は大きく、太い血管で詰まりやすくなります。この心房細動による脳梗塞は「心原性脳梗塞」と呼ばれ、他の脳梗塞よりも広範囲で脳が損傷する傾向にあるため、一命を取り留めても重症化しやすいと言われています。
現代では、和食ではなく洋食や中華など様々な国の料理を楽しむことができるようになり、周りには食べ物で溢れているので必要以上に食べすぎてしまうことがひとつの危険因子として挙げられます。また、車などの移動手段が増えたために運動不足になっていることも危険因子のひとつであり、この食べすぎと運動不足が招く肥満は、脳梗塞の大きな原因ともされています。肥満は脳梗塞の主な原因である動脈硬化を促す主要因だからです。
喫煙習慣も、脳梗塞を招く大きな危険因子です。喫煙は動脈硬化を進行させ、脳の血流を悪くし、血栓をつくりやすくするからです。
ストレスには血管を収縮させる作用があるだけでなく、脳梗塞の原因である高血圧や動脈硬化などの発症リスクを上げる恐れがあるとも考えられています。
45歳以下の若い世代に起こる脳梗塞は「若年性脳梗塞」と呼ばれ、普通の脳梗塞とは原因が異なると言われています。普通の脳梗塞の場合は、先述の通り高血圧、肥満などによる動脈硬化が原因で引き起こされますが、若年性脳梗塞の場合は、「もやもや病」「抗リン脂質抗体症候群」「奇異性脳塞栓症」などの血栓ができやすくなる病気で発症する傾向にあります。
脳の動脈の一部が閉塞することで、血流を確保するために周囲の毛細血管が拡張する病気です。この拡張した毛細血管は細く弱いために切れやすく、詰まりやすいので、脳梗塞の発症リスクを上げると言われています。
血中に抗リン脂質抗体という抗体ができ、血液が固まりやすくなることで、主に足の深部静脈に血栓が生じやすくなる病気です。脳梗塞を起こすこともあります。
足などの静脈にできた血栓が卵円孔(心臓の右房と左房の間の穴)から脳血管へと移動し、脳梗塞を起こす病気です。この卵円孔は通常成長とともに塞がりますが、成人の約2割には残っていると言われています。
脳梗塞の原因には、基本的に血液の状態が深く関連しています。肥満の人や喫煙習慣のある人は特に、脳梗塞の発症リスクを高める動脈硬化を起こしやすいとされているので、生活習慣の改善に努めましょう。また、若い人でも脳梗塞を起こすことがあるので、定期的な血液検査や脳の検査などで発症を予防することも大切です。