記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2019/7/19
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
電解質という言葉を覚えていますか?中学理科で習うこの単語は、学生生活を終えてしまうと忘れてしまう人も少なくありませんが、実は体の中で非常に重要な役割を持っているのです。電解質のバランスが崩れ、多すぎたり少なすぎたりすると「電解質異常」という状態になり、体にさまざまな症状が現れます。そこで、この記事では、電解質異常の起こる原因やその症状、治療法について解説します。
電解質とは、一般的に中学理科で習う「酸・アルカリ」の「イオン」のことで、水に溶けると電気を通す物質のことを言います。なかでも、体内で重要な役割を果たしている電解質(イオン)には、ナトリウム(イオン)・カリウム(イオン)・カルシウム(イオン)・マグネシウム(イオン)・リン(イオン)の5種類があります。それぞれの特徴は以下のようになっています。
このように、電解質は体の中でさまざまな役割を持っています。これらの電解質は主に腸管から吸収され、各種ホルモンによって調整を受けながら、腎臓で再吸収されたり、余剰分が排出されたりします。健康な状態では、それぞれの体内でのバランスが崩れないよう調整されていますが、何らかの疾患などによる異常が起こると血中濃度などに変化が起こり、変化がキャパシティを超えるとさまざまな症状が現れます。
前述の「変化がキャパシティを超えた」状態が電解質異常という状態です。電解質異常になると、以下のような症状があらわれます。ウイルスや細菌などの明確な病原体がない異常なため、診断は極めて難しく、精密な問診や精査と時間が必要になります。
しかし、電解質異常はその程度が重篤であったり長期間であったりすると、心臓や腎臓・脳といった重要な臓器にも取り返しの付かない被害を及ぼす可能性があり、場合によっては生命を脅かすことも十分にあり得ます。そのため、できるだけ早く、専門医による適切な診断と処置を行う必要があります。
カリウムやリンなどでは、重症例になるまで自覚症状がないことも重要なポイントです。夏は発汗による塩分不足がよく指摘されますが、これは低ナトリウム血症に関係しています。発汗による塩分不足という、比較的誰でも、どこでも起こりやすい異常なので、電解質異常の中でもよく知られています。
先ほど発汗が低ナトリウム血症につながることを指摘しましたが、ここではそのほかの電解質異常も含め、電解質異常の原因をご紹介します。
低ナトリウム血症は、発汗によって水分と塩分の両方を排出したのち、喉がかわいたからと水分だけを大量に摂取することが原因で発症します。塩分を補給しないと水分が細胞内にまで入れないため、血液や体液だけが薄まってしまうのです。最近ではスポーツドリンクや経口補水液など、電解質を含んだ飲料が多く販売されていますので、状況に合った水分を選びましょう。
その他の電解質であるカリウムやカルシウム、リンなどが不足するのは、慢性的な低栄養(そもそもの摂取不足)のほか、下痢や下剤の使用など、腸管からの吸収不足も挙げられます。特にカルシウムは単体では吸収率が低いので、腸管からのカルシウム吸収にビタミンDが必要です。そのため、ビタミンDが少なければ吸収不足の低カルシウム血症に、ビタミンDが多すぎれば吸収しすぎる高カルシウム血症になりやすいのです。
また、高齢者では低ナトリウム血症や低カリウム血症を発症する頻度が高く、既往の認知症が悪化したり、抑うつ症状が出現したりして医療機関を受診し、そこでやっと電解質異常が発覚することもあります。この場合、脳血管障害などの中枢系の疾患ではないため、頭部CTやMRI検査では異常の原因を発見できません。そのため、採血結果で異常があれば電解質異常と判断されます。
では、こうした電解質異常を早急に治療するには、具体的にどのような方法があるのでしょうか。
いずれの場合も、基本的に原因となる疾患がある場合は疾患の治療を行いながら電解質異常を正常な値に近づけていく必要があります。電解質が少ない場合は電解質を含む注射や錠剤などの薬物療法を行ったり、過剰に消費してしまう薬剤やアルコールなどの摂取を中止します。電解質が多い場合も食事療法などで改善する場合がありますが、緊急を要する場合は透析療法を行って、直接血液中から該当の電解質を除去することもあります。
「原因」の部分で「薬の副作用」など、薬物を使用していて電解質が多すぎ、または少なすぎる状態になってしまうことがあることをご紹介しました。また、病態によっては、疾患があることで薬剤への反応が変わり、思わぬ副作用が現れることもあります。
このような病態がある状態で薬剤を投与すると、電解質異常が比較的起こりやすいと考えられています。また、異常が起こったとしてもその反応が急性のものでなく、慢性的にゆっくりと進行していった場合、自覚症状が目立たず、採血検査を行って初めて電解質異常がわかる、というケースもあります。
内服薬では、以下のような薬剤に注意が必要です。
これらの利尿剤は心不全・腎不全・高血圧などの場合に処方されることが多く、甘草は甘草湯・麻黄湯・紫苓湯など、非常に多くの漢方薬に配合されています。こうした薬剤の副作用はもちろん添付文書などに記載されていますので、天然素材だから漢方薬は安全と思い込まず、服用を始めるときには医師や薬剤師に相談してからにしましょう。
また、薬剤の中止や足りない電解質の補正を行えば即時に症状が消えるわけではなく、血中濃度自体が正常になっても、症状からの回復には時間がかかる場合があります。市販の健康食品やサプリメントなどでも、狙った効果と逆の効果が現れることもあるのです。
そこで、対策としては「こまめに採血検査を行うこと」「異常を感じたらすぐに医師に相談すること」「お薬手帳を作り、常に携帯しておくこと」「市販の薬剤やサプリメント、健康食品を摂取する場合は必ず医師に相談すること」が大切です。
電解質異常は、診断で確定することが難しいわりに、放置していると生命を脅かしかねないという病状です。そこで、例えば夏場や高齢者に起こりやすい低ナトリウム血症などは、ぜひ経口補水液などで早めに対処しましょう。
また、薬剤や疾患によって起こりやすい電解質異常の場合、自己判断で市販薬や健康食品などを使わず、必ず医師や薬剤師などの専門家に相談してから使うようにしましょう。