記事監修医師
日本赤十字社医療センター、歯科・口腔外科
川俣 綾 先生
2018/2/1
記事監修医師
日本赤十字社医療センター、歯科・口腔外科
川俣 綾 先生
インプラントとは歯茎(歯槽骨)に人工歯根を埋め込む歯科治療です。歯根が人工物になってしまうため抵抗力が低くなり、インプラント周囲炎を引き起こしやすくなります。この記事ではインプラント周囲炎とその予防法について詳しく解説していきます。
「インプラント」とは体の中に埋め込まれる人工物のことで、歯科では歯を失った場合の治療法のことをいいます。顎の骨(歯槽骨)にチタン製のインプラント(人工歯根)を埋め込み、その上に人工歯を装着する義歯治療です。ブリッジのように残っている歯を削らずに歯を作ることができるので、他の歯に悪い影響を与えないといったメリットあります。また、入れ歯などに比べると審美性が高く、天然の歯と同じような噛み心地や自然な見た目や美しさを取り戻せます。
ただし外科的手術が必要で治療期間が長く、定期的なメンテナンスが必要、保険適用外で費用が高い、失敗する可能性がないわけではないといったデメリットもあります。
インプラント失敗でもっとも多いのが、細菌感染による「インプラント周囲炎」の発症です。インプラントの歯周病ともよべるもので、プラーク(歯垢)や歯石の中の細菌が原因となって腫れや出血など歯肉(歯ぐき)に炎症を起こします。放置すると炎症は歯槽骨までおよび、さらに歯肉が傷んで歯周ポケットが深くなり、最終的には歯槽骨がなくなってインプラントが抜け落ちてしまいます。
また、インプラントには歯根膜など栄養血管が周囲にないため抵抗力が弱く、急速に炎症が広がり重症化しやすいという特徴があります。原因となる口の中の汚れは歯磨きだけでは除去できないため、定期的な歯科医院でのメンテナンスが必要です。
歯肉炎と似た症状の初期段階であれば、痛みなどもなく適切なプラークコントロールで改善することが大半です。しかし、炎症が歯の周りの組織にまで広がりインプラントに汚れがつくようになると表面をきれいにする施術が必要となります。さらに進行し歯槽骨が壊れ溶け始めると、切開して汚れを除去したり歯周ポケットを切除するなど外科的な処置も必要になります。
そして、歯槽骨の破壊が著しい場合には骨量を増やしたり、歯肉の痩せや下がりが著しい場合には歯肉を増やす治療が必要となる場合もあるのです。初期段階では気づきにくく、気づいた時には重症化している場合が少なくありません。
予防するには、定期的な通院(メンテナンス)だけでなく、毎日のケアが大切です。まず必要なのは、正しいブラッシング法を習得して日頃から効果的なプラークコントロールを心がけることです。定期メンテナンスの際に指導を受けて磨き残しなどがないようにし、特にインプラントの接合部(継ぎ目)は汚れがたまりやすいので注意が必要です。歯間ブラシやフロスを使って歯のすき間までしっかりと磨きましょう。また、歯周病や糖尿病歴、喫煙、歯並び、歯ぎしりや口呼吸などもインプラント歯周炎のリスク要因です。治せるものは治し、生活習慣を改めることも大切です。
インプラント周囲炎は進行が早く、症状が出てからの治療では遅いといわれています。必ず医師の指示に従った通院による定期メンテナンスを行うとともに、日頃からのホームケアを大切にし、喫煙など生活習慣を改善してリスクを減らしましょう。