記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2018/7/27
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
脳性麻痺は、何らかの理由で脳が損傷を受けることにより、運動を司る部位がうまく神経信号を出せないことで起こる運動機能の障害です。脳性麻痺が起こる原因はさまざまですが、起こる時期もまた、妊娠中だけとは限りません。
この記事で脳性麻痺の原因について紹介していくので、予防に役立ててください。
脳性麻痺とは、母体内にいる間から出生後1ヶ月ごろまでの間に何らかの原因で脳を損傷してしまい、手や足の運動や姿勢に異常が起こる障害です。脳性麻痺の赤ちゃんは「おすわり」や「ハイハイ」、つかまり立ちなどが遅れたり、能力を獲得できなかったりと、運動や姿勢に関する発達で特徴的な異常が見られます。
また、脳の損傷が運動機能を司る部分以外にも及ぶと、知的発達の遅れや言語障害、てんかん、視覚や聴覚などの障害を伴うこともあります。しかし、脳性麻痺であれば必ず知的障害を伴うわけではなく、脳のどの部位が損傷を受けたかによって変わります。また、損傷を受けた部位によって、脳性麻痺そのものの型も変わってきます。
脳性麻痺は、よく似た名前の小児麻痺とは別の病気です。
小児麻痺はウイルスによって起こり、麻痺が起こるのは感染者のうち約0.1〜0.5%程度ですが、放っておくと進行してやがては全身に至る麻痺が現れることがあります。脳性麻痺は一度損傷を受けると、放っておいても治ることはありませんが、それ以上脳の該当部位の損傷が進行することもありません。
全出生児のうち、1000人に2人の割合で現れます。また、近年の医療技術の進歩から、未熟児や低体重児であっても出産・生存が可能になったことで、これまで死産や出生後早期に亡くなっていた小児も脳性麻痺として生存することができるようになり、未熟児や低体重児での脳性麻痺は増加傾向にあります。
成熟・未熟別に脳性麻痺の発生率を見ると、成熟児では従来の1000人に2人の割合で脳性麻痺児が現れています。ところが、未熟児(22〜27週で出生した児)では1000人に15人と、成熟児と比較して割合が非常に増加します。また、未熟児のうちでも特に極低体重児で脳性麻痺の発症が多い傾向があります。
脳性麻痺の起こる原因は、主に核黄疸・酸素欠乏・脳内出血または血流不足の3つが挙げられます。
胎児は、胎内の低酸素状態に耐えうるために血液中の赤血球の量が出生後に必要な量よりも多くなっています。このため、出生後はまず不要な赤血球を分解する必要があり、このとき大部分の新生児で生理的黄疸が起こります。この黄疸は通常数日〜1週間程度で消える正常な生理現象で、なんら心配する必要はありません。
しかし、黄疸が2週間以上続く場合は、生理的黄疸の範囲を超えて病的黄疸の可能性があります。黄疸の原因となるビリルビンという物質が中枢神経に沈着したまま放置されると、やがて神経細胞が壊死してしまいます。1週間程度で消える生理的黄疸の場合、ビリルビンが中枢神経系に沈着することはありません。
脳性麻痺の原因である脳の部位の損傷が起こる時期によって、その原因は変わります。妊娠中・周産期・出産後のそれぞれの時期について、詳しく見ていきましょう。
妊娠中に起こりうる脳性麻痺の原因は、以下のとおりです。
染色体の異常は、そもそも卵子や精子の時点での異常がある場合、受精時の異常の場合、などさまざまな原因が考えられますが、原因を特定することはできません。また、両親に染色体異常がなくても発生しうるものであり、これを防ぐことは不可能です。
また、脳の中枢神経が形成される過程で奇形が起こる場合もあります。中枢神経系が作られるのは妊娠4〜7週間とごく早い時期で、「器官形成期」とも呼ばれます。この時期に何らかの理由で神経形成が阻害されると、中枢神経系に奇形が起こり、脳性麻痺の原因となります。
風疹・サイトメガロウイルス・トキソプラズマなど、ウイルス感染による感染症が起こる場合もあります。感染症の原因となるウイルスは、まず母体に感染した後、血液から胎盤を通じて胎児に感染します。まずは母体が感染しないよう十分に予防し、感染したかな?と思ったらすぐに医師に相談しましょう。
周産期とは、妊娠22週〜生後1週間までのことを指します。周産期に起こりうる脳性麻痺の原因は、以下のとおりです。
主原因のうちの2つ、低酸素性虚血性脳症、脳室内出血・脳室周囲白質軟化症がこの時に起こります。低酸素性虚血性脳症とは、血液中に含まれる酸素が少ないことや、血液循環が未熟なことによって血流が少ないことで十分に脳に酸素が行き渡らず、脳に損傷が起こる障害です。また、出産時の呼吸困難などでも起こることがあり、新生児仮死を引き起こす原因にもなります。
