記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2019/5/8
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
ビグアナイド薬は、糖尿病の治療薬として使われる薬剤の一種です。糖尿病とは、血液中の糖分の濃度(血糖値)が高くなってしまった状態のことで、血糖値が高いまま放置しておくと動脈硬化などを始め、さまざまな合併症を引き起こすリスクが高くなります。
そこで、ビグアナイド薬などの薬剤を使って血糖値を下げる必要があるのです。ビグアナイド薬にはどんな特徴があるのでしょうか?種類や副作用についてもご紹介します。
ビグアナイド薬は、肝臓で新しい糖が作られるのを抑えて血糖値を下げる薬剤です。糖そのものを減らすため、細胞に糖をどんどん吸収させるタイプの血糖降下薬とは異なり、体重を増やしにくいメリットがあります。肝臓以外にも、小腸からの糖の吸収を抑えたり、筋肉での糖からのグリコーゲン合成や糖の分解作用を促進することで血糖値を下げる作用もあります。
この特徴から、基本的には肥満の人に対して使われることが多い薬剤です。しかし、肥満のない人でも使うことができますし、十分に効果は期待できます。インスリンを過剰に分泌することのない薬剤ですから、他の薬と併用しなければ低血糖を引き起こすリスクが低いこともメリットです。
インスリンとは、血糖値を下げるホルモンのことです。このインスリンが分泌されない、あるいは少ない、効きにくくなった、といった場合に糖尿病が引き起こされます。糖尿病には1型と2型の2種類があり、1型はインスリンを産生・分泌する部位である膵臓の「β細胞」が何らかの原因で破壊されてしまい、インスリンが全く分泌されなくなった状態です。
2型の糖尿病は、大きく分けてインスリンの分泌量が少なくなった(インスリン分泌低下)か、あるいはインスリンが効きづらくなった(インスリン抵抗性)の2つがあります。ビグアナイド薬は筋肉などでのインスリンの作用を高める働きがあることから、インスリン抵抗性の患者さんに特に効果があるとされています。
ビグアナイド薬には複数の作用があり、総合的に血糖値を下げる作用があります。具体的には以下のような作用です。
肝臓には、乳酸から糖を作る「糖新生」という働きがあります。この糖新生で作られた糖はもちろん血中に放出されるため、血糖を上げる直接的な原因となってしまいます、そこで、まずこの糖新生を抑え、そもそも血中に放出される糖を減らすのがビグアナイド薬の第一の作用です。
また、食事など摂取したものから糖分を吸収しにくくすることも、血糖値を下げるために大切なことです。ビグアナイド薬の第二の作用として、この「小腸からの糖吸収を抑える」という働きがあります。取り込まれる糖分が少なければ、血中を移動する糖分も少なくなります。
第三の作用・第四の作用は、いずれもインスリンの作用です。ビグアナイド薬はインスリンが効きにくくなってしまった(インスリン抵抗性)細胞に働きかけ、糖を取り込ませたり、筋肉での糖の分解を促進したりすることができます。
トリグリセリド(中性脂肪)やLDL(悪玉)コレステロールを減らす第五の作用は、細胞内の脂肪を積極的にエネルギー源として燃焼する方向に働かせるということです。
ビグアナイド薬には、以下のようなものがあります。
ビグアナイド薬は、1957年頃に開発され、「フェンホルミン」「ブホルミン」「メトホルミン」の3種類がありました。その後、1970年代に入るとフェンホルミンを使用していた人が乳酸アシドーシスによって死亡する例が報告されたため、1977年にアメリカFDA(食品医薬品局)はフェンホルミンの使用を禁止しました。
このため、ビグアナイド薬は長い間「乳酸アシドーシスを引き起こす、危険な薬剤である」という不名誉なイメージが強く残ることになりました。しかし、フェンホルミンとメトホルミン・ブホルミンには決定的な違いがあり、それが「水溶性か脂溶性か」の違いです。脂溶性であるフェンホルミンはミトコンドリア膜に親和性が高く、エネルギー代謝障害を引き起こしやすいため、乳酸アシドーシスのリスクが高くなりました。
しかし、メトホルミンやブホルミンは水溶性であり、ミトコンドリアでのエネルギー代謝に影響しづらいという特徴があります。実際に、メトホルミンによって乳酸アシドーシスのリスクが高まるかどうかを調べた報告によると、対照群と比較してリスクが上がることはなかったとされています。
乳酸アシドーシスとは、血中に乳酸が増えすぎた状態で、吐き気や腹痛・脱水などの症状を引き起こして意識障害に至ったり、最悪の場合、生命を脅かすこともあります。乳酸アシドーシスには大きく分けて3つの段階があり、このうち2つ目の病態でミトコンドリアに異常を引き起こします。そのため、ミトコンドリアの代謝に影響しにくいメトホルミン・ブホルミンでは乳酸アシドーシスのリスクは低いと考えられるのです。
また、メトホルミンは発癌リスクを下げるとの報告もあります。はっきりした原因はわかっていませんが、インスリン抵抗性を下げることで癌細胞の増殖を抑制する、癌抑制遺伝子を活性化する働きがある、などが理由ではないかと言われています。
ビグアナイドを服用することで考えられる副作用には、以下のようなものがあります。
ビグアナイド薬は糖の吸収や生成を阻害したり、インスリンの作用を促進して糖を分解したり、というさまざまな作用がある薬剤です。そのため、血糖降下薬やインスリン療法などを併用している人では特に低血糖の症状が出やすくなりますので、十分に注意しましょう。また、単独で使っている場合でも、高齢者や腎機能が低下している人の場合、低血糖を引き起こすことがあります。
頻度はごくまれですが、メトホルミン・ブホルミン製剤であっても乳酸アシドーシスを引き起こす可能性はあります。そこで、以下のような患者さんには投与が禁忌とされています。
乳酸アシドーシスを引き起こすミトコンドリアの代謝異常は、酸素が少ないか、ほとんどない状態(嫌気性)で起こります。そのため、低酸素血症になりやすい状態であると判断される場合、乳酸アシドーシスのリスクが高いと考えられますので、投与できません。
また、ヨード造影剤を用いて検査をする場合にも乳酸アシドーシスのリスクが高まるため、緊急の場合を除いて検査前から造影剤投与後48時間が経過するまで、この薬剤を使うことはできません。
ビグアナイド薬は、肝臓での糖新生を抑える作用をメインに、その他さまざまな作用が組み合わさって血糖値を下げる薬剤です。しかし、フェンホルミンという薬剤で事故が起こってしまったため、長い間危険な薬剤と誤解されていました。
現在使われているメトホルミンは、フェンホルミンと比較してかなり安全に使えることがわかっています。しかし副作用の可能性がゼロではないので、使用には十分注意しましょう。