インスリンの投与は、血糖値のコントロールをして糖尿病の症状を改善する治療方法として広く知られています。しかしインスリン製剤には複数種類があり、使用にあたっては必ず理解しておきたい注意点もあるのです。この記事では「ヒトインスリン製剤」の概要と注意点を紹介します。
ヒトインスリン製剤とは
ヒトインスリン製剤とは、微生物を用いて産生させたヒト型のインスリンを精製した薬です。インスリン製剤は作用の発現時間や持続時間で、超速効型、速効型、持効型、中間型、混合型に分類されます。ヒトインスリン製剤は速効型、中間型、混合型に分類されるタイプがよくみられます。
ヒトインスリン製剤には3種類ある
インスリン分泌には、基礎分泌と追加分泌があります。
- 追加分泌
- 食事の摂取に反応して血糖値が上昇したときに、一時的に分泌されるインスリン
- 基礎分泌
- 常に一定の割合で分泌され続ける少量のインスリン
インスリン治療は、体がうまくインスリンを産生できていないときに不足分を補うために行われます。ヒトインスリン製剤は3種類に分かれています。
- 追加分泌を補うインスリン
- 速効型インスリン(レギュラーインスリン(R))
筋肉注射、静脈注射が可能。食後高血糖を抑制します
- 基礎分泌を補うインスリン
- 中間型インスリン(NPHインスリン)
1日の投与回数を調整することが可能。空腹時血糖の上昇を抑制します
- 追加分泌と基礎分泌を補うインスリン
- 混合型インスリン
超速効型、速効型、中間型をさまざまな割合で混合した製剤で、インスリン分泌の補充を行います
主なヒトインスリン製剤は?
代表的なインスリン製剤と種類を紹介します。
速効型インスリン製剤
- 生合成ヒト中性インスリン(商品名:ノボリン®︎)、ヒトインスリン(商品名:ヒューマリン®︎)
- 注射のタイミング:食事の約30分前
作用発現時間:注射後約30分~1時間
作用持続時間:約5~8時間
その他:注射後の約30分以内に食事を摂取しないと、低血糖に陥る恐れがある
中間型インスリン製剤
- 生合成ヒトイソフェンインスリン(商品名:ノボリン®︎N)、ヒトイソフェンインスリン(商品名:ヒューマリン®︎N)
- 注射のタイミング:1日のうち決められた時間に投与
作用発現時間:注射後約30分~3時間
作用持続時間:約18~24時間
その他:成分が沈殿している懸濁製剤のため、投与前に製剤をよく振る
混合型インスリン製剤
- ヒト二相性イソフェンインスリン(商品名:ヒューマリン®︎3/7[サンナナ])
- 注射のタイミング:指定された食事の前。混合された製剤の種類によって食事直前または食事の約30分前などタイミングを調整
作用発現時間:混合された製剤によって変わる
作用持続時間:追加分泌作用は超速効型インスリンまたは速効型インスリンと同程度。基礎分泌作用は中間型インスリンと同程度
その他:成分が沈殿している懸濁製剤のため、投与前に製剤をよく振る。使用方法は十分に確認する
ヒトインスリン製剤の投与中は低血糖に気をつけよう
インスリン製剤は高血糖を抑制する作用を持ちますので、投与中は低血糖に陥らないように注意します。特に血糖値の低下が激しい重症低血糖に陥ると命に関わります。
低血糖の症状
- 血糖値70mg/dL以下で交感神経症状があらわれる
- 汗をかく、脈拍が速くなる、顔面蒼白、手や指のふるえ、不安感
- 血糖値50mg/dL程度で中枢神経症状があらわれる
- 頭痛、目のかすみ、生あくび、集中力の低下
- 血糖値50mg/dL以下で重症低血糖になる
- けいれん、異常行動、昏睡状態、意識不明
低血糖の対処法
- 速やかに血糖値を測定し、症状を確認する
- 低血糖の場合または血糖測定が不可能な場合はブドウ糖を補給する(ブドウ糖10gもしくはブドウ糖を含む飲料水150~200ml)
- 15分経過しても症状改善がない場合、再度ブドウ糖を補給する
低血糖の予防法
- 血糖値をこまめに測定する
- 運動前や運転前は血糖値を測定する
- 空腹時の運動を控える
- ブドウ糖を補給できるように準備する
- 必要に応じて補食を摂る
おわりに:ヒトインスリン製剤は投与のタイミングに留意し、低血糖にも気をつけましょう
ヒトインスリン製剤には複数の種類があり、投与のタイミングや作用に関する時間もさまざまです。医師や薬剤師の指示に従って正しく使用しましょう。また、治療期間中は低血糖の危険を考慮し、いざという時の対処法や予防法も理解しておいてください。
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