慢性腎不全の治療の目的と治療方法とは!?

2018/2/9 記事改定日: 2020/7/7
記事改定回数:2回

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

慢性腎不全とは、長期間に渡り進行していき、腎機能の低下が見られる腎臓疾患です。末期腎不全に進行すると、透析治療が必要になります。この記事では、慢性腎不全の治療方法と治療内容、透析治療の合併症について解説していきます。

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慢性腎不全とは

慢性腎不全は数か月~数年に渡って進行する腎臓の病気であり、腎臓の機能低下をもたらします。糖尿病性腎症や慢性糸球体腎炎、腎硬化症、嚢胞腎などの病気が原因であり、生活習慣病の増加の背景もあるためか、糖尿病性腎症、腎硬化症は発症数が増えているといわれています。

慢性腎不全を発症すると、一度失った腎機能の回復は見込めません。腎機能低下が進むと末期腎不全に進行し、透析治療や腎移植が必要になってしまう場合があります。

腎臓の機能と機能低下が引き起こす体の変化

腎臓は体内の老廃物や余分な水分から尿を作り、体外へ排出する機能を持つ臓器です。
そのため、腎臓の機能が低下すると老廃物や余分な水分が正常に排出されず、体内に溜まった状態となり、次のような症状が現れるようになります。

  • むくみ
  • 体重増加
  • 呼吸困難感、咳(肺に水がたまることによる)
  • 倦怠感
  • 高血圧
  • 皮膚のかゆみ
  • けいれん、意識消失

また、腎臓は老廃物や水分の排泄以外に、赤血球の産生を促すエリスロポエチンと呼ばれるホルモン分泌やカルシウムの吸収を促すビタミンDを活性化させる作用を持ちます。長期的に腎臓の機能が低下すると、これらの働きが低下することによる貧血や骨粗しょう症などの症状も目立つようになります。

慢性腎不全の治療の目的とは?

慢性腎不全を発症した場合、残念ながら腎機能の著明な改善を期待することはできません。むしろ、適切な治療や管理を続けなければ、腎機能が更に悪くなり、人工透析や腎移植が必要になるケースも少なくありません。

このため、慢性腎不全の治療目的は、「悪化した腎機能を維持し、さらなる悪化を防ぐこと」となります。

また、慢性腎不全患者は免疫力が低下していることが多く、感染症などにかかりやすいです。さらに、高脂血症や動脈硬化などを合併して心筋梗塞や脳卒中などの重篤な病気を併発することもあります。

慢性腎不全では、このような生命に危険を及ぼす合併症を生じやすいため、合併症をいかに予防するかも治療の重要な目標となります。

慢性腎不全の薬物療法と食事療法

慢性腎不全では腎機能を維持するために薬物療法と食事療法が行われますが、それぞれ以下のような治療が行われます。

薬物療法

慢性腎不全では、腎機能の更なる悪化を防ぐために、腎臓に負担をかける高血圧やむくみに対する薬物療法が主体となって行われます。

高血圧に対しての薬物療法

高血圧に対しては降圧薬が用いられますが、腎臓の保護作用のあるACE阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬を選択することが一般的です。

むくみに対しての薬物療法

むくみに対しては利尿薬を使用することもありますが、まずは塩分や水分制限を行ってむくみの改善を目指し、効果が得られない場合にのみ利尿薬を使用します。

腎不全が進行したときの薬物療法

腎不全が進行すると、骨へのカルシウム吸収を補助するビタミンDや造血ホルモンであるエリスロポエチンの産生が低下するため、これらを薬で補う必要があります。
一方で、腎機能が低下することでカリウムやリンなどの電解質が体内に過剰蓄積することもあり、そのような場合には電解質を吸着する薬剤が投与されることもあります。

食事療法

慢性腎不全では、腎臓に過度な負担をかけないよう十分な食事管理が必要となり、管理の程度は腎不全の病状によって異なります。

軽度の場合
25~35kcal/kg/日の十分なエネルギーを確保した上で塩分を6g/日以下にすることが推奨される
中等度以上の腎不全
エネルギーの確保や塩分制限の他にたんぱく質やカリウムを制限する必要が生じる。たんぱく質は0.6~1.0g/kg/日以下、カリウムは1500~2000mg/日以下に抑える

それぞれの病状に応じて制限の量は変わってくるため、栄養士や医師の指導を受けながら、自身に合った適切な食事療法を続けていく必要があります。

末期腎不全の透析治療

日本腎臓学会によると、年間で約3万8000人の人が末期腎不全に陥り、透析療法を受けているといわれています。
透析療法は、腎臓の働きを補う腎代替療法と呼ばれる治療です。
透析療法には血液透析と腹膜透析があります。

血液透析

血液透析とは、透析装置を使って血液中の老廃物や不要な水分を排泄し、清浄化した血液を体内に戻していく治療法です。

基本的には1週間に2~3回の通院が必要ですが、家族のサポートが受けられる環境が整っている場合には、在宅で受けることができます。

腹膜透析

腹膜透析とは、お腹の内部に一定時間透析液を入れおき、腹膜の血管を介して老廃物を排泄させる治療法です。1日に4~5回ほど透析液を交換しなければいけませんが、血液透析に比べて通院回数を減らすことができます。

透析治療によって起こり得る合併症とその原因・予防

透析治療で体内の老廃物や毒素を排出することはできますが、透析で腎臓の機能全てを代替できるわけではありません。長期間透析を続けていると様々な合併症が起こる可能性がでてきます。

合併症は、心臓や血管に関わるもの、骨や関節に関わるもの、感染症によるもの3つに大分されます。

心臓や血管に関わる合併症

心臓や血管に関わる合併症として、高血圧や動脈硬化、貧血などが挙げられます。
腎臓の機能が低下すると、尿として排出していた水分や塩分が身体に溜まり、高血圧になりやすくなります。
また、高血圧が続けば動脈硬化のリスクも上昇し、心臓への負担が増えるため心臓病などのリスクが上昇します。

そして透析治療でリンやカルシウムなどのバランスが崩れると、血管の石灰化が起こって動脈硬化が進みやすくなります。動脈硬化が進むと、脳梗塞などを発症するリスクが高まります
水分と塩分の制限と降圧薬などでの血圧コントロールで、予防や治療が行われます。

骨や関節に関わる合併症

骨や関節に関わる合併症は、腎臓で生成される活性型ビタミンDの量が減ることやカルシウムやリンの代謝異常で起こります。
活性型ビタミンDの不足は、血中のカルシウム不足をもたらします。また腎臓はリンを尿で排出する機能がありますが、機能低下によってリンが溜まりやすくなります。

血液中のリンが過剰に増えると、腸でのカルシウム吸収量が減少し、さらに血中カルシウム濃度が下がってしまいます。するとカルシウム濃度を上げようとして副甲状腺ホルモンが分泌されますが、このとき骨を溶かしてカルシウムを得ようとするため、骨がもろくなってしまうのです。

予防には、リンの吸収を抑える薬剤などが使われます。また食事療法で、リンの摂取を制限します。

感染症による合併症

腎不全による免疫力の低下で、様々な感染症にかかりやすくなります。手洗いやうがいの徹底、マスクの着用、バランスの良い食事などを徹底し、感染症の予防に努める必要があります。

おわりに:腎不全の治療は早期発見・早期治療が重要!透析治療にならないように気をつけよう!

慢性腎不全は、悪化すれば透析治療が必要となり、生活にも大きく影響が出てしまいます。慢性腎不全を未然に防ぐためには健康的な生活習慣を送ることが大切です。日頃の生活を見直し、定期的に検査して腎疾患の早期発見に努めましょう。

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