記事監修医師
日本赤十字社医療センター、歯科・口腔外科
川俣 綾 先生
2017/12/18
記事監修医師
日本赤十字社医療センター、歯科・口腔外科
川俣 綾 先生
顎などにできることのある腫瘍のひとつに、「エナメル上皮腫」というものがあります。ではこのエナメル上皮腫とは、いったいどういうものなのでしょうか。特徴や原因、治療法などを解説します。
歯を形成する組織が分化していく過程で異常増殖を起こし発生する腫瘍を、歯原性(しげんせい)良性腫瘍と呼びます。その中で最も発生数が多いのがエナメル上皮腫で、他の歯原性良性腫瘍には、角化囊胞性歯原性腫瘍や歯牙腫があります。20~30歳代の人に多く発症し、男女差は男性がやや多いですが、ほとんど男女差はありません。
エナメル上皮腫は下顎骨の大臼歯から下顎枝部に出来ることがほとんどで、8割方は下顎に発生します。成長が遅く、大きくなっても症状が出にくい傾向があります。そのため、気付かないうちにエナメル上皮腫が大きくなり、顔やあごの骨に深刻な損傷を与えてしまったり、あごの骨が膨隆して骨が変形し、顔つきが変わってしまったりすることもあります。
エナメル上皮腫は基本的に良性腫瘍です。ただし、周囲に広がりやすいことや再発が非常に多いことから、準悪性腫瘍と定義されることもあるようです。
良性の場合には病巣部を切除することで治療できますが、再発が多いことが特徴で、繰り返し再発することで病巣の転移を起こしたり、悪性化してしまう可能性もあると言われています。なお、繰り返し再発する場合には、何度も手術を繰り返す必要が出てしまいます。
良性のもの以外では、転移性エナメル上皮腫という悪性腫瘍もあり、これは肺や胸膜などに転移を起こすので生命を脅かす危険性があります。悪性のエナメル上皮腫は極めて稀な発生頻度ですが、50歳以上になると悪性のものが発生しやすいことがわかっています。
エナメル上皮腫が発生する原因は、細胞の囊胞化です。通常、歯の発生過程の組織であるエナメル器、残存上皮細胞、歯堤などは不必要になった後、身体に吸収されていきますが、なんらかの原因があって組織が残ってしまうと囊胞化することがあります。これがエナメル上皮腫の発生メカニズムです。ただ、なぜ組織が残ってしまうのかの原因はまだはっきりとは分かっていません。また、囊胞化以外の原因として、生活習慣や遺伝的な要因も指摘されています。
エナメル上皮腫の発生しやすい部位はほとんどが下顎で、下顎大臼歯智歯部、下顎枝部、下顎角部で70~80%を占めます。次に多いのが下顎小臼歯部で20%ほどです。下顎前歯部に発症するのは10%以下だと言われています。
エナメル上皮腫の治療はおおまかに、保存的外科療法と根治的外科療法に分けられます。
保存的外科療法は病巣部に減圧を目的とした窓を作り、腫瘍が小さくなるのを待ってから全摘出手術を行う治療法です。窓を作ることから開窓療法と呼ばれています。単胞性や嚢胞性の腫瘍に適用されることが多い治療法で、子供や若い年代の患者さんに行うことが多くなっています。開窓療法は腫瘍を小さくしてから手術を行うので患者の負担が少なくなりますが、再発率が高いという特徴があります。
もうひとつの治療法である根治的外科療法は顎骨切除術を行う治療法です。症状の進み具合によって切除する部位には違いがあり、下顎骨辺縁切除、下顎骨区域切除、下顎骨半側切除といったものがあります。同時に自家骨移植や神経移植なども行われることがあります。
再発しやすい厄介なエナメル上皮腫。そのほとんどが良性腫瘍ですが、まれに悪性化してしまうものもあります。専門医と相談の上、根治的な治療を進めていくことをおすすめします。