記事監修医師
東京大学医学部卒 医学博士
低身長や生殖機能の異常などをもたらす病気に「偽性副甲状腺機能低下症」があります。子供の発症率が高いとされますが、いったいどんな病気なのでしょうか。
この記事では、偽性副甲状腺機能低下症の症状と治療法などを解説していきます。
首の中にある甲状腺の裏側には、血液中のカルシウム濃度を適度に調整する「副甲状腺」があります。血中カルシウム濃度が下がると、副甲状腺から「副甲状腺ホルモン」が分泌され、それが骨や腎臓に作用することで血中カルシウム濃度が上昇し、適正な値に近づいていきます。
副甲状腺に何らかの異常が発生して副甲状腺ホルモンが出にくくなると「(真性)副甲状腺機能低下症」を発症します。副甲状腺機能低下症になると、血中のカルシウム不足により筋肉がけいれんしたり、顔が引きつったり、情緒が不安定になってイライラするなどの精神症状を伴うこともあります。
一方で、副甲状腺ホルモンは正常に分泌されているものの、ホルモンを受け取る骨や腎臓の側(受容体)に異常があることで本来の効能が発揮されず、結果的に血中カルシウム不足の症状が生じることもあります。
この状態を「偽性副甲状腺機能低下症」と呼びます。
偽性副甲状腺機能低下症は、遺伝子の先天的な異常が原因で起こるとされ、子供に多くみられます。特にIa型というタイプの患者の体内では、副甲状腺ホルモン受容体や細胞内の神経伝達をつかさどる「Gsαタンパク」が、遺伝的原因でほとんど作用していないことが明らかになっています。
偽性副甲状腺機能低下症には次のように様々な症状が現れます。
偽性副甲状腺機能低下症では血中のカルシウム濃度が低下します。カルシウムは神経の伝達や筋肉の収縮を調整する働きを担っているため、カルシウムが不足することで神経や筋肉が過度に刺激するためにけいれんやしびれなどが引き起こされるのです。
また、その他にも骨の生成に異常が生じたり、全身の新陳代謝を促す甲状腺ホルモンの分泌が低下することもあるため上記のような症状が引き起こされることもあります。
偽性副甲状腺機能低下症の治療は、低カルシウム血症の改善が第一です。カルシウムはもともと人体への吸収率が低いため、吸収を促すためにビタミンDを多く摂る必要があります。
治療で処方される活性型ビタミンD製剤を服用して低カルシウム血症を改善することで、偽性副甲状腺機能低下症の症状の多くは軽くできると考えられています。
偽性副甲状腺機能低下症にかかっていたとしても、ビタミンDを充分に摂取できていれば、自覚症状も軽くなり、やがて通常の生活を送れるようになっていきます。医師が決めた分量のビタミンD製剤を欠かさず服薬することが大切ですので、自己判断で量を減らしたり、服薬をやめたりしないようにしましょう。
症状が重いときにはカルシウム製剤の注射や内服薬なども併せて処方されます。もし、骨や指の長さに異常があり、身体の外観や日常生活などに支障が出ている場合には、整形外科・形成外科による手術も検討する必要があります。
偽性副甲状腺機能低下症の治療には低カルシウム血症を改善するためのカルシウム製剤やビタミンD製剤が使用されます。これらの薬剤は、市販のサプリメントに含まれるカルシウムやビタミンDとは構造などが異なります。
そのため、むやみにサプリメントを使用すると、薬物療法の効果が下がる可能性や血中のカルシウム濃度が正常値を越えて高くなる可能性があります。
サプリメントの使用を希望するときは、自己判断で開始せず必ず医師に相談するようにしましょう。
偽性副甲状腺機能低下症は遺伝的な要素が原因であり、根治は難しい病気ですが、ビタミンD製剤を正しく服用をすれば、ハンディを最小限に抑えた日常生活を送ることができます。大変なこともあるかもしれませんが、医師の指示を守り、あせらず治療を続けていきましょう。