記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2019/4/16
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
前立腺がんとは、男性の生殖器官である「前立腺」で起こるがんです。「前立腺肥大症」などの疾患は、中高年の男性が注意する必要のある疾患として比較的よく知られているのではないでしょうか。
今回は、その前立腺に起こるがんの特徴や治療法、またそのうち薬物療法によって治療を行う場合にどのような治療を行うのか、使う薬の種類や名称などを詳しく解説します。
前立腺がんとは、中高年の男性に起こりやすい疾患の一つで、前立腺肥大症などとともに年齢を重ねていくにつれて発症リスクが高くなっていくため、注意しておく必要があります。前立腺は生殖器の一部ですから、その異常には男性ホルモンが関与しているとされ、加齢によってホルモンバランスが変化することが大きく影響していると考えられています。
前立腺がんは主に前立腺の「外腺」と呼ばれる辺縁の部分に発生するがんで、他の臓器に比べてゆっくりと進行することが特徴です。そのため、早期に発見できれば他のがんよりも治る可能性の高いがんであると言えます。しかし、初期には自覚症状がほとんどないため、発見が遅れてしまうことが多いです。
前立腺がんが進行すると、前立腺自体がだんだん大きくなっていき、前立腺を覆っている膜を破って近くの組織(精嚢や膀胱など)にまで広がっていく(浸潤)こともあります。さらに進行すると骨や他の臓器にまで転移していくこともあるため、他のがんと同じように早期発見と治療が重要です。
前立腺がんは、早期~中期程度の段階では自覚症状がほとんどないのが特徴です。同時に前立腺肥大も起こるため、排尿障害や下腹部の不快感として現れることがあります。以下のような症状が出た場合は、一度検査を受けてみても良いでしょう。
このほか、がんが進行していくと膀胱や尿道などに浸潤し、血尿や血精液症などの症状が現れることもあります。また、骨に転移した場合、腰痛などで骨の検査を受けて発覚することもあります。
前立腺がんの治療法はさまざまで、症状の進行度合いや患者さんの年齢などによって以下のような治療法があります。
リスク・進行度合い | 用いられる治療法 | 治療の目的 |
---|---|---|
低リスク群
(比較的腫瘍がおとなしい) |
監視療法
フォーカルセラピー 手術療法 放射線療法 |
過剰な治療を控えつつ、身体機能を維持する
手術または放射線療法は、低リスク~高リスク群のいずれにも選択可能 放射線療法のうち「組織内照射療法」は低リスク群のみ選択可能 |
中間リスク群 | 手術療法
放射線療法 内分泌療法 |
前立腺内にとどまっているがんの進行を抑制する |
高リスク群 | 手術療法
放射線療法 内分泌療法 |
被膜を越えて広がっているため、がんの進行を抑制するとともに他組織への影響を和らげる
放射線治療を行う場合、長期間の内分泌療法を併用するのが望ましい |
浸潤が始まっている | 放射線療法
内分泌療法 |
放射線療法では、体の外から照射する「外照射療法」を用いる
手術を行う場合もある |
リンパ節・遠隔転移がある | 内分泌療法
化学療法 |
手術や放射線など、ピンポイントでの治療が困難なため、全身に作用する薬剤による治療を行う |
監視療法やフォーカルセラピーは、厳密にはがんの治療ではありません。治療を開始しなくても余命に影響がないと判断される場合、手術などの苦痛や治療の副作用によるQOLの低下などを鑑みて、経過観察のみを行うのが監視療法、経過観察に加えてごく軽度の身体維持のための治療を行うのがフォーカルセラピーです。監視療法では、3~6カ月ごとに直腸検診を、1~3年ごとに前立腺生検を行い、病状の進行具合を判断するのが目安です。
また、低リスク群のみで行われる放射線治療である「組織内照射療法」とは、小さな粒状の容器に放射線源(放射線を出す物質)を密封し、前立腺内に入れて体内から照射する方法です。がん細胞のすぐ近くに放射線源があるため照射位置がずれにくく、さらに非常に高い線量を照射できるため、治療の効率も良いと考えられます。
ただし、前立腺肥大症で前立腺を切り取る手術をしたことがある人や、前立腺がもともと大きすぎる場合は、放射線源を埋め込むことができません。そこで、先に内分泌療法を行い、あらかじめ前立腺を小さくしてから放射線源を埋め込むことがあります。
埋め込む手術自体は半日で終了しますが、手術後最低でも一晩は入院が必要です。また、埋め込まれた放射性物質は半年程度で効力を失うため、取り出す手術は行う必要がありません。体の中に残った物質の放射線によって周囲の人に影響を与えてしまう可能性も、ほとんどありません。
また、組織内照射療法による副作用には、治療後3カ月程度をかけて、排尿困難感や頻尿が進むというものがあります。これらの副作用は、そこからさらに1年程度をかけて徐々に症状は軽減していきます。尿失禁が起こることはまれで、後述する外照射療法と比較して性機能は維持されやすいですが、精液量は減少するとされています。
積極的にがん細胞の増殖を抑制したり、縮小したりすることを目的とした治療として「手術療法」「放射線療法」「薬物療法」の3種類があります。薬物療法はさらに「内分泌療法(ホルモン療法)」と「化学療法」の2つに分けられ、病状の進行スピードや浸潤・転移の度合い、患者さんの希望など、総合的に判断した上で適切な治療が選択されます。
