記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2018/3/27
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
短期間のうちに肝不全まで進行してしまう「劇症肝炎」の治療では、肝移植手術が検討されることがあります。今回はその肝移植の種類やリスクなどについて詳しく解説します。
肝移植手術では、機能する肝臓を必要とする人(レシピエント)と、肝臓を提供する人(ドナー)の両者の間で肝臓のやり取りを行います。ここで言う肝移植とは、繊維化などが進行し機能不全の状態になったレシピエントの肝臓を全摘出し、ドナーから新たに定着させる手術のことです。
新たな肝臓が正常に滞りなく機能するように、流入する門脈と肝動脈、流出する肝静脈をつなぐ血管再建を行い手術は終了します。手術時間は15〜20時間程度です。
肝移植手術は腹部消化管手術の中では最も難易度の高い手術で、大量の出血量と正確な血管再建なくしては成功しません。大量の輸血を回避するために体外バイパスを利用して手術が行われることもあります。
肝移植手術はドナーによって、脳死肝移植と生体肝移植の2つに大別されます。両者の決定的な違いは肝臓のサイズの違いにあります。脳死肝移植では肝臓が全てレシピエントに移植されますが、生体肝移植では肝臓の右側もしくは左側を受けることになるのです。
生体肝移植ではドナーの肝機能の低下を防ぎながら手術を展開するので、肝臓が体外に取り出されている時間が短く新鮮なため、成功率が若干高くなります。しかし移植する側の肝機能維持のため、移植できる臓器のサイズには制限が伴います。状況によっては手術断念の可能性もあるのです。
これに対して脳死肝移植ではこのような制限はありませんが、ドナーに遭遇できる機会は限られるというデメリットがあります。
肝炎のなかには急激に幹細胞の破壊が進行し、短期間のうちに肝不全にまで悪化するタイプが存在します。これが劇症肝炎と呼ばれるものです。肝臓には再生機能があるものの、再生には数ヶ月を要するため、劇症肝炎を発症し内科的治療が奏功しない場合には、肝移植が唯一の救命治療になります。
劇症肝炎で血液透析や血漿交換などの内科的治療の結果も芳しくない場合、脳浮腫や大量出血による死亡のリスクが急激に高まることから、劇症肝炎の治療法のひとつ、肝移植について実施するか否かを短時間での決断を迫られることになります。脳死肝移植が困難な現状では、家族がドナーとなって生体肝移植するという選択肢が比較的有力ですが、肝移植はドナーに大きな負担を伴うものなので、肝移植について正しく理解したうえで判断を行う姿勢が求められます。
劇症肝炎の治療法のひとつ、肝移植について最も問題になるのは死亡のリスクが皆無ではない点です。脳死肝移植が一般化していない日本では生体肝移植が主流になっていますが、失血死や肝不全などのリスクはゼロではありません。
また劇症肝炎の治療法のひとつ、肝移植については合併症のリスクも懸念されます。手術後短時間で現れる合併症には胆汁漏や縫合不全、輸血による血清肝炎や敗血症などがあります。いずれも生命に関わる可能性のあるものなので、厳重な体調管理下で回復をはかる必要があります。
さらに、生体肝移植自体が長時間の休養を必要とする手術であり、ドナーが退院後社会復帰するまでに最低2〜3ヶ月はかかります。
劇症肝炎の治療法のひとつである肝移植。その有効性は明らかですが、ドナーに与える肉体的リスクは十分考慮しなければならないものです。短時間での意思決定が必要とされるため、前もって医師や家族と方針を決めておくことが非常に大切です。