記事監修医師
前田 裕斗 先生
2018/7/20
記事監修医師
前田 裕斗 先生
「乳がんは骨転移しやすい」という話がありますが、これは本当なのでしょうか?この記事では、転移後の症状や治療法について解説していきます。正しい知識を身につけて、予防や早期発見に役立てましょう。
乳がん患者の約30%は、最初に転移するときに骨に転移するといわれています。乳がん細胞が血液を介して骨に移り分裂・増殖し、術後10年以上経過して転移することもあります。
転移しやすい部位は、腰椎・胸椎・頚椎・椎骨・背骨・骨盤・肋骨・頭蓋骨・上腕骨・大腿骨などです。なお、乳がんの場合は肘から先の腕や手、膝から下の脚や足の骨への転移はあまり見られません。また、骨に転移した場合でも「骨のがん」ではないため、「乳がん」の治療を行います。
骨に転移しても骨自体が痛むわけではなく、骨の周囲に腫瘍が拡大して骨膜や神経に影響が及ぶことにより痛みが生じます。ただし、人によっては痛みを感じないこともあります。
骨が溶けて骨皮質が薄くなると、しだいに体重や筋収縮の負荷に耐えられなくなり、骨折することがあります(病的骨折)。
骨の周囲にある神経は重要な役割を担っているものが多いため、それらが転移により障害されるとその場所に関係した神経障害が起こることがあります。
中でも、脊椎(背骨のこと。頚椎7個、胸椎12個、腰椎5個、仙骨からなっている)が障害されると、その中を走っている脊髄が損傷を受け、下股の麻痺などの神経障害が起こる恐れがあるため、注意する必要があります。
手足が動かしにくいなどの自覚症状がある場合は、早急に担当の医師に相談しましょう。
通常の状態の骨では、骨の溶ける作用と形成する作用がバランスよく行われていますが、骨転移の患者の場合は骨の溶ける作用が強まり、血中のカルシウム濃度が上がります。それにより、意識障害や口の渇きなどの症状が起こることがあります。
骨に転移すること自体が余命短縮に直結することはありませんが、強い痛みや骨折によりQOL(生活の質)が大幅に低下することがあります。
このQOLの低下を防ぐためには、肺や脳などへの転移を防ぐ治療と並行して、骨転移に対する治療を行うことが重要です。「骨転移=末期」というわけではないため、なるべく前向きに治療に臨むようにしましょう。また、定期的に検査を受けて骨の状態を確認することも大切です。
抗がん剤治療、分子標的治療、ホルモン療法などを行うのが一般的です。
X線(レントゲン)やMRIにて骨への転移があると診断された場合は、骨折や疼痛の頻度を減らす効果のある、ゾレドロン酸(商品名:ゾメタ®)の点滴やデノスマブ(商品名:ランマーク®)の皮下注射による治療を行うことがあります。
骨転移による痛みが強い場合や、痛みの範囲が狭い場合は、痛みを緩和したりなくす目的で放射線療法が行われることがあります。
また、体重による影響を受ける部位(大腿骨頚部、腰椎、胸椎、骨盤など)に溶骨性転移がある場合にも、骨折の頻度を下げる目的で放射線療法が行われます。
大腿骨頚部や大腿骨の中央部に転移している場合は、骨折を予防する目的で人工骨頭置換術や髄内釘を打ち込む手術などが行われることがあります。
頚椎や胸椎に転移が認められる場合は、圧迫骨折を予防する目的で人工セメントの注入が行われることがあります。
乳がん患者の約30%は、最初に転移するときに骨に転移するとされており、術後10年以上経過して転移することもあります。
骨転移は余命に直接影響するものではないものの、痛みが生じたり、骨折してQOLが著しく低下してしまう可能性があります。早期発見・治療のために、定期的に検査を受けて骨の状態を確認することが大切です。