記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2018/7/17
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
がん患者さんの約8割は体重が減少するといわれています。そこで今回は、がんで痩せてしまう原因や対処法についてご紹介します。がん治療の基礎知識として覚えておきましょう。
がんになって痩せる原因には、主に以下の2つが挙げられます。
口の中や食道、また胃などにがんが見つかった場合には、がんによって食べ物の通り道が塞がれることで食べ物をとりづらくなります。また、がんによる痛みやがん診断時のショックなどから精神的にダメージを受け、食事が上手くとれない場合もあります。
このような食欲不振は、がん患者さんにみられる栄養失調の原因のうち、最も高い割合を占めているといわれています。そのうえ、手術で口や喉、食道や大腸などのがんを切除すると、身体の一部を切って繋ぎなおす方法がとられるために食事が進まない場合もあります。さらに手術によって胃が小さくなる、大腸などが短くなることなどによって、食事の量そのものが少なくなる可能性も考えられます。
がんが進行していくにつれて、体重減少や筋力低下、倦怠感などの症状がみられる「悪液質」という状態になることが知られています。これは食事をしている、していないに関係なく起こる可能性があるとされ、身体に必要な栄養をがん細胞が吸収し、身体の機能が弱くなっていくことで起こると考えられています。
がんの炎症で使われるエネルギーを補うために脂肪の分解が行われたり、がんの影響で筋肉を構成しているタンパク質が分解されてがん細胞の栄養に使われることで痩せていくだけでなく、がん悪液質の原因物質が脳神経に作用することで、抑うつ状態を引き起こすことなどもわかってきています。
悪液質は慢性腎不全、後天性免疫不全症候群などさまざまな病気でみられますが、特にがんで死亡する人に多くみられる症状であるとされ、約3割の患者さんが悪液質によって死亡しているともいわれています。
がんの治療中は栄養価の高い食事をとることで、身体が感染症と闘う体力を維持することにもつながります。また高タンパク・高カロリーの食事など、自分に合った食生活を心がけることで治療による副作用などを軽減できるかもしれません。
またがん悪液質である場合には、主に栄養療法が重点的に行われるといわれています。がん悪液質は、主に以下の「前悪液質」「悪液質」「不可逆的悪液質」という3段階にわけられ、栄養補給の方法が違ってきます。
前悪液質の場合、症状を悪化させないためのモニタリングや栄養療法などが行われるといわれています。できるだけ口から栄養補助食品などで栄養を摂るようにし、足りない場合には胃や腸などから栄養を直接とり入れることが推奨されています。ただし、食道がんなどで口から食べ物をとれない場合などには、点滴で栄養を補給することがあります。
悪液質の場合には、その重症度に応じて対応する必要があります。体重の変化や筋肉量、身体の機能や精神状態などを総合的に評価し、口からの栄養補給、胃や腸などからの栄養補給が行われます。
ただし、上記の方法で補給できないと判断された場合は、点滴による栄養補給が行われることもあります。
また、この段階での点滴による栄養補給は、腹水やせん妄、倦怠感などがみられる場合があるため、注意が必要です。
さらに症状が悪化すると、栄養投与には反応しない状態といわれています。栄養補給を行っても、場合によっては症状を悪化させる可能性もある状態です。そのため、緩和ケアが必要となり、精神面のサポートを主に行うようになるといわれています。
また、生命予後が1ヶ月程度で口からの水分補給が可能である場合でも、余命の延長を目的として点滴による栄養補給は行わないことが推奨されています。また生命予後1~2週間程度の終末期の患者さんに対しても、同じような対応が求められるといわれています。
がんになると、さまざまな理由で思うように食事がとれなくなるかもしれません。しかし、できる限り身体の栄養になる食事などを心がけ、体力保持をすることが必要です。医師との相談のもと、自分の状態にあった方法で栄養補給を行いましょう。