十二指腸潰瘍が進行すると穴が開く?!十二指腸穿孔ってどんな病気?

2018/11/3

山本 康博 先生

記事監修医師

MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長
東京大学医学部卒 医学博士
日本呼吸器学会認定呼吸器専門医
日本内科学会認定総合内科専門医
人間ドック学会認定医
難病指定医
Member of American College of Physicians

山本 康博 先生

十二指腸潰瘍は、胃潰瘍と同じように胃液の酸で粘膜の組織がダメージを受けてしまうことで起こる疾患です。十二指腸潰瘍の時点で治療せず、放置してしまうと腸の壁に穴があいてしまうことがあり、これを十二指腸穿孔と呼んでいます。では、十二指腸穿孔とはどのような原因で起こるのでしょうか?また、症状や予防法にはどんなものがあるのでしょうか?

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十二指腸穿孔になると、お腹がひどく痛むの?

十二指腸穿孔とは、十二指腸潰瘍が進行して腸の壁に穴があいてしまった状態のことです。十二指腸潰瘍は、胃潰瘍などと同じように胃液の酸によって粘膜が傷つけられ、組織が抉られたような状態になってしまうことをいいます。ですから、胃酸の分泌が活発で分泌量の多い人ほどかかりやすいといわれています。

十二指腸潰瘍は、胃とつながった部分から少し上に行って曲がった部分の「十二指腸球部」という部分で起こることが多く、十二指腸の壁の方が胃壁に比べて薄いため、深く進行しやすいことが特徴です。十二指腸潰瘍が穿孔の状態まで進行すると、急で激しい腹痛が現れます。

十二指腸穿孔に進行する前の、十二指腸潰瘍の原因は?

十二指腸潰瘍や胃潰瘍の原因は、長くストレスであると考えられてきました。しかし、最近の研究や報告によれば、第一の原因は「ピロリ菌感染」と「抗炎症薬や鎮痛薬などの薬剤」であることがわかってきています。これらの原因にストレスが加わると消化管の働きが弱まるため、症状の進行が早まると考えられています。

ピロリ菌は、正式名称はヘリコバクター・ピロリ菌といい、ほとんどの細菌が生きていけない強い酸性の胃液の中でも、アンモニアを産生して自分の周りの胃液を中和するバリヤーを作ることができるため、胃の粘膜に生息することができる細菌です。アンモニアも人体には有毒ですが、それ以外にも活性酸素や免疫反応によって胃の粘膜が傷つけられ、潰瘍を引き起こします。

ピロリ菌は小児期にかかることが多く、ほとんどの場合は除菌しない限りは胃の中に存在し続ける細菌です。ピロリ菌が胃全体に感染していれば胃潰瘍になりやすく、胃の出口付近に集中していれば十二指腸潰瘍になりやすいと判断できる、という報告もあります。

十二指腸潰瘍の原因となる薬剤は、NSAIDsと呼ばれる解熱鎮痛剤です。NSAIDsは非ステロイド系抗炎症薬とも呼ばれ、頭痛や生理痛などを抑える薬に含まれていることが多いです。用法・用量を守って使っていれば胃・十二指腸潰瘍に進行するリスクは低いですが、以下のような間違った飲み方をすると副作用として胃の粘膜を荒らし、胃・十二指腸潰瘍につながる可能性があります。

  • 空腹時に飲む
  • 限度量に書かれている1回量の2〜3倍を一気に飲む
  • 服用間隔として推奨されている時間が経っていないのに次の薬を飲む
  • 複数の種類の解熱鎮痛薬を同時に飲む

鎮痛解熱剤は、つらい頭痛や生理痛などの痛みを和らげてくれる非常に有用な薬です。副作用のリスクを下げるためには、用法・用量を守って正しい量とタイミングで飲むことが大切です。

十二指腸穿孔になると、どんな症状が出るの?

十二指腸潰瘍は、空腹時に腹痛が起こることで発覚することが多いです。また、食欲不振や膨満感、胸焼けなどの軽い症状から順に現れることもあります。位置は胃のすぐ次ですから、腹部の上の方で感じます。吐き気や嘔吐などの症状が現れることもあります。

その症状がさらに進んで十二指腸穿孔の状態になると、急で激しい腹痛が現れます。人によっては気が遠くなるほどの激しい痛みを訴えることもあり、この症状が現れた場合は緊急に内視鏡ないしは外科的な手術による処置が必要です。

十二指腸穿孔になったら手術するの?

