記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2018/11/28
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
膵臓でつくられる消化酵素が、膵臓自体を溶かしてしまう「慢性膵炎」。この慢性膵炎を発症すると、どんな症状が現れるのでしょうか。また、症状を放置しているとどんなリスクが生じるのでしょうか。
慢性膵炎は、膵臓(すいぞう)でつくられる消化酵素が、膵臓そのものをゆっくりと溶かしていく慢性的な炎症です。
膵臓には2つの働きがあります。ひとつは、消化酵素を分泌することです。消化酵素は、食べ物を分解して吸収しやすくする働きがあります。口の中に分泌される唾液のほか、胃や小腸などの消化器官で分泌されています。消化酵素は、糖や脂肪、タンパク質といった栄養素に応じて種類があります。膵臓では、炭水化物を分解するアミラーゼ、脂肪を分解するリパーゼ、タンパク質を分解するトリプシンといった消化酵素がつくられています。
もうひとつの膵臓の働きは、消化酵素以外にインスリンとグルカゴンというホルモンを分泌し、血液中の糖分量(血糖値)をコントロールすることです。インスリンは血糖を低下させる作用があり、グルカゴンは血糖を上昇させる作用があります。この2つのホルモンがバランスを取り合って、血糖をコントロールしています。
慢性膵炎の症状は、以上の2つの機能が衰えていくことによって生じます。特徴的な自覚症状として、上腹部や腰、背中の痛みが挙げられます。食後数時間してから腹痛があるといったときは注意が必要です。症状が進むと、消化不良による下痢や脂肪便、体重減少、血糖値の異常や多尿といった糖尿病の症状があらわれます。脂肪便は、便の中に脂肪が過剰に含まれており、水に脂が浮いたり、便自体も浮かぶような状態です。
慢性膵炎の大きな原因として挙げられるのは飲酒です。大量の飲酒が常態化していることに加えて、食生活の偏りといった生活習慣が関わって発症すると考えられています。ただし、理由が不明で起こるものあります。
慢性膵炎では、多くの人がお腹や背中の痛みを訴えますが、痛みがないまま症状が進む人もいます。また、ある時期は痛みを感じていても、症状が進み膵臓の機能が重度に失われると痛みすら感じなくなるといわれています。
慢性膵炎は、いったん発症すると健康な状態に戻るということはありません。症状はだんだんと進行して、膵臓の細胞が壊されていきます。膵臓の細胞が死ぬと、組織が繊維と置き換わったり硬く石灰化したりして、膵臓が小さくなってしまいます。その結果、膵臓の働きが弱まり、膵液の分泌が減少します。食べ物を消化する消化酵素が足りなくなりますから消化不良や栄養状態の悪化が起こります。血糖値のコントロールも難しくなり、糖尿病も進行していきます。
また、厚生労働省の調査によると、慢性膵炎の患者はがんの合併率が高くなっています。特に、膵臓がんの合併率が高く、予後も悪いことが明らかになっています。そのため、慢性膵炎の治療を早期に行うことで、がんの予防にもつながると考えられています。
慢性膵炎は、病気の進行度や合併症によって治療方法が異なります。基本的には、食生活を含む生活習慣の改善と薬物療法が中心となります。とくに、慢性膵炎の大きな要因となるのが飲酒です。
過度で常態化した飲酒が原因と考えられる場合は、まず「禁酒」が必要です。これは、量を減らす、飲まない日をつくるといったことではなく、お酒を全く飲まないようにするということです。
また、食生活も関わっていると考えられるため、食事療法も併用されます。食べ過ぎを控え、脂っこいものや辛く刺激の強いものなどは控えます。喫煙も、慢性膵炎を進行させるリスクがあるとされ、禁煙も進められます。
薬物療法については、痛みや膵液の分泌を抑える薬、消化酵素の不足を補う薬など、症状に応じたものを服用します。また、糖尿病が合併している場合は、血糖コントロールも行っていきます。膵臓の機能低下によってインスリンの分泌量が低下しているため、インスリン補充療法も行われるでしょう。
慢性膵炎は、決して高齢者だけに起こる症状ではなく、30代ごろの働き盛りの世代でも起こりうる症状です。大きな要因としてはお酒の過剰摂取があり、脂肪のとりすぎといった食生活の乱れも関係しているといわれています。血糖値の上昇や、腹痛や下痢の症状を繰り返すなどの自覚症状があるときも注意が必要です。
膵臓の組織は一度失われると再生するものではありません。普段の食生活を振り返りながら、医療機関を受診したり、定期検診の結果を確認したりして、早めに発見できるようにしたいものです。
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