記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2018/1/15 記事改定日: 2020/7/14
記事改定回数:3回
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MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
陰嚢水腫とは、鞘膜という袋状の組織に体液が溜まり陰嚢が大きくなったり左右差が見られる病気です。この記事では、陰嚢水腫の治療法について解説しています。
陰嚢水腫は大人と子供で原因や治療法が違ってくるので、正適した治療を受けられるようにきちんと理解しておきましょう。
陰嚢水腫とは、精巣、精巣の血管および精管をおおっている袋(鞘膜)に液体がたまり、陰嚢がふくらんだり、左右に違いが出たりする状態です。特徴的な症状として陰嚢、陰嚢上部や鼠径部の腫れが現れますします。
あらゆる年齢でみられますが、小児とくに生まれたばかりの男児に比較的高頻度で発症する病気です。大人の陰嚢水腫の多くは40歳以降に発症しやすいといわれています。
陰嚢水腫の原因は赤ちゃんに多く見られる病気ですが、おもな原因は胎児期に精巣が作られる過程の異常です。
精巣を包む膜はお腹の臓器を包む腹膜の一部が足の付け根から飛び出すようにして作られます。正常であれば、精巣を包む膜と腹膜は分かれるため、つながりが生じることはありません。
しかし、生まれたばかりの頃は体の作りが未熟なため、精巣を包む膜と腹膜が完全の閉じ切っておらず、お腹の中の水が陰嚢に流れて溜まることがあるのです。
ほとんどは一歳頃までに完全に閉じ切るため自然に治りますが、隙間が大きな場合は自然に治ることはなく手術が必要になることもあります。
大人で見られる陰嚢水腫は原因がはっきりわからないことが多いですが、なかには精巣がんなどの重篤な病気が隠れていることがあるので、痛みなどの症状がない場合もできるだけ早く病院を受診するようにしましょう。
陰嚢水腫には、非交通性と交通性の2種類があります。
鞘膜が閉じた後、水分が体に吸収されなかったことによっておこる病態で、大人に見られます。 水の生成と吸収の平衡が崩れることで発症し、水腫の大きさも変動します。陰嚢に残った水分は、1年以内に体内に吸収されることが一般的です。
漿膜からの浸出液が水腫の原因なので、手術法では大きくなっている鞘膜の切除が必要です。陰嚢を水腫の大きさによって3~5cm切開し、そこから精巣を包む水腫を切開して、内容液を排出します。
水腫壁は切除し反転縫合し、内容液がたまらないようにします。非常に大きい水腫があるときなど浸出液が大量に出ること予想される場合は、廃液するために細い管(ドレーン)を留置することもあります。
睾丸の周囲の鞘膜が完全に閉じていないことでおこる病態で、幼児に多く見られます。 立位時または腹内圧上昇時には腹水で満たされ、横臥時に空になります。不完全な閉塞が、水分が入る原因になります。
手術は、腹腔内と交通している管を切断し、漿膜腔への腹水の流入を防ぐことを目的とします。鼠径部を3~4cm切開し、鼠径管(おなかの中から陰嚢内に通じている血管、精管、漿膜が通る道)を切開し、水腫と交通している鞘状突起を切断し、腹水の水腫への流入を止めます。交通性の陰嚢水腫では水腫壁の切除、摘出は行いません。
切開した部位は抜糸する必要のない縫合を行い、術後の消毒も不要です。
まれではありますが、術後、切開して部位に感染が起こる可能性があります。この場合は抗生物質の投与を行い、膿んでしまった場合は傷を開いて膿を排出するなどの対策がとられます。
陰嚢内血腫が生じた場合は再手術を必要とすることがあります。また精巣が委縮する危険性も皆無ではありません。必要に応じて不妊治療を行う場合もあります。
陰嚢水腫はライトなどで陰嚢に光を当てると透けて赤く見える特徴があるため、陰嚢の腫れやライトによる透けなどから容易に陰嚢水腫の可能性を疑うことは可能ですが、診断のためには陰嚢内に腸管や脂肪などが存在しないか確認するために超音波検査を行います。
また、大人の陰嚢水腫は上述した通り、精巣がんなどの病気が背景にあるケースも珍しくないため、CTやMRIなどの画像検査や腫瘍マーカーの有無を調べるための血液検査などを行うことがあります。
陰嚢水腫の治療は、大人と子供で進め方が違ってきます。
大人の場合は針吸引を行うこともあります。
針吸引は施術が容易で短時間で済むというメリットがありますが、効果は一時的であり、再度水分が溜まってしまうリスクが高いと考えられています。
陰毛水腫を根本的に治癒するためには手術が必要です。
手術では、通常は腰椎麻酔下で液体のたまった鞘膜を切除しますので、3~5日の入院期間が必要になることが一般的です。
子供の場合では、2〜3歳までは自然治癒する傾向があるので経過観察します。
この時期に発症した小児の多くは、成長とともに腹膜鞘状突起のつけ根が閉じて腹腔内との交通がなくなり陰嚢水腫は消失します。
ただし、鼠径ヘルニアがある場合は早期の手術が望ましいとされます。
これは落ち込んだ腸がお腹に戻らないと、痛みに加え、腸閉塞を起こす危険性があるためです。
3〜4歳以降では、大きくなって本人が気にしたり歩きづらいと感じてる様子がみられる場合に手術が検討されます。
手術は全身麻酔下で、大人と同様に鞘膜を切除しますが、交通性(下記で詳しく解説)のことが多いので陰嚢ではなく鼠径部に横約2cmを切開します。
陰嚢水腫は再発することがあります。
小児の場合は、適切な治療を行えば再発しないことが多いです。一方、大人の場合は非行通性・交通性ともに再発することが多々あります。
再発は、精巣上体炎などの炎症性疾患や外傷、心不全や腎不全など体内に水分が過剰に溜まりやすい病気などを罹患した時に引き起こしやすいとされています。
幼児の陰嚢水腫は、成長とともに自然消滅することがあるため経過観察が一般的です。ただし、鼠径ヘルニアと一緒に起こっている場合は、早期に手術が必要になる場合があります。陰嚢部分が大きくなっていると感じたときは、必ず病院を受診し、適切な治療を受けるようにしましょう。