記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2018/7/31 記事改定日: 2020/8/28
記事改定回数:1回
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
テニス肘は、手首や肘に負荷がかかったときに、肘の外側に強い痛みを感じる疾患です。テニスをする方以外にも年齢を重ねた方で多く、一度なってしまうとなかなか治りにくいといわれています。テニス肘の治療法や筋力トレーニングを紹介しますので、症状改善と再発予防の参考にしてください。
テニス肘のうち1割は、保存療法では治療できない「難治性テニス肘」と呼ばれます。保存療法を始めて6ヶ月〜1年以上経過しても治らない場合、肘の炎症が慢性化した場合に手術療法が適用となります。
テニス肘の9割は、6ヶ月〜1年以内に症状の改善、治癒が目指せます。
治療法は保存療法と呼ばれ、患部を安静にしたり、運動療法でもともとの筋力を強化したり、物理療法で血行を良くしたり、というように疾患部位の切除や切開を伴わない治療が行われます。
保存療法には、以下のような種類があります。
このうち、根本的な治療法としてメインに行うべきなのは運動療法です。テニス肘が中高年の方に発症しやすいのは、年齢を重ねることで患部に同じ負荷をかけ続けていることの他、加齢によって筋力が衰えていること、筋肉と骨を繋ぐ腱が固く切れやすくなっていることが原因として考えられます。
ストレッチや温熱療法で固くなった筋肉や腱をほぐし、衰えた筋力を鍛えて取り戻すことが、テニス肘の治療にとって非常に大切です。
テニス肘を発症した場合、まずは患部の安静をはかり、ストレッチと筋力トレーニングへと進みます。
テニス肘の生じている部分は肘の筋肉の最も太い部分ですから、該当部分に専用のバンド(テニスエルボーバンド)を巻き、筋肉の動きを抑えます。このとき、手首のサポーターも同時に使うとより効果的です。
少し症状が落ち着いてきたら、ストレッチと筋力強化の運動療法を行います。ストレッチでは、肘だけでなく肩から手首や指の関節まで、腕全体の筋肉をしっかりと伸ばしましょう。
痛みがなくなってきたら、筋力トレーニングが有効です。1kgのダンベルや水を入れたペットボトルなどの軽めの負荷を使い、手首から肘の筋肉の屈伸を行って、加齢とともに低下した筋力を取り戻しましょう。
ストレッチや運動療法と併用し、温熱療法や薬物療法が使われることがあります。
物理療法とは理学療法とも呼ばれ、温熱療法とマイクロ波の二種類があります。
名前に温熱とある通り、入浴などで患部を温めて血行促進をはかり、自然治癒力を高める方法です。
一般家庭で普及している電子レンジと同程度のごく短い電磁波を患部組織に流し、代謝を高めて血行を促進します。
症状が特に重い場合に、一時的に薬物療法が使用されます。湿布や内服薬で鎮痛・消炎を行う場合と、症状が深刻な場合に行われる局所麻酔やステロイド注射があります。
局所麻酔は痛みの強いポイントにのみ注射して痛みを抑えるもので、ステロイド注射は患部に注射して炎症を抑え、症状を緩和する療法です。ステロイド注射は繰り返し投与すると組織を弱くしてしまうため、多くても2〜3回程度とされています。
近年、PRP療法という血液内の血小板のみを抽出し、組織の再生を促す再生医療が注目されています。血小板とは、かさぶたを作るだけでなくその下で新しい皮膚の産生にも関わっている成分です。本人の血液を使うため拒絶反応の心配がなく、安全性の高い再生医療です。
しかし、テニス肘でのPRP療法の治療例や既存療法との比較試験はまだ少なく、既存の保存療法や手術療法と比べて有用であるという結果は出ていません。PRP療法を行うためには今後、臨床試験や研究を行い、治療の有効性を確立する必要があります。
テニス肘は、患部に同じ負荷を与え続けることで発生する疾患です。特に、テニスなどのスポーツを行っているのであれば、間違ったフォームのまま運動を続けていると再発しやすいので注意しましょう。
テニス肘が治りにくい人の一部に、テニスエルボーバンドの巻き方が間違っている人がいます。肘を伸ばした状態でバンドを装着してしまうと、肘を曲げたときに筋肉が細くなってゆるんでしまい、筋肉の動きを抑える働きをしないのです。テニスエルボーバンドは、必ずひじを曲げた状態で装着しましょう。
また、スポーツでなくても普段から仕事や家事などのルーティンワークで同じ筋肉ばかり使うことが多い方も再発しやすいため、注意が必要です。
テニス肘はスポーツが原因で発症することが多いですが、次のような動作などもテニス肘の原因になります。
また、テニス肘は若い人よりも筋力が低下する中年以降に発症することが多いとされています。とくに女性の方が発症しやすいとされていますので、日ごろ腕や手首を良く使う仕事や家事などをしている人は注意が必要です。
まずは、保存療法の項目でもご紹介したとおり、ストレッチと筋力トレーニングを普段から心がけましょう。テニス肘の症状である痛みが治まった後も、運動前後や合間にストレッチを行うこと、毎日の筋力トレーニングは非常に重要です。筋肉や腱を正しく鍛え、強度を上げて断裂や炎症の起こらない筋肉を作りましょう。
テニス肘は治らない疾患ではありません。特に、9割の方は6ヶ月〜1年以内に、ストレッチや筋力トレーニングといった治療法で治すことができます。しかし、完治後に筋力の衰えや腱の固まりによって再発する可能性があります。普段からストレッチや筋力トレーニングを欠かさないようにしましょう。