十二指腸穿孔が疑われる場合、まずCT検査を行います。CTとはX線を使用して体の断面図を撮影する検査です。腹腔内に漏れた空気や胃液などを発見すれば、消化管から漏れている可能性が高いと考えられます。

穿孔部分が見つかった場合、手術を行います。十二指腸潰瘍の治療の第一選択は薬物療法ですが、穿孔にまで症状が進んでいる場合、多くは穿孔を閉じる緊急性のため、手術が必要となります。症状が軽度である場合や、発症初期でまだ穴が小さい場合には、薬物療法で自然治癒を目指せる場合もあります。

手術は小さく開腹したり、腹腔鏡内を用いて穿孔部位を閉鎖します。その後、大網と呼ばれる腹腔内の脂肪組織を用いて穿孔部位を覆い、保護します。原因が潰瘍でなく癌の場合や、穿孔が非常に大きい場合、または穿孔を何度も繰り返す場合は、胃の半分〜2/3を切除する手術が必要となる場合があります。

十二指腸穿孔を予防するには、どんなことに気をつければいい?

十二指腸潰瘍の直接の原因は、ピロリ菌の感染とNSAIDs解熱鎮痛剤によるものです。どのようにしてピロリ菌に感染するのかがわかっていないため、ピロリ菌を予防する方法は確立されていません。しかし、NSAIDs解熱鎮痛薬を用法・用量を守って正しく使う、むやみに乱用しないというのは実践可能な予防法です。

また、症状を悪化させないために、ストレスをためないことや、食生活に気をつけることが重要です。長期間にわたってストレスを受け続けると、自律神経の働きが乱れ、胃粘膜を含めた組織の血流が悪化し、傷つきやすくなります。また、脂肪分の多い食事やアルコール、香辛料の多い食事、珈琲や紅茶などカフェインの多い飲み物は胃酸の分泌を増やし、胃粘膜を傷つけやすくしてしまいます。

とくに、体調が悪く消化管の調子も悪いときにこうした刺激の強い飲食物を摂りすぎると、潰瘍の症状が悪化しやすくなります。胃が重く感じたり、少し痛みが出る、胸焼けがするなどの症状があるときには、こうした飲食物はできるだけ控えるようにしましょう。

仕事や人間関係でストレスを抱えていたり、睡眠不足が続いているときにやけ食い・やけ飲みなどの暴飲暴食をすることも、胃・十二指腸潰瘍にかかりやすくなります。宴会などでつい盛り上がって食べすぎ・飲みすぎてしまうことにも周囲しましょう。ストレスで消化管の働きが弱っているところに暴飲暴食が加わると、胃腸への負担が一段と大きくなります。突然出血したりすることもありますので、十分に注意しましょう。

日頃から胃に負担をかけすぎないよう、腹八分目で刺激物は控えめな食事を摂るよう、心がけましょう。

十二指腸穿孔に進行しないために、検査を受けよう

十二指腸穿孔を防ぐためには、その前段階である十二指腸潰瘍を予防または早期に発見して治療することが大切です。胃が重い、痛い、胸やけや不快感がするなどの胃・十二指腸潰瘍の症状が続いていたら、なるべく早めに検査を受けましょう

腹痛の症状は腹部の疾患の多くに当てはまる症状であり、腹痛だけから疾患を判断することは非常に困難です。潰瘍だと思ってもそうではなかったり、逆に潰瘍でないと思い込んでいて放置してしまい、症状が進行して合併症を引き起こしてしまう可能性もあります。

ですから、内視鏡検査で組織を採取して病理診断を行うとともに、ピロリ菌が生息しているかどうかの検査も行っておくと安心です。十二指腸穿孔の激しい腹痛に至る前に、潰瘍の時点で早期発見して治療しておきましょう。

おわりに:十二指腸潰瘍から、十二指腸穿孔に進行しないために

十二指腸穿孔は、十二指腸潰瘍から進行する疾患です。そこで、十二指腸潰瘍を早期発見し、治療することで防ぐことができます。穿孔にまで症状が進行した場合、激しい腹痛だけでなく、多くは緊急に手術を行う必要があります。

十二指腸潰瘍を予防し、また、潰瘍を発症しても早期に発見できるよう、普段から消化に負担をかけない食生活と早めの検査を心がけましょう。

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