記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
2019/8/16
記事監修医師
MYメディカルクリニック横浜みなとみらい 院長 東京大学医学部卒 医学博士日本呼吸器学会認定呼吸器専門医日本内科学会認定総合内科専門医人間ドック学会認定医難病指定医Member of American College of Physicians
山本 康博 先生
めまいとは、目の前が真っ暗になったり、ぐるぐると周囲の景色が回っているように感じたりする体の症状のことを言います。突然立ち上がったり、貧血を起こしたときなどによく起こりやすいことから、女性に多い疾患と考えられています。
そんなめまいの中に「良性発作性頭位めまい症」という疾患があります。「良性」という言葉のとおり恐ろしい疾患ではありませんが、よく起こりやすいので、ぜひ症状や対処法を知っておきましょう。
良性発作性頭位めまい症とは、内耳に何らかの障害が起こって生じるめまいのひとつです。内耳とは耳を外側から外耳・中耳・内耳と分けたときのもっとも内側の部分で、聴覚と平衡(バランス)感覚の情報を電気信号に変換して脳に送る働きがあります。このため、体を動かしていないのに内耳から「動いている」という信号が送られたり、内耳の信号と目や筋肉からの信号が一致しないとき、めまいが生じます。
良性発作性頭位めまい症は長時間続くものではなく、10~20秒程度の比較的短い時間でおさまり、生命の危険もなく、後遺症も残りません。
長時間、頭を動かさず同じ姿勢でいるとなりやすいので、主にデスクワークなど、頭を動かさずじっと同じ姿勢が続く人に多いめまいです。実際、耳鼻科で良性発作性頭位めまい症と診断される人の約50%がデスクワークの方であることもわかっています。また、睡眠時の枕が低い方や、寝返りの回数が少ない方も、このめまいを発症しやすいと考えられています。
性別では男性よりも女性の方が多いですが、これは生活の中で頭を動かすことが多いか少ないかによるものです。例えば、デスクワークは男性よりも女性の率が高いですから、全体としても女性の発症率が高いと言えます。男性と女性の体のつくりの差によって発症率が変わるものではありません。
良性発作性頭位めまい症を発症すると、以下のような症状が現れます。
良性発作性頭位めまい症が起こりやすいのは、「寝ている状態から起き上がる」「急に後ろを振り向く」「急に上を向く」など、じっとしている姿勢から急激に頭を動かしたときです。現れる症状にはさまざまなパターンがありますが、内耳にある「卵形嚢(らんけいのう)」と呼ばれる垂直方向を完治する器官と、その中にある耳石(じせき、炭酸カルシウムでできている)の動きによって異なるとされています。
では、そもそもこうした症状が起こる原因、その仕組みはどんなものなのでしょうか。
まず、内耳には音を感じる「蝸牛(かぎゅう)」と、頭の位置を感じる「前庭」があります。そして、前庭はさらに「半規管」と「耳石器」の2つに分けられます。「半規管(三半規管)」には前・後・外側の3つがあり、それぞれx軸、y軸、z軸のように90度ずつの角度をなして三次元的にそれぞれの軸方向への回転を感じ取っています。
蝸牛も前庭もリンパ液(※体内のリンパ系とはつながっていない)で満たされ、頭が動くと半規管内のリンパ液が動きます。この中には「クプラ」というゼラチン状の物質があり、リンパの流れが起こるとこのクプラが傾き、その情報を脳へ伝えます。一方、耳石器には「球形嚢」と「卵形嚢」の2つがあり、それぞれ水平面と垂直面に近く位置していて、それぞれの方向へどんな速度で動いているかを感知しています。
耳石器には炭酸カルシウムの結晶である「耳石」が多数くっついていて、リンパの流れや重力によって耳石が動くと、それが回転や移動など動きの情報として脳に伝わります。前庭から伝わったこれらの情報に合わせて、私たちは眼の動きや姿勢などの調整を行っているのです。
さて、この耳石は通常、耳石器にくっついているのですが、常に代謝しているため、ふとした瞬間に古い耳石が剥がれ落ちます。これは浮遊耳石と呼ばれ、何かの拍子に半規管の中に入り込んでしまうことがあります。すると、半規管内部のリンパ液に流れが生じ、実際には頭が動いていないのに「動いている」という情報が脳に伝わります。こうして良性発作性頭位めまい症が起こります。
浮遊耳石が半規管のどこに入り込むか、また、入り込んだ後どのように動くかによって、めまいを誘発する動きやめまいの継続時間が変わります。もっとも入り込みやすいのは後半規管で、横たわっているときには後半規管が卵形嚢よりも低くなることによります。次に入り込みやすいのは外側半規管で、横たわっても立っていても卵形嚢よりも高い位置に来る前半規管にはほとんど入り込みません。
高齢者ではとくに耳石が剥がれやすいため、このめまいも起こりやすくなります。また、中耳炎など他の耳の疾患がある場合にもなりやすく、再発もしやすいです。とはいえ、生命の危険や後遺症は残らないため、すぐに治るタイプの良性発作性頭位めまい症は放っておいても大丈夫です。ただし、頭痛や吐き気が強く出る場合は念のために画像診断が必要ですので、1分以内に頭痛や吐き気が治まらない場合は病院を受診しましょう。
良性発作性頭位めまい症は、後遺症が残る疾患ではなく、また、長くても数十秒程度で治まることが多いため、自然に治るのを放っておいても良いのですが、吐き気や頭痛が長引く場合はそれぞれの症状を抑えるような薬物療法のほか、剥がれ落ちた浮遊耳石を卵形嚢の方向に戻すため、以下のような理学療法を行うことがあります。
これらの治療を行ってもなかなか治らない場合は、ごくまれに手術療法が行われることもあります。
良性発作性頭位めまい症が起こった後、しばらくは発症した側の耳を下にして寝ないようにしましょう。また、ベッドから起きるときはゆっくり起きて、しばらく座った状態を保ち、ゆっくり起き上がるようにします。さらに、しゃがんでものを取るなど、頭を下げるような仕草はできるだけ避けた方が良いでしょう。
再発率は1年間で30%、5年間で50%と、再発率の高い疾患です。とくに、骨粗鬆症・高脂血症などの基礎疾患がある場合は再発率が高いことがわかっていて、手術が必要な難治性になることも多いです。そのため、基礎疾患がある場合はまずその治療を行いましょう。
良性発作性頭位めまい症は、「良性」という言葉どおり、生命を脅かしたり後遺症が残るような疾患ではありません。目が回る、浮遊感、吐き気などの症状が現れますが、たいていは10~20秒程度で自然に治ります。
なかなか治らない場合、理学療法で耳石を元の位置に戻したり、薬物療法で症状を軽減することもあります。難治性になると手術で治療することもありますが、手術が必要になるのはごくまれです。