記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2019/1/16
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
呼吸するための管である気管に何らかの異常が起こった場合、気管を切開する必要があるといわれる場合があります。では、子供が気管を切開する必要があるのは、どのような場合なのでしょうか?また、切開後にはどんなことに気をつけて過ごせば良いのでしょうか?
気管切開とは、肺に空気を取り込んだり、痰を吸引しやすくしたりするために気管に孔を開けることです。
通常、呼吸の際に鼻やのどから吸った空気は、気管という管を通って肺に送られます。このとき、何らかの原因で呼吸がうまくいかなかったり、痰や分泌物を吐き出せずに息が苦しくなってしまったりすることがあります。こうした場合に気管切開を行うことで、空気が肺に行き渡りやすくなるほか、痰や分泌物の吸引もしやすくなります。
気管切開が適応となるのは、以下のような場合です。
長期間挿管が必要な場合とは、口から長いチューブを気管内に入れて治療を行う場合のことです。口から入れているチューブの場合、少し体を動かしただけでも間違って抜けてしまい、危険な状態に陥ることがあります。そこで、ずっと動かないように寝たきりでいる必要がありますが、この状態は患者さんにとって苦痛であるほか、身体的にも筋力が落ちてしまうため避けたいところです。
人工呼吸器が必要な場合とは、気管切開をしてそこからチューブを挿入して呼吸を助ける必要がある場合のことです。疾患が治るまでの間、人工呼吸器によって呼吸を助けます。
気管内挿管が難しい場合とは、喉や喉頭(発声を行うところ)が狭く、口からチューブを挿入することが困難な場合のことです。無理をすると逆に体内を傷つけたり、息が苦しくなったりしてしまうことがありますので、気管切開を行った方がより安全に施術が行える場合があります。
子供に対して気管切開が必要になるのは、上記で紹介した3つのどのパターンもありえます。しかも、幼少期の子供に対して寝たきりで体を動かさないようにといっても難しい話ですし、体が小さいがゆえに長い管を入れっぱなしにしておくと、体を動かしたときに管がずれて気管の後ろ側にある食道に入ってしまうこともあり、呼吸ができなくなって危険です。
これらの場合、より安全に呼吸の気道を確保し、体を動かして管が抜けたり、ずれたりしておかしなところに入ってしまう危険性を減らすため、声帯より下にある気管を切開し、気管カニューレという短い管を入れるための気管切開が必要となるのです。この気管カニューレは一生つけていなくてはならないとは限らず、特に小児の場合では疾患が治癒し、気管切開が必要となった原因が解消されればカニューレが不要となることもあります。
気管切開をすることで、チューブが短くなって痰などで閉塞する危険が少なくなります。また、テープでベタベタとチューブを固定する必要がなく、苦しそうに見えにくくなります。顔や体にテープが貼りつけられる違和感も少なくなるでしょう。また、入れたチューブが抜けにくくなるため、薬で眠らせたり寝たきりにしておく必要がありません。
このため、気管切開によって呼吸用のチューブを取りつけた場合、抱っこしてバギーに乗せるなどして歩き回ることも可能です。また、運動などのリハビリテーションを受けることもできます。さらに、呼吸が楽になることで呼吸を維持するために消費していたエネルギーが体を成長させる方に回されるため、体がしっかり成長しやすくなります。
このように、気管切開を受けるとより安定して呼吸の経路を確保することができるだけでなく、その分体力や体格を育てることができ、より早期に疾患からの回復ができるようになります。
気管切開後の日常生活では、以下のようなことに気をつけて過ごしましょう。
気管切開をしたからと言って、声が出ないとは限りません。通常、気管切開で開かれ、管を入れる部分は声を出すために必要な「声帯」よりも下の位置にあります。ですから、声帯への影響はありません。声を出すために必要なのは、この「声帯」に空気を流すことですから、気管切開をした後でも十分声を出すことは可能です。
気管切開をした場合、空気の出し入れは気管カニューレから行われますが、その気管カニューレは気管そのものよりも少し細いものを選びます。ですから、気管切開をした人は空気の交換を主に気管カニューレから行うことは事実ですが、気管内に留置されたカニューレのわきの気管からも空気の出し入れは行われるのです。
そのため、通常よりも弱めで金属っぽい声とはなりますが、会話に支障があるほど声に異常があるわけではありません。外来などを受診した場合に、医師と普通に会話をすることも可能です。
その一方で、疾患の原因や処置によってはうまく声が出せないことも考えられます。それは、声帯やその付近に異常があって気管切開を行った場合、または何らかの理由でカフ(=管の周りに空気で膨らませる袋がついたもの)つきのカニューレを使い、気管を完全に塞いだ場合です。ただし、後者のカフつきカニューレを子供が使うことはほとんどないため、こちらはあまり心配する必要はないでしょう。
気管切開の手術が終わってカニューレを挿入した傷口も落ち着いたら、子供と一緒に声を出す練習もしていくと良いでしょう。
気管切開によってカニューレを挿入する場合、長いチューブによる寝たきりの状態を防いだり、体を動かすことで間違って抜けたり食道に入ったりして呼吸ができなくなる危険性を減らすことができるメリットがあります。
さらに、チューブが非常に短くなることから、ある程度自由に動き回って日常生活を送ることもできるなど、生活の質(QOL)を高めるメリットもあります。疾患からの回復とともに、子供の成長のためには必要な処置であるといえるでしょう。