手術療法には、開腹手術、腹腔鏡手術、ロボット手術の3つがあります。開腹手術はスタンダードな方法で、全身麻酔と硬膜外麻酔をかけながら、下腹部をまっすぐ切開して手術を行います。腹腔鏡手術では、小さな穴を数個所開け、炭酸ガスで腹部を膨らませて専用のカメラや器具で手術を行います。開腹手術よりも出血量が少なく傷が小さいため、体への負担が少なく回復も早いです。
ロボット手術では、小さな穴を数個所開けて精密なカメラや鉗子を持つ手術用ロボットを使い、遠隔操作によって手術を行います。術者の微細な手の震えなどが機械によって制御され、拡大画面を見ながら操作ができるため、非常に精密な手術ができます。腹腔鏡手術よりもさらに回復が早い術式です。
外照射療法は、体の外から前立腺に放射線を照射して治療を行う方法です。治療範囲をコンピュータで制御し、前立腺の形に合わせることで周囲の臓器に放射線が当たる量を減らし、周囲の臓器への影響を軽減する「三次元原体照射」や、さまざまな方向からターゲットに線量を集中させる「定位放射線療法」などの方法があります。「三次元原体照射」の場合は1日1回、週5日で7〜8週間程度の治療期間が一般的です。「定位放射線療法」の場合はたいてい5回程度の短期間で治療します。
そのほか、陽子線や重粒子線などの粒子線を用いた「粒子線治療」が用いられることもあります。X腺による外照射療法の場合、体表面付近で線量が最大になりますが、粒子線治療では体内のがんのある場所で線量が最大になるよう調節することができ、より効果的な治療が行なえます。ただし、行える施設には限りがあります。
外照射腺療法の主な副作用は、3カ月以内の急性期で頻尿・排尿や排便時の痛み、その後の副作用としては排便時の出血や血尿などです。副作用が治るには数年かかることもありますが、副作用の起こる頻度は高くなく、特に重篤なものはまれです。
前立腺がんは、生殖器に起こるものであるため、精巣や副腎から分泌されるアンドロゲンという男性ホルモンの刺激によって病状が進行する性質があります。そこで、内分泌療法によってアンドロゲンの分泌や作用を阻害することで、前立腺がんの勢いを抑えることもできるのです。
化学療法とは、いわゆる抗がん剤による治療のことです。抗がん剤を注射や点滴・内服することによって、がん細胞を消滅または小さくすることを目的として行います。一般的には、転移のあるがんで、かつ内分泌療法で効果が得られなくなった場合に適応となります。
内分泌療法は、手術や放射線治療を行うことが難しい場合、または放射線治療の前後に併用して行う場合があります。さらに、がんが他の臓器に転移し、ピンポイントでの治療が難しくなった場合にも行われます。内分泌療法で使われる治療薬は以下の通りです。
内分泌治療は、長く治療を続けていると療法に対する反応が弱くなってしまい、落ち着いていた症状がぶり返す「再燃」という状態が起こることが大きな問題です。これを「去勢抵抗性前立腺がん」と呼び、去勢抵抗性前立腺がんの治療にはアンドロゲン受容体と結合するのを防ぎ「エンザルタミド(イクスタンジ®︎)」や、アンドロゲンの合成を阻害する「アビラテロン酢酸エステル(ザイティガ®︎)」などを用いることがあります。
しかし、これらの効果も徐々に弱くなっていってしまうため、化学療法や副腎皮質ホルモン剤での治療を組み合わせて使用したりすることもあります。
化学療法が選択されるのは、一般的に転移があるがんのうち、内分泌療法では効果が得られなくなったものです。薬剤を注射・点滴または内服して、がん細胞を消滅させたり小さくすることを目的としています。主な薬剤は以下の通りです。
治療中に起こりうる副作用は、内分泌療法と化学療法で異なります。それぞれについて詳しく見ていきましょう。
内分泌療法は、ホルモン療法とも呼ばれる性ホルモンに関与する治療法です。そのため、加齢による男性ホルモンの低下と同じような症状が現れます。主な症状は以下の通りです。
その他、身体症状としてめまい、ふらつき、胸痛、息切れなどが起こることがあります。これらの副作用の症状が現れた場合、速やかに主治医に相談しましょう。
化学療法に用いられる薬剤は、活発に増殖を続けるがん細胞に対し、その増殖を抑制する目的で使われます。この作用が正常な細胞にも影響を与えてしまうため、さまざまな症状が現れます。以下のような細胞が主に影響を受けやすいと考えられています。
この他、心臓・腎臓・膀胱などの主要な臓器や、肺や神経組織、生殖機能に影響が及ぶこともあります。抗がん剤によって起こる副作用のうち、頻繁に訴えがあるものは「吐き気」「脱毛」「白血球減少(感染症にかかりやすくなる)」の3つがあります。ただし、副作用は薬剤の種類や個人差も大きいため、必ずしもこれらの症状が現れるとは限りません。体調に異常を感じたら、すぐに医師や看護師に相談するようにしましょう。
前立腺がんで薬物療法を行う場合、ホルモンに働きかける内分泌療法と、がん細胞の増殖そのものに働きかける抗がん剤による化学療法の2つがあります。一般的に、内分泌療法の方が先に行われることが多いです。
内分泌療法は主に男性ホルモンによる前立腺への刺激を弱めてがん細胞の働きを抑制するものですが、長期間投与を続けていると反応が弱くなってきてしまうため、化学療法を含めて治療を切り替えていく必要があります。