記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2018/1/30 記事改定日: 2019/6/3
記事改定回数:1回
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MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
破傷風は、傷口から破傷風菌が感染することで発症する微生物感染症です。筋硬直や麻痺などが起こり、ひどいときには死に至るケースもあります。この記事では、破傷風の症状の種類と経過についてまとめています。万が一のときのために、きちんと理解しておきましょう。
破傷風(はしょうふう)とは、破傷風菌に感染することで起こる感染症です。
3~21日の潜伏期間後に現れる筋肉の硬直と痛みを伴うけいれん症状が特徴で、重症になると呼吸器周辺の筋肉が麻痺して、10~20%の確率で死亡します。
破傷風菌は熱と乾燥に強く、世界中の土壌や、人など動物の体内にも潜伏している常在菌であるため、破傷風菌との接触を断って予防することは不可能です。
破傷風は、潜伏期間や症状が出る程度・部位によって、以下の4種類に分けられます。
破傷風全体のなかでも80%を占め、咀嚼するための筋肉の硬直が始まって開口障害を発症し、その後首や胴体、四肢にまで筋肉の硬直とけいれんが広がっていきます。毒素による自律神経異常が見られたり、合併症による長期入院が必要になるケースがあることも特徴といえるでしょう。
全身性よりも稀な形態の破傷風で、感染源となった傷口に近い部位でのみ、筋肉のけいれんと硬直の症状が起こるのが特徴です。
予防接種を途中でやめたなど破傷風に対して「部分免疫」を持っている人に起こりやすく、全身性よりも程度が軽いですが、全身性破傷風に進行するケースもあるので注意が必要です。
潜伏期間が1~2日と短く、主に中耳炎など耳の感染症によって頭部、または顔面に症状があらわれるものです。
開口障害はありますが、けいれんよりも弛緩性の脳神経麻痺が起こりやすいのが特徴で、こちらも全身性破傷風の形態に移行するケースがあります。
不衛生な環境での出産の際に、破傷風菌に感染した器具でへその緒を切断することで起こる新生児の破傷風で、発症すると60~90%の確率で死に至ります。
潜伏期間は1~2週間ほどで、特に外傷がないのに母乳の吸入力の低下や開口障害、母乳が飲み込めなくなる嚥下困難などの症状が出るのが特徴です。
破傷風菌が出す毒素には、テタノスパスミンという「神経毒」とテタノリジンという「溶血毒」の2種類があり、破傷風によるけいれんは神経毒によるものと考えられています。
以下に、破傷風菌の神経毒による症状の現れ方を、4つの段階ごとにご説明します。
潜伏期があけて発症し、開口障害が出ます。
首筋が張って口があけにくくなるため食事が困難になり、あわせて寝汗、歯ぎしりなどの症状が現れます。
開口障害がどんどん強くなり、顔の神経の緊張・硬直が起こります。
これによって額にシワが出たり、無意識にひきつり笑いをしたような表情になる破傷風顔貌と呼ばれる症状が現れます。
筋肉の緊張や硬直が首や背中の筋肉にまで至り、発作的な強直性けいれんが起こります。
最も命の危険が大きい時期とされ、このときには腱反射の亢進や病的な脊髄反射などの症状も現れます。
けいれんが収まり、筋肉の硬直や腱反射の亢進などが残った状態となります。
いわゆる山を越えたような状態で、ここまでくると諸症状は徐々に改善していきます。
破傷風を確実に予防するには、ワクチン接種を受けることが大切です。
破傷風菌は東南アジアなどの海外だけでなく、日本にも広く生息している菌です。主に土壌や金属の錆の中に存在しており、傷口などはそれらの土壌に汚染されたり、錆びた刃物で皮膚を切ったことなどによって感染します。また、犬や猫などの動物に噛まれることによって感染することも報告されています。
このため、日本にいてもガーデニングやハイキングなどの機会に感染することは多々あり、海外渡航歴がないからといって油断することはできないのです。
現在、破傷風のワクチンは乳児期の定期接種に指定されている四種混合ワクチンに含まれていますが、その効果は10年ほどといわれており、成人になると免疫がなくなる人もいます。
また、昭和43年以前に生まれた人は破傷風ワクチンが定期接種となっていなかった世代のため、破傷風菌に感染すると発症する危険が高くなります。
破傷風菌に感染するリスクが高い仕事や趣味をしている人は10年ごとのワクチン接種を受けるようにしましょう。
きちんと予防接種を受けていれば、破傷風に感染するリスクはかなり低いといわれています。しかし、もしものときのために症状の知識を持っておくことは大切です。潜伏期間や症状を理解しておいて、いざというときに備えましょう。