脳室周囲白質軟化症によって起こる脳性麻痺は、脳室周囲の白質部と呼ばれる部位に存在する神経経路が障害を受け、運動系の神経経路が絶たれてしまうことで起こります。特に、早産児や低出生体重児では脳の血流を調節する機能が未熟なため、この障害が起こりやすくなります。
また、この時期にも感染症に注意する必要があるのは、サイトメガロウイルスです。サイトメガロウイルスは持続感染または潜伏期間に産道に排出されてしまい、その状態で胎児が産道を通ると感染の危険性があります。サイトメガロウイルスに感染しないよう、十分に注意する必要があります。
生後1ヶ月ごろまでに起こりうる脳性麻痺の原因は、以下のとおりです。
頭部の損傷は物理的な損傷によるものが大きく、強くぶつけるなどして内出血や神経を損傷することがあります。また、てんかんそのものは直接脳性麻痺の原因にはなりにくいですが、てんかんによるけいれん発作を繰り返しているうちに中枢神経を損傷すると、脳性麻痺を起こす場合があります。
脳性麻痺は、周産期と妊娠期間中に起こりやすいことが知られており、周産期で40〜66%、出生前の妊娠中に起きてしまう割合が13〜35%とされています。分類別にお話しした原因を見ても、周産期、すなわち生後1週間までに起こる低酸素性虚血性脳症、脳室内出血・脳室周囲白質軟化症は脳性麻痺の主原因であることがわかります。
この時期に産まれる早産児や低体重児はもちろん、成熟児であっても頭部を物理的に損傷することなどに十分に注意して過ごしましょう。
脳性麻痺が起こると、体が反り返りやすくなったり、手足がこわばって固くなったりします。これにより、新生児では首のすわりや寝返り、おすわりやハイハイなどの姿勢や運動能力に支障をきたします。
脳性麻痺は、損傷部位によって4つの型に分けられます。
脳性麻痺児の約70〜80%は、大脳の運動指令を出す錐体路系を損傷している痙直型です。もともとはアテトーゼ型の多かった脳性麻痺児ですが、医療技術の発達によって核黄疸や周産期仮死など、出生後にアテトーゼ型の脳性麻痺を発症する新生児が減り、アテトーゼ型の脳性麻痺児は大幅に減りました。
しかし、近年さらに発達した医療技術によって早産児や低出生体重児が増え、脳室内出血や脳室周囲白質軟化症など、再びアテトーゼ型の脳性麻痺を発症する新生児は増えています。
脳性麻痺の身体症状には、以下のようなものがあります。
名称 | 概要 | 特徴 |
---|---|---|
片麻痺 | 片側半身のみが麻痺する |
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単麻痺 | 片手、あるいは片足のみが麻痺する |
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痙直型四肢麻痺 | 四肢に麻痺が現れる |
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痙直型対麻痺 | 下肢の痙直(つっぱり)が主体 |
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アテトーゼ型四肢麻痺 | 不随意運動が目立ち、ジストニア型とも呼ばれる |
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脳性麻痺では、脳の神経部位を損傷することから、運動部位のみの障害が単体で起こることは少なく、多くは別の部位も同時に損傷しています。特に特徴的な合併症について、ご紹介します。
脳性麻痺の中でも四肢麻痺の場合、知的障害や発達障害のリスクも高くなります。また、アテトーゼ型では知的障害が合併発症することは少ないのですが、筋肉の動きの異常により、言葉が出ない・不明瞭になりやすいといった言語障害を伴うことが多く、知的障害と誤解されやすいです。
新生児に限らず、子供の発達には個人差が大きく、発達がゆっくりだからといって必ずしも脳性麻痺だとは限りません。しかし、運動に関する能力だけが極端に遅れている、体の左右で均整の取れない発達をしているなどの場合は脳性麻痺の疑いがあります。以下に、脳性麻痺が疑われるときのチェックポイントを挙げます。
これらの症状が継続して見られる場合は、医療機関などで相談すると良いでしょう。また、新生児は1ヶ月・3ヶ月・6ヶ月と健診の回数も多いため、その際に相談するのもおすすめです。
脳性麻痺の原因は、妊娠中から周産期にかけて多くなります。最も多いのが早産・低体重児の場合、そして産後の物理的損傷によって内出血が起こったり、神経を直接損傷してしまったりする場合です。
脳性麻痺の原因はさまざまであり、また、発覚してからの原因の特定が難しいことから、予防は難しい疾患です。しかし、物理的損傷や感染症は、十分に予防することが可能です。産前産後の周産期は、これらのことに特に注意して過ごしましょう。