記事監修医師
東京大学医学部卒 医学博士
顔がむくんだり、便秘がちになったりといった、甲状腺機能低下症の症状を招くことがある「慢性甲状腺炎(橋本病)」。この慢性甲状腺炎(橋本病)には、どういった治療が行われるのでしょうか?日常生活での注意点と併せてお伝えしていきます。
慢性甲状腺炎は橋本病とも呼ばれ、のどぼとけの下方にある甲状腺に慢性の炎症が起こることで甲状腺が腫れたり、甲状腺の機能に異常が起こったりなど、甲状腺機能低下症を引き起こす病気です。
何らかの原因で自己免疫が甲状腺を異物とみなし、攻撃することで発症します。
血液検査などの結果によって慢性甲状腺炎(橋本病)と診断された場合でも、甲状腺機能低下症の症状が出ていなければとくに治療の必要はありません。
ただし、甲状腺は全身の代謝にかかわるホルモンを分泌するため、甲状腺機能が低下したことによる甲状腺機能低下症の症状が出ている場合には、投薬治療などが必要になります。
甲状腺機能低下症の症状は、甲状腺ホルモンの分泌が減ってしまうことによる
などがあり、症状がある間は不足した甲状腺ホルモンを補うための甲状腺ホルモン剤を服用して治療する必要があります。
症状が出ている限り服用を続ける必要がありますが治療薬には副作用がほとんどなく、一般的には服用後約1か月から2か月ほどで甲状腺ホルモン値が正常になり症状がなくなってきます。
甲状腺の炎症が治まり甲状腺機能低下症の症状がなくなれば、薬の服用をやめることもできます。
なお、甲状腺機能低下症の症状は出ていないものの甲状腺の腫れが大きい場合、投薬によって小さくすることが期待できます。特に腫れが大きく圧迫症状がある場合には、手術によって甲状腺の腫れた部分を切除するケースもあります。
橋本病が疑われるときにまず行われる検査は血液検査です。
血液検査では血中の甲状腺ホルモンや甲状腺刺激ホルモンの濃度が測定され、甲状腺を攻撃する抗体である抗サイログロブリン抗体や抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体の有無が調べられます。
また、橋本病ではコレステロール値の上昇なども見られるため、病状などを評価するためにこれらの一般的な血液検査項目が始動時に調べられることも少なくありません。
そして、実際に甲状腺の腫れやしこりの有無を調べるには甲状腺超音波検査が用いられます。超音波検査は外来でも簡便に行うことができ、身体への負担は一切ありません。
橋本病は甲状腺腫瘍を合併することもあり、超音波検査でしこりが見つかった場合は、皮膚からしこりに針を刺してしこりの組織を採取し、顕微鏡でどのような病気か観察する吸引細胞診が行われることがあります。
橋本病の治療で一般的に使用される薬です。商品名はチラージンS®で、甲状腺ホルモン製剤の一種です。
チラージン®には甲状腺ホルモンの分泌が促す効果ではなく、不足している甲状腺ホルモンを補う効果があります。
チラージンS®は副作用が少ない薬ですが、適量の維持には定期的な血液検査を受ける必要があり、多く飲みすぎた状態が続くと逆に甲状腺機能亢進症を発症することがあります。
また、チラージンS®は鉄剤や下剤などのマグネシウム剤と一緒に服用すると、吸収が阻害されることがありますから、飲み合わせには注意しましょう。
発症のメカニズムは明確に解明されていませんが、橋本病は強いストレスなどが誘因となってしばしば急激に悪化することがあります。これを急性増悪といい、甲状腺の痛みや発熱がみられます。
急性増悪を起こしたときには、ステロイド系消炎鎮痛剤の投与が行われることがあります。
橋本病は甲状腺機能の低下によって様々な症状が現れます。それらの症状を緩和するために漢方薬が併用されることがあります。
特に、抑うつ状態の改善には、補気薬とよばれる種類の漢方が使用されます。また、その他にも補腎薬や補血薬に分類される漢方を使用して、やる気の欠如や貧血などの改善を目指すこともあります。
しかし、漢方薬は一つ一つの症状を改善することはできても、橋本病自体を治すことはできません。病院で処方される甲状腺ホルモン薬の服用を第一に考え、あくまでも補助的な治療の一つとして漢方薬を服用するようにしましょう。また、服用する際は必ず医師に相談しましょう。
橋本病の多くは、甲状腺ホルモン薬を服用して経過を見ていきます。甲状腺が腫れることもありますが、痛みや熱感などを伴わず、指摘されるまで自覚症状がない人もいます。
しかし、甲状腺が大きく肥大して、周辺臓器を圧迫したり首の伸縮運動を妨げてしまう場合には甲状腺の摘出が検討されることもあります。
また、急性増悪を繰り返すケースでも手術が検討されることがあります。
甲状腺機能低下症の症状が出ていなければ、日常生活において特別注意すべきことはありませんが、慢性甲状腺炎などの甲状腺疾患がある人はヨード(ヨウ素)を過剰に摂取し過ぎると、甲状腺機能低下症を発症する恐れが出てきます。
昆布などに多く含まれていますので、摂り過ぎないよう注意しましょう。なお、ヨウ素のうがい薬でうがいをし過ぎるとヨウ素を取り込み過ぎる恐れがあるとされ、こちらも注意したほうが良いとされています。
また、喫煙は甲状腺機能低下症を招くリスクを高めるとされますので、禁煙を心がけましょう。
なお、アブラナ科の野菜や大豆食品を多く摂ることで甲状腺の腫れが大きくなったり機能低下を起こすともいわれていますが、毎日大量に摂取しない限り問題はないとされています。バランスの取れた食生活を送ることが大切です。
慢性甲状腺炎を発症した場合、甲状腺機能低下症の症状が出ているのであれば治療することをおすすめします。
ホルモン療法や切除手術など、適した治療法には個人差がありますので、詳しくは専門の医療機関にてご相談ください。