記事監修医師
東大医学部卒、セレオ八王子メディカルクリニック
二宮 英樹 先生
2017/11/29
記事監修医師
東大医学部卒、セレオ八王子メディカルクリニック
二宮 英樹 先生
近年ではすっかり着用する人が増えた「マスク」。通勤時や人混みでは、風邪予防のためにマスクをつけるようにしている人もかなり多いのではないでしょうか。ただ、そんな方々にとってはかなりショッキングなニュースが…。実は、「マスクをつけても風邪は予防できない」かもしれないのです!その理由を詳しく解説していきます。
風邪をひいている人だけでなく、健康な人も感染予防のために着用することのあるマスク。しかし、過去に厚生労働省(新型インフルエンザ専門家会議)は、マスク使用の考え方について、以下の見解を示しています。
「環境中のウイルスを含んだ飛沫は不織布製マスクのフィルターにある程度は捕捉される。しかしながら、感染していない健康な人が、不織布製マスクを着用することで飛沫を完全に吸い込まないようにすることは出来ない。」
ただ、一方では
「咳・くしゃみなどの症状のある人は、周囲の人に感染を拡大する可能性があるため、飛沫の飛散を防ぐために不織布製マスクを積極的に着用することが推奨される。」
と、すでに感染症状がみられる人がマスクを着用することで、周囲への飛沫感染を防ぐ効果があることを示しています。
【出典: 厚生労働省ホームページを編集して作成 http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/09/dl/s0922-7b.pdf】
人から人への感染経路には、
・接触感染:微生物が汚染したものを介して、手などに付着し、口などから感染する
・飛沫感染:感染者が咳やくしゃみで放出した、微生物を含む5㎛以上の飛沫が、口の中などの粘膜に付着して感染する
・空気感染:微生物を含む5㎛以下の飛沫核が空中を浮遊して、その飛沫核を吸入することにより感染する
があります。このうち空気感染する微生物に関しては、細かすぎるためマスクで捉えることができず、感染を防げません。
空気感染する感染症としては、結核や麻疹(はしか)、水痘(水ぼうそう)が知られています。これらの微生物の感染を防ぐためには、N95マスク(Nとは耐油性がない(Not resistant to oil)という意味。95は0.3μm以上の塩化ナトリウム結晶の捕集効率が95%以上であることを示す)という特別なマスクがあり、実際に医療機関を中心に使用されています。
ただ、一度着用すると実感できますが、N95マスクは少し息苦しいマスクであり、日常生活でつけるのにはあまり向いていません。一方で一般的なマスクも、飛沫感染に関しては一定の効果が認められます。
コンビニやドラッグストアでは「ウイルス●●%カット」などと表記されたマスクをよく目にするかと思います。しかしこのカット性能に関して、「ウイルス対策をうたっているにもかかわらず、フィルターの捕集効率が低いものがあった」と国民生活センターが過去に発表しています(平成21年11月18日 独立行政法人 国民生活センター 「ウイルス対策をうたったマスク-表示はどこまであてになるの?-」)。
この発表にあたり、調査対象となったのはマスク15銘柄(プリーツ型9銘柄、立体型6銘柄)です。このうち6銘柄の捕集効率が80%以下であり、さらにこの中でN95マスクの基準を満たしていると受け取れる表記があるにもかかわらず、捕集効率が80%以下のものが3銘柄あったことが判明しました。
インフルエンザウイルスなどのウイルスの大きさは約0.1μmと非常に小さいですが、微細なために単独で飛散することはできず、通常は唾液などの飛沫と一緒に飛散します。飛沫は5μm程度なので、N95マスクであれば十分捕捉可能な大きさです。
しかし、吸い込む空気の全てがマスクのフィルターを通るわけではありません。顔とマスクに隙間があると、そこからフィルターを通っていない空気―つまりウイルスを含んだ飛沫が入り込み、風邪やインフルエンザに感染してしまう可能性があるのです。
実際、マスクがしっかりフィットしていないという実感のある方は少なくないでしょう。先述のマスク15銘柄の調査においても、全ての銘柄で空気の平均漏れ率が40%を超えていたことが明らかになっています。
【出典: 厚生労働省ホームページを編集して作成 http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/09/dl/s0922-7b.pdf】
結局のところ、マスクをつけるだけでは十分な感染予防になるとはいえません。ただ、マスクの着用によって、感染者の咳やくしゃみによって放出された飛沫を防いだり、ドアノブなどに付着したウイルスが手を介して口や鼻に直接触れるのを防ぐことから、ある程度の接触感染を減らす効果はあります。また、鼻やのどを極度の乾燥から守り、湿度や温度を保つ点からも、特に寒い季節には感染を予防する効果が期待できます。
今後は風邪などの感染症を予防するために、普段から以下のことを心がけましょう。
マスクを購入する際は、顔の形やサイズに合ったものを選んだ上で、説明書の指示に従って使用してください。一般的な使用手順は以下のとおりです(下記は不織布製マスクの例です)。
<着用方法>
1.鼻、口、顎を覆う(鼻と口の両方を確実に覆うようにする)
2.鼻部分を鼻梁にフィットさせる
3.ひも部分を頭に固定し、きつさを調整する
<着脱方法>
ひも部分を持った状態で顔から外す(※フィルター部分には病原体が付着している可能性があるので、表面を触らないよう注意)
<廃棄方法>
マスクのひもを持ったまま、ビニール袋に入れて口を閉じる。廃棄後は、手にウイルスがついている可能性があるので、手洗いや消毒用アルコール製剤で消毒する。なお、不織布製マスクは原則使い捨てのため、消毒後の再利用なども避ける。
【出典: 厚生労働省ホームページを編集して作成 http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/09/dl/s0922-7b.pdf】
多くの場合、風邪やインフルエンザは、ウイルスを持っている人の飛沫を吸い込むことで感染します。さらに、感染症が流行る寒い季節は空気が乾燥しているために、空気中のウイルスが長生きしやすい傾向にあります。感染予防のために、人混みにはできるだけ近づかないようにしましょう。
外出から帰ってきたときはもちろん、日頃からこまめに手洗いをしましょう。指輪や腕時計は外し、手のひら、手の甲、指先や夢の間、爪の間、手首など手全体をしっかり石けんで洗ってください。洗い終わったらしっかり水で流し、清潔なタオルなどで拭いてよく乾かしましょう。
偏食や暴飲暴食、睡眠不足はいずれも免疫力を低下させます。栄養バランスのとれた食事と十分な睡眠を心がけましょう。また、適度に運動も行いましょう。
咳などによる飛沫感染や接触感染のリスクを減らすという意味では、マスクを着用することである程度の感染予防効果が見込めます。ただ、マスクと顔の間に隙間があったり、あるいは空気感染する微生物だったりすると、マスクをつけていても感染症にかかる可能性はあります。感染を予防したいのであれば、マスクの力を過信せず、日頃の衛生習慣を整えておくことが大